▼雑学・山の伝承ばなし
本文のページ(09)
【とよだ時】(豊田時男)
……………………………………
▼富士山・一合、二合と数えるわけ
【本文】
ヤマ屋と称する人たちにとっては、富士山は登山の対
象ではないようですが、それでも富士山は、ほかの山に
くらべてダントツに高い山。いにしえから歌に詠まれ、
絵に描かれ、伝説に彩られる日本一の山なのかも知れま
せん。
その富士山の高さを一合、二合と数えますよね。なん
とも不思議なことだとは思いませんか。ふつう五合目ま
でクルマで登ってしまいますが、いまでも一合目から登
れる道はちゃんと残っています。
富士山の出現については、孝霊天皇の時代説、雄略天
皇時代説などありますが、これもそのひとつの説です。
「富士山縁起」(室町時代の古書の筆写本で、富士宮市
村山の浅間神社宝物館に所蔵していた巻物)によれば、
第6代孝安天皇92年というから、『日本書紀』の記述か
ら西暦になおすと、紀元前301年の6月にあたります。
ある日、富士山が突然あらわれたというのです。初め
は雲霞が飛び来たって、穀物のように聚(あつ)まり、
穀物を盛ったような形にできあがりました。そのため富
士山の異名を穀聚山(こくじゅせん)というのだそうで
す。
またその高さを計るのは、穀物を計る単位を使い、富
士山頂の高さを一斗と見なし、下から一合、二合、三合
……と数え、それぞれ地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・
天上・声聞(しょうもん)・縁覚(えんがく)・菩薩・
仏の十界を説いているのだとか。
そして一、二合は十佳の因果、三、四合は十行の因果、
五、六合は十回向の因果、七、八合は十地の因果、九,
十合は等覚位の因果をあらわしているのだそうです。な
んともむずかしい話に迷い込んでしまいました。
ところで、富士山の名前については「天地の富を士(つ
かさどる)故に富士山と号し、郡名と作(な)す」のだ
そうです。また『竹取物語』には、山名の由来について、
こんなことも書いてあります。
天人たちに、迎えにこられたかぐや姫は、月に帰りま
した。竹取の翁(おきな)と媼(おうな)はなげきます。
帝(みかど)も、かぐや姫から別れの手紙と不死の薬を
受け取りました。
そして同じように「姫に再び会われぬゆえに、悲し涙
に浮かぶわが身には、不死の薬が何の役に立とうか。い
まさら不要なことだ……」と嘆きました。
そして手紙と不死の薬を、天に一番近い富士山の頂上
で、燃やすよう命令します。天皇の使いは、兵士たちを
大勢引き連れて、富士山に登りました。この時、大勢で
登ったので「士に富む山」から「富士山」と名づけたと
いいます。そして、不死の薬と手紙を燃やした煙は、い
まも絶えることがなく、雲の中になお立ち昇っているの
だそうです。
▼富士山頂【データ】
【所在地】富士山頂
・山梨県富士吉田市、南都留郡鳴沢村と静岡県富士宮市、
富士市、御殿場市・静岡県駿東郡小山町との境だが、八
合目付近から上部は富士山本宮浅間大社の「私有地」に
なっており、境界がはっきりしていない。富士急行河口
湖駅からバス、河口湖口五合目から5時間30分で富士山
頂。
【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第72番に選定):日本
二百名山、日本三百名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(第69
番に選定)
・山梨県選定「山梨百名山」(第100番に選定)
【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」)
・剣ヶ峰の電子基準点:北緯35度21分38.75秒、東経138
度43分38.3秒
・剣ヶ峰電子基準点のすぐ南の三角点:北緯35度21分3
8.26秒、東経138度43分38.52秒
・白山岳の三角点:北緯35度22分0.02秒、東経138度43
分46.43秒
・火口内の標高点:北緯35度21分46.53秒、東経138度43
分53.27秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「富士山(甲府)」
▼【参考文献】
・『竹取物語』:(日本古典文学大系9)『竹取物語・伊
勢物語・大和物語』(岩波書店)1988年(昭和63)
・『日本山岳風土記3』(宝文館)1960年(昭和35)
・『山岳宗教史研究叢書17』(修験道史料集1・東日本
編)五来重編(名著出版)1983年(昭和58):富士山縁
起
・『本朝神社考』(中巻)林羅山著(『日本庶民生活史料
集成・第26巻』神社縁起(三一書房)1986年(昭和61)
……………………………………
……【広告】…(ご希望の方にお譲りしています)
▼【おもしろ山と田園の本】
・01『新・丹沢山ものがたり』山と渓谷社刊の続編。
・02『日本百名山の伝承神話』百名山の神話伝説
・03『全国の山・天狗ばなし』山の妖怪天狗とはなんだ?
・04『山の神々いらすと紀行』東京新聞出版局(旧岳人)刊を焼きこみました。
・05『続・山の神々いらすと紀行』東京新聞出版局(旧岳人)刊の続編。
・06『ふるさとの神々何でも事典』いなかの神さまたち
・07『続・ふるさとの神々何でも事典』旧富民協会の続編。
・08『家庭行事なんでも事典』大切にしたい家庭の行事
・09『健康(クスリになる)野菜と果物』主婦と生活社刊を改題
・10『ひとの一生なんでも事典』何のためにある通過儀礼
・11『ふるさと祭事記(歳時記)』なつかしいふるさとの行事
・12『野の本・山の本』「子供の科学」誌連載をまとめて出版
▼その他CD【おもしろ山と田園の本】
…………………………
▼山と渓谷社刊『日本百霊山』漫遊・漫筆(紙書籍・電子書籍)
神仏、精霊、天狗や怪異と出会う山旅。山の知識をもう一つアップ。
★ヤマケイ『日本百霊山』ホームページ
https://www.yamakei.co.jp/products/2816120561.html

山の伝説伝承神話が満載の本
|