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CD本『全国の山・天狗ばなし』(05)
【とよだ 時】

 CD本目次
(イラスト本ではありません)

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山梨県七面山・レイラインと七面天女と天狗

【略文】
七面山は日蓮宗の総本山・身延山の奥の院。春秋の彼岸には太陽の
光が上総一ノ宮神社から出雲大社までを結ぶというレイライン。山
名は主神の七面天女から「鬼門の一方を閉じて七面を開く」という
意味だそうです。この山には七面山伽藍坊という天狗がいることに
なっています。
・山梨県早川町ですが、山頂付近は身延町の飛び地。

山梨県七面山・レイラインと七面天女と天狗


【本文】(ちょっと長いです)

 七面山は日蓮宗の山岳信仰の聖地として有名な山。日蓮宗の総本

山・身延山の奥の院とも呼ばれています。この山ははじめ、真言宗

の七面山修験によって開かれたといいます。のちに日蓮の弟子であ

る日朗によって日蓮宗に改められ、いまのような大伽藍(寺院など

の建物)が建立されるまでに発展したもの。



 山名の由来は、主神の七面天女から「鬼門の一方を閉じて七面を

開く」という意だそうです。別名をナナイタガレともいい、山全体

に崩壊が見られます。とくに山頂の東斜面にはオオガレと呼ばれる

大崩壊があり、いまも崩壊が続いています。



 ちなみにナナイタガレの意味は、「ガレ」が斜面の崩壊部指す地

形語で、「ナナ・イタ」も同じく斜面や崖を意味するといわれます。

ナナイタナガレの大崩壊地の縁を通って三角点のある広い山頂につ

きますが、ウラジロモミなどの若木に囲まれて展望はイマイチです。



 北斜面には七面山ゴヨウツツジが群生し、山頂近くは県の自然保

存地区に指定されています。山頂付近には、敬慎院(身延山久遠寺

管轄のお堂)があり、この辺一帯は隣の山梨県身延町の飛び地にな

っているとか。



 参道が登山道になっていて、あいさつは「こんにちは」ではなく

「ご苦労さま」。ゴミがひとつ落ちていなく、なんとなく神聖な気

持ちです。身延山久遠寺に参拝した人たちは、七面山敬慎院におこ

もりして境内にある七面社本殿近くの富士山のご見晴台でご来光を

拝んで下山します。



 身延山はかつて日蓮が弟子たちとともに修行生活を送った地で

す。また、日蓮が弘安5年(1274)に没する際、「いずくに死候と

も、はかをばみのぶのさわにせさせ候べく候」という遺言。それに

従って遺骨を埋葬した場所でもあります。



 この山には伝説も多い。佐渡に流刑された日蓮聖人が、1274年

(文久11)、前年幕府から宥免された日朗とともに、身延の地に庵

を結び、説法をして歩いていました。身延の谷間の奧に大きな岩が

そびえ立っています。日蓮は、いつもこの岩に腰を掛け、弟子や檀

家に説法していました。そのため、のちにこの岩を法話石と呼んで

います。



 ある時、この説法の座に20歳くらいの美女がやってきて、日蓮

に寄り添うようにしていろいろと世話をしています。それを見て人

々は不審がりました。それを見た日蓮は、女性に向かって「本形に

復せんや」(正体を見せてあげなさい)といって華瓶の水を与えた

ました。



 すると美女はたちまちに3mあまりもある毒蛇の姿をあらわしま

した。やがてこの毒蛇は、「仏勅を蒙り護法神とならん、永く、此

山をして水火兵革之難有之事無く、其衆生一乗を信受して無上菩提

に回向する事有之者は、其所願皆如意吉祥を得せしめん」。



 つまり、(自分は仏勅を蒙って護法の神になるもの)「身延山に水

火兵革の難がないようにし、一乗の法華経を信受する者には、その

願うことを意のごとく叶えること」を誓うと、風になって七面山へ

去っていったというのです。



 これが本地(本当の姿)が吉祥天女だとする七面天女なのだそう

です。七面大明神ともいわれる法華経と日蓮宗の守護神です。以来、

七面山は法華経の聖地となったといわれています。



 この七面天女が七面山の山名の由来とかで、江戸時代の甲斐の地

誌『甲斐国志』(巻之五十一)に、「所(レ)謂七面山ハナヽイタガ

レノ山トモミユ <(※2行書き)痛ク虧(かけ)タル処有(二)

