山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼764号 「北八つ蓼科山の雷獣」

【概略】
八ヶ岳最北の蓼科山は不思議な伝説の多い山。そのひとつ、ここに
は落雷の時落ちて来る雷獣がいたという。江戸時代の「遠山奇談」
という本に死んだ雷獣を見つけた話が載っています。それによると、
体毛は針のようで、鳥のように口ばしがあり、尾は狐のようで鷲よ
りも爪が鋭かったそうです。
・長野県立科町と茅野市との境

▼764号 「北八つ蓼科山の雷獣」

【本文】
八ヶ岳の一番北にそびえる蓼科山(2530m)は、昔は立科山と書き、
高いところの井戸の意味の高井神社を祀ってあったという。

この山も不思議な伝説の多い山です。そのひとつ、この山には落雷
の時落ちて来る雷獣という獣がいたという。

江戸時代の寛政10年(1798)刊の「遠山奇談」という本に、「たて
しな山雷獣雷鳥の事」というお話があります。

「遠山奇談」は天明8年(1788)に炎上した京都東本願寺の再建の
ため、浜松の齢松寺の僧・浄林坊辨惠(筆名華誘)が遠山に材木を
探し求めに伐り出した時にであった、いろいろな不思議なことを記
したもの。

その中の一節、「さて又、此山に異獣あり。夏雷雨の起る時、小獣
嚴に、あらはれ雲を望み、飛で雲に入。其勢ひ、絲を引ごとく火を
顕し、數十疋須臾(しばらく)の間に、雲に飛入やいなや、夕立し
て雷鳴する。あるとし、何としたりけん、此小獣夕立のゝち、山よ
り死して流れいづるを、人こぞりて取あげ、みるに、かの獣なり。
しかも二疋(ひき)あり。大きさ小犬のごとくにて、灰色。毛松葉
の針のごとく、手をさへるに、いらつきて手掌痛し。頭長く鳥のご
とく成口ばしあり。嘴(くちばし)は半Kし。尾は狐のごとく、ふ
つさりとしたり。利爪(つめ)は鷲よりもたけく、深山大木などに、
爪の痕あるものは、決して是也」とあり、その爪の形から深山の大
木などに、爪の痕があるのはまさしくこの獣のものに違いないとし
ています。

また同書は土佐の国ではこの動物を捕まえて、雷汁という料理にし
て酒のさかなにして食ったこともあったという。また江州(滋賀県)
鏡の宿でもその獣を捕まえたときは見物人が市をなしたと書いてあ
ります。

この雷獣というのは、江戸時代の書物によく出てくる怪獣で1765年
(明和2)には丹沢の大山にも落ちたことがあるという。

▼蓼科山【データ】
山名:たてしなやま

★【異名・由来】
異名:立科山(たてしなやま)、諏訪富士(すわふじ)、高井山(た
かいやま)、飯盛山(いいもりやま)、位山(くらいやま)。

★【所在地】
長野県北佐久郡立科町と同県茅野市との境。JR中央線茅野駅から
バス・親湯入口から歩いて4時間30分で蓼科山。一等三角点(2530.
3m)と蓼科神社の奥宮がある。地形図に山名と三角点の標高、蓼
科山頂ヒュッテの記載あり。三角点より北東方78mに蓼科山頂ヒュ
ッテがある。

★【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第60番選定):日本二百名山、日
本三百名山にも含まれる。
・清水栄一選定「信州百名山」(第21番選定)
・田中澄江選定(1995年)「新・花の百名山」(第66 番選定)

★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
【蓼科山一等三角点】緯度経度:北緯36度06分13.42秒、東経138度
17分42.23秒

★【地図】
2万5千分の1地形図「蓼科山(長野)」。5万分の1地形図「長野
−蓼科山」

★【参考】
「遠山奇談」(浄林坊辨惠著)筆名華誘居士:「日本庶民生活史料集
成」第16巻(奇談・紀聞)(山一書房)1989年(平成元)
「日本未確認生物事典」笠間良彦(柏美術出版)1994年(平成6)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

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