▼山の軽口ばなし
説明本文のページ(02)
【とよだ時】(豊田時男)
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▼木曽駒・御嶽山ろく、浦島太郎最終の地
▼木曽駒・御嶽山ろく、浦島太郎最終の地
【説明本文】
中央アルプス木曽駒ヶ岳(2956m)
と木曽御嶽山麓の長野県木曽郡上松町
寝覚地区の木曽川河原に「寝覚ノ床」
という所があります。ここにはどうい
う分けか浦島太郎の伝説があるという
のです。1930年(昭和5)刊行の「山
の伝説」(青木純二)によれば、ここが
浦島太郎が玉手箱を開けたところだと
いうのです。
竜宮城へ婿入りした太郎は「月日の
経つのも夢のうち」でしたが、ある時
遠くからかすかに聞こえてきた鶏の鳴
き声ににわかに故郷の父母や友だちを
思い出しました。そこで浦島は乙姫の
父王に帰国を願い出ました。「夫婦そろ
ってなら里へ参るがよかろう」との言
葉に喜んだ浦島と乙姫は、新道をたど
りふるさとに急ぎました。
やがて浦島は生まれた里と似ても似
つかない深山幽谷の川辺にたどり着い
たのでした。乙姫は、谷川の流れ、咲
き乱れる草花、小鳥がほがらかなさえ
ずり、やわらかにしっとりと吹く風に、
喜んでいます。しかし月日が経ち乙姫
が土地になれるに従い、浦島は乙姫に
対する態度がつれなくなり、言葉も荒
々しくなっていきました。
二人は次第にけんかもするようにな
り、怒った乙姫は竜宮城に帰ってしま
いました。仕方なく竜宮城に迎えに行
った浦島は、乙姫を連れ戻すと、乙姫
が竜宮城へ帰る近道を大石でふさいで
しまいました。さあ怒ったのは乙姫さ
ま。こんどは浦島が竜宮から帰ってき
た穴に、呪文を唱えて水がふき出るよ
うにしてしまったのです。
そして「私はこれでおいとまします」
というが早いか、紫の煙となって浦島
がふさいだ大石の裂け目から吸い込ま
れるように消え、竜宮城へ帰ってしま
いました。驚いた浦島は、乙姫の名を
呼びながら泣き叫んだが姫の姿は帰っ
てきません。浦島はなお乙姫が恋しく
谷川を歩き回りました。
そんな時、ふと岩陰に乙姫が持って
いた玉手箱を見つけました。喜んだ浦
島は思わず玉手箱のふたを開けてしま
いました。玉手箱から立ちのぼった紫
の煙が顔を覆ったせつな、浦島太郎は
たちまち6百余歳の老人と変わり果て
ていたのです。
竜宮城の華やかな夢からいま覚めた
浦島太郎。そこにささやかな庵を結び
若き日の想い出にふけりながら孤独に
余生を送ったということです。浦島太
郎が現世に目覚めた場所、それがここ
木曽の「寝覚ノ床」だったというわけ
です。
また、江戸時代後期の天明8年(178
8)、京都の大火で炎上した東本願寺の
再建のため、浜松の齢松寺の僧侶が遠
山に材木を探し求め伐り出した時、い
ろいろな不思議なことにあったことを
記したという「遠山奇談」(浄林坊辨惠
著)にも「寝覚ノ床」のことが載って
います。
「阿倍末の寝覚ノ床は土俗傳へて浦
島太郎が住ける地なりといひ、また三
帰翁となんいへる隠者の住みける処と
もいふ。……三帰翁は私に思ふに三喜
翁にあらすや。「雍州府志」に寛政年中
武蔵国河越に……(漢文で三喜翁につ
いて説明)……。
此人の乱世を厭ひてこの深山の中に
かくれ終はられしも知るべからず。今
みかへり翁と唱ふるは、三喜を三帰と
なし……。再按するに、三喜翁を土人
推して神仙となし、これを假稱して浦
島なと呼たりしを、遂に此兩人を住せ
しとあやまり傅へしにあらずや」とあ
ります。
ガスで寒かった木曽駒ヶ岳山頂から
逃げるように木曽側に下山し途中で一
泊。翌日上松町は一転し真夏の炎天下。
寝覚ノ床を散策します。大岩の上に、
浦島太郎が弁財天像を残したといわれ
ている浦島堂が建っています。
太陽に焼けていたたまれないような
花崗岩の間を歩くと頭がクラクラしま
す。寝覚ノ床美術公園の日影で寝転が
ります。そうだこれから南木曾駅まで
南下。南木曾岳に行かねばなりません。
早々に引き上げ上松駅に向かいました。
それにしても暑い。
▼寝覚ノ床【データ】
★【所在地】
・長野県木曽郡上松町。JR中央線上
松駅からバス10分で寝覚ノ床。神社の
祠と近くに記念公園がある。
★【位置】国土地理院「電子国土ポータ
ルWebシステム」から検索
・緯度経度:北緯35度46分21.05秒、東
経137度41分57.23秒
★【地図】
・2万5千分の1地形図「上松(飯田)」
▼【参考文献】
・『遠山奇談」華誘居士:「日本庶民生
活史料集成16・奇談奇聞」編集委員代
表・谷川健一(三一書房)1989年(平
成元):
・『御伽草子集』:日本古典文学全集「御
伽草子」(校注・訳大島建彦)(小学館)
1974(昭和49)年
・『日本伝説大系8・北近畿』(滋賀・
京都・兵庫)福田晃ほか(みずうみ書房)
1988年(昭和63)
・『本朝神仙伝』大江匡房:「日本古典
全書・古本説話集」川口久雄校注(朝日
新聞社)1971年(昭和46)
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