七所(一)トイフ名ナルベシ> 七面明神(七面天女とも)ヲ祀リ

遂ニ山名トナル…」と記載されています。



 また『日蓮上人御伝記』という書物には、「七面山は身延のたけ

の西、はるき川の上にあり、吉祥天のあとをたれ、大明神とあらは

れ給ひし所也。此の山鬼門をふさぎて七面をひらく、ゆゑに名付け

たり。金輪際よりわき出でて黄金の地なりといいつたふ。いただき

に池あり、八功徳水をすまし、五色の雲つねにたなびけり、其のけ

はしき事鳥もかけりがたく、鹿もわたりがたし」と記されています。



 また敬慎院(七面山本社)の随身門前は、春秋の彼岸に富士山か

ら富士山頂からのご来光を拝める場所として知られています。ご来

光は随身門から本堂に安置されている七面大明神にさし込むとい

う。これは、随身門と本殿と富士山頂が、日の出の位置と直線上に

あるために見られる現象で、計算されて配置されているというので

す。



 さらには、富士山と七面山とを結ぶラインを東に延長すると、千

葉県の上総一ノ宮神社に行きつくという。また西にのばすと、琵琶

湖の上を通って島根県の出雲大社までを結ぶレイラインが浮かぶと

いう。



 早い話が千葉県の上総一ノ宮から昇った太陽の光が、富士山の上

を通り七面山の山頂に届き、さらに琵琶湖の上から出雲へと届くと

いうのですから驚きます。



 お話し変わって、この七面山にも天狗がいることになっています。

この天狗はある時、身延山積善流の祈祷師である満行院日順が、七

面山千日参籠の荒行を修した際、天狗伽藍坊の姿を感得します。そ

の影像を彫刻させ、山内蓮華坊の一角に小さなお堂を建てて像を安

置したのがはじめだといわれています。



 七面山伽藍坊といい、天狗の像はいま、故あって身延の神力坊に

まつられています。天狗像は、身延積善流の祈祷師・清行院日順の

発願で、江戸時代の初期からまつられはじめたという。伽藍坊の像

はふつうの天狗のように鼻が高くありません。嘴(くちばし)もと

がっておらず、翼もありません。



 そして右側に1匹の鹿を従えています。姿も怪異な天狗面ではな

く、白髪の老人が岩に腰かけて、右手に杖を持ち、左手に数珠、足

には双歯(一本歯ではない)の高下駄をはいた、柔和な位の高いお

坊さんのようだという珍しい天狗。とのことですが、参考文献にあ

る天狗像の写真は、大あぐらをかいた鼻と大きな口、ゲジゲジ眉毛

に何時手入れしたのか分からない堅そうなヒゲで、何ともすごい。


 しかし、その威力はものすごいという。伽藍坊天狗は日蓮が亡く

なった後、山を下って身延に住み止まり、身延山の道者、行者たち

を守る役目を自ら買って出たということです。



 さて、七面山もかつては女人禁制でした。それを解いたのは、徳

川家康の側室であった養珠院(ようじゅいん)お万であったといわ

れ、お万が滝にうたれて禁制を解いたと伝えられています。いまも

登山口、春木川支流の白糸の滝にはお万の方の像が建っています。



 その春木川は、フォッサマグマの西縁を走る「糸魚川静岡構造線」

と呼ばれる大断層が通っているというのです。春木川の西側の七面

山や静岡県・安倍側奧の八紘嶺などの3000万年以上前の古い地層

で出来ており、一方、川の東側の身延山側は2000万年から900万

年前の比較的新しい地層なのだそうです。



 ところで、山頂付近には直径150mくらいの「一の池」があり、

そばに七面天女をまつる七面社(池大社)が建てられています。ま

た山中には7つの池があり、第7の池を見ると目がつぶれるとの伝

説もあります。

 こんな守護神七面天女の話なのですが、室町時代に編纂された日

蓮伝として有名な日朝の『元祖化導記』や、日澄の『日蓮聖人註画

賛』には見えないというから困ったものです。また「七面山神祠記」

のように七面天女の出現に疑問をはさむ書もあるというのです。



 これはもともとふもと雨畑(あめはた)村の村民が建てた社があ

ったところに、身延山が七面天女を勧請したのだとの説もあるので

す。そして身延山久遠寺の力が強大で次々と諸堂の整備、大伽藍を

建設していき、次第にに身延山久遠寺に取り込まれたものらしいの

です。



 話は飛びますが、山頂の飛び地についてはこんな事情があるのだ

そうです。江戸時代前期の1651年(慶安4)に、山ろくの雨畑村

と赤沢村の間で村争いがおきました。山頂の所有権についての境界

争いです。



 すったもんだの末、結局、山ろく9ヶ村の名主連名で久遠寺所有

を約する手形を出すことになりました。それがいまのような山頂の

三角点から北東の敬慎院・影響石(ようごうせき)にかけての地域

が久遠寺の支配下にするということだったそうです。




▼七面山【データ】
【所在地】
・山梨県南巨摩郡早川町(はやかわちょう)にあるが、山頂付近が
身延町の飛び地になっている。JR身延線身延駅の西9キロ。JR
身延線身延駅からバス、七面山登山口停留所下車、さらに歩いて5
時間で七面山。二等三角点(1983.1m)と、写真測量による標高点
(1989m)がある。
【位置】
・七面山標高点:北緯35度22分9.09秒、東経138度20分56.07

・七面山二等三角点:北緯35度22分13.52秒、東経138度21分
1.87秒
【地図】
・2万5千分1地形図名:七面山

▼【参考文献】
・『甲斐国志・2』(松平定能編集)1814(文化11年):(「大
日本地誌大系・45」(雄山閣)1973年(昭和48)
・『角川日本地名大辞典19・山梨』竹内理三編(角川書店)1991年
(平成3)
・『山岳宗教史研究叢書9・富士・御嶽と中部霊山』鈴木昭英編(名
著出版)1978年(昭和53)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和52)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本歴史地名大系19・山梨県の地名』(平凡社)1995年(平成
7)
・『山梨の謎・地理・地名・地図』平山優(実業之日本社)2015年
(平成27)



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