山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼841号 「山の花・ヤマトリカブト」

秋の山でよく見かける青紫色の花のヤマトリカブト。トリブトは
鳥兜。花の形が烏帽子のようなのでついた名。トリカブトにも性
格がありサンヨウブシのように毒のない種もあり、同じ種でも地
方により毒の力に違いがあるという。ホソバトリカブト、ナンタ
イブシ、タカネトリカブトなどのように高山植物もある。
・キンポウゲ科トリカブト属の多年草

▼841号 「山の花・ヤマトリカブト」

【本文】
秋、山歩きなどで低山の山道を歩いていると、林の縁や草原に青
紫色をしたヤマトリカブトの花を見かけます。有毒で悪名?高い
あのトリカブトの山地に生える種類です。

トリブト(鳥兜)は花の形が烏帽子のようなのでつけられた名。
草全体に毒がありますがとくに根に多く含んでいるという。天然
の毒としてはフグの毒につぐといわれ、植物のなかではもっとも強
いという。茎の高さ30cmから2mくらい。真っ直ぐか斜めに立
ち上がります。

葉は長さ5〜18cmで、3つに裂けています。花は8月から11月、
茎の先や葉腋から出た総状花序または散房花序につき、青紫色。
花柄には細かい曲がった毛が密生しています。

本州中部の太平洋側地域(日光から赤城山、東京都多摩地方から
愛知県東部)に分布。この亜種にツクバトリカブトがあり、関東
地方南部から東北地方に分布しているという。ヤマトリカブトは
北海道から本州中部地方以北に分布するオクトリカブトの変種だ
ともされる植物です。

突然ですが、狂言に「附子」というのがあります。主人が大事にし
ていた砂糖を、猛毒の「附子(ぶす)」だといいくるめ、隠してお
いたが太郎冠者(かじゃ)、次郎冠者(かじゃ)に見破られて食べ
られてしまうお話です。

この附子(ぶす)はトリカブトの中国名。それほど猛毒の代表格な
のだそうです。こんな恐ろしいトリカブトも、山歩きなどではごく
あたりまえに見られ、濃い紫色の花を咲かせて見せてくれています。

トリカブトはキンポウゲ科トリカブト属の仲間の総称で、さらに
トリカブト亜属、レイジンソウ亜属、ギムナコニトゥム亜属に別
れるそうです。ヤマトリカブトはトリカブト属トリカブト亜属に
属しているそうです。日本には30種のトリカブトがあり、なかで
もヤマトリカブトやホソバトリカブトなどがよく目にふれる仲間だ
そうです。

人間でもいろいろな性格があるように、トリカブトにもサンヨウブ
シのように毒のない種もあり、また毒のある同じ種でも、地方によ
って毒の力に違いがあるというから面白いものです。

これらの種類は葉の概形が丸っぽいか、五角形ぽいか、また花柄に
生える毛があるかないか、あれば屈毛か開出毛かなどで種を見分け
ることがでるそうです。

トリカブト類の根っこの塊は母根(ぼこん・烏頭:うず)と子根
(しこん・附子:ぶし)に分けるのだそうです。ヤマトリカブト
が属しているトリカブト亜種は、春、母根(烏頭)にある冬芽か
ら葉をだし、やがて茎が伸びて秋に花を咲かせます。

一方、春に母根から芽が吹くと短い地下茎が出て、その先に子根
(附子)が育ちはじめるという。日本産の種の大部分はこの地下
茎が短いため、子根と母根がくっついているように見えるという。

母根は秋に花を咲かせ、実を結ぶと枯れてしまいます。こうして
この種の1年の生活史が終わるという。だから母根を考えると、
その寿命は1年しかありません。その点からいうと「多年草」と
しているのは正確ではないそうです。

このような生活史をもつ植物は「疑似一年草」と呼ぶ(『植物の世
界)のだそうですから難しいものですね。

毒があるということは薬用植物でもあります。根っこの塊は「烏頭
(うず)」または「附子(ぶし)」に分けられ、漢方製剤の重要な原
料になるという。

漢方では根を附子(ぶし)または烏頭(うず)と呼ばれ、鎮痛や冷
え・虚脱状態を治す作用を利用して神経痛、リウマチ、激しい下痢、
新陳代謝衰弱、体温や血圧の下降などの治療に当てているそうです。

なお、余談ながら高山性のトリカブトは、ホソバトリカブト(南ア
ルプス、八ヶ岳、そして中央アルプスの北部の一角)、ヤチトリカ
ブト(北アルプス、妙高連峰の一角、越後山脈の一角)、ミヤマト
リカブト(日本海側)、キタザワブシ(太平洋側地域)、ハクバブシ
(日本海側の越後山脈)、その亜種リョウハクトリカブト(日本海
側両白山地)、ナンタイブシ(太平洋側日光山地)、タカネトリカブ
ト(太平洋側中央アルプス)があるそうです。
・キンポウゲ科トリカブト属の多年草

▼【参考文献】
・「野外における危険な生物」日本自然保護協会編集監修(思索社)
1988年(昭和63)
・「植物の世界8巻・92号」(週刊朝日百科)(朝日新聞社)1996年
(平成8)
・「世界の植物巻6・69号」(朝日新聞社)1977年(昭和52)
・「日本大百科全書・17」(小学館)1989年(平成1)
・「日本大百科全書・23」(小学館)1989年(平成1)
・「牧野新日本植物図鑑」牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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