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『全国の山・天狗ばなし』(02)
【とよだ 時】

 CD本目次
(イラスト本ではありません)

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奈良葛城山系・大峰山へ向かって架けた空中の岩橋

【略文】
醜い姿の鬼神だという一言主の神。夜だけ働いたため、
葛城・金峰山間の岩橋が出来ず、怒った役ノ行者に呪縛
されたと伝承されます。それを恨んだ一言主の神は文武
天皇に告げ口。天皇は役ノ行者を伊豆の大島に島流しし
たという。その跡が岩橋山に残る久米の岩橋だという。
・奈良県葛城市と大阪府河南町との境

▼奈良葛城山系・大峰山へ向かって架けた空中の岩橋

【本文】
 奈良県と大阪府の境の葛城山で修行していた役ノ行者
(小角)は、吉野金峰山から大峰山にも峰入りするよう
になります。


 すると一般の人たちも行者を見習って葛城山と吉野金
峰山の2大聖地を目指して信仰登山をするようになりま
した。役ノ行者は空を飛び両聖地を行ったりきたりする
のは苦ではありませんが、普通の人が両方の山を往復す
るのは並大抵ではありません。


 そこで、行者は民衆が楽に両山を行き来できるよう、
葛城山と金峰山の間の空中に岩の橋をかけてみんなを渡
ってもらおうと岩橋建造を計画します(『今昔物語集』
第十一巻、役の優婆塞呪を誦持して鬼神を駆る語第三)。


 早速人夫として全国から天狗や鬼神を集めるため、従
者の前鬼後鬼を派遣しました。すでに偉大な力を持って
いた役小角行者の言づてにはさすがの天狗・鬼神も逆ら
えず、渋々集まってきて早速突貫工事がはじまります。


 鬼神たちは「自分たちは姿が見苦しいので仕事は夜だ
けにしたい」と言い出しました。すると行者は働かされ
ていた鬼神たちの中のひとり一言主神(ひとことぬしの
かみ)を呼びつけ「なぜそんなことで一々、恥ずかしが
るのか」となじります。


 すると「そのくらいのことが分かってくれないのなら、
もうこんな仕事はできません」と持っていた岩などを乗
せたもっこを投げだします。


 怒った行者は一言主の神を捕まえ、葛の蔓で七まわり
縛って呪縛し、谷底に置き去りにしました。それを恨ん
だ一言主神は都人(みやこびと)の魂に入り込み、京の
町に「行者が世の中を混乱させようとしている」とのう
わさをふりまきました。


 うわさを耳にした朝廷は、慌てに慌てて行者を捕まえ
ようとします。しかし、行者は空を飛ぶため思うように
いきませんでしたが、行者の親孝行を利用し母親を捕ら
えて、やっと従わせ伊豆の大島に流すことができたとい
う。


 そのため吉野金峰山への岩橋建設計画は中断してしま
ったという。その時の作りかけ途中のあとが大和葛城山
近くの岩橋山にある「久米の岩橋」(大阪府河南町側)
だというのです。


 そこには付近にはない大岩が橋の基礎らしく金峰山方
向に築いてあります。しかし、なんとも乱暴な積み方で
はありませんか。思わず笑ってしまいました。


 この話は「今昔物語」第十一巻、第三や、そのほかの
古書に載っている物語です。なお、中里龍雄という人は、
「役ノ行者の大峰伝説・上」(「旅と伝説」)のなかで岩
橋は大峰山の山上ヶ岳「西の覗き」付近から金剛山方面
へ駆けようとしたのだとしています。
・奈良県当麻町と大阪府河南町との境


▼岩橋山【データ】
【所在地】
・奈良県葛城市(旧北葛城郡当麻町)と大阪府南河内郡
河南町との境 近鉄南大阪線尺土駅から歩いて2時間30
分で岩橋山。三等三角点(標高658.8m)がある。

【位置】
・三等三角点:34度29分36秒、東経135度40分45.2秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「御所(和歌山)」


▼【参考】
・『役ノ行者御伝記』広安恭寿著(藤井文政堂刊)1908
年(明治41)
・『役行者伝記集成』銭谷武平(東方出版)1994年(平
成6)
・『今昔物語集』:日本古典文学全集21『今昔物語集』
校注・馬淵和夫ほか(小学館)1995年(平成7)
・『図聚天狗列伝・西日本篇』知切光歳著(三樹書房)
1977年(昭和52)
・「旅と伝説」1928年(昭和3)5月号(三元社):「民
俗学資料集成・第1巻」収納


▼CDブック全国の山・天狗ばなし から引用しました。
ご希望の方にお分けしています。

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・名のある人の恥知らず、名も無きわれら恥を知る。
・酒を飲むのは時間の無駄、飲まないのは人生の無駄。