山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼551号 「群馬県・榛名山と相馬山の天狗」

上毛三山のひとつ榛名山はには天狗話も多くある。古書に「鼻高き
僧形の者、手に独鈷を持てる者…」という天狗・満行坊(まんぎょ
うぼう)が住むと記す。満行坊が天狗になる前は、上野国西七郡の
領主・群馬(くるまの)太郎満行(みつゆき)だとの説もある。

【本文】

群馬県の榛名山(はるなさん)は、赤城山、妙義山とともに上毛三
山のひとつになっています。ここはツツジの名所にもなっています。
榛名山の榛名はもと椿名(はるな)と書いたそうです。ここも天狗
の伝承の多い山です。

昔上野の天狗と駿河の天狗が山造りの競争をしたという伝説があり
ます。上野の天狗はいまの榛名湖になったところを、また、駿河の
天狗は甲府盆地を堀り上げて富士山をつくったという。

この競争で、上野の天狗がもう「ひともっこ分」を積み上げれば富
士山と同じ高さになるところで夜が明けてしまい、負けということ
になってしまいました。そのため、榛名富士山麓の堀りあげた山を
「ひともっこ山」と呼んでいます。

榛名山には榛名山満行坊天狗が、その北西にある相馬山には相馬ヶ
岳相満坊天狗がいることになっています。この天狗たちは兄弟天狗
だそうです。榛名山の榛名神社はうしろの山を満行権現山と呼び、
山自体を神体とした農業神の榛名大明神をまつっています。

南北朝時代の説話集「神道集」(安居院作)という本には、「六宮は
春名満行権現、本地は地蔵菩薩である」とあり、榛名大明神は春名
満行(はるなまんぎょう)権現としています。この神はこの山の天
狗だとされ、榛名神社本殿にのぼる階段の上に像があります。

また、明治から大正、昭和にかけての牧師で民俗学者山中共古は『影
守雑記』という本の中で、満行坊の姿を描いた影像について「維新
以前に出でしものは、山の洞内に将軍地蔵、不動、毘沙門天三体あ
りて、鼻高き僧形の者、手の独鈷(とっこ)を持てるが着座せる図
なり。上に、上毛国(かみつけのくに)椿名満行宮大権現と記せり」
としています。

この中の将軍地蔵は京都愛宕山太郎坊天狗(日本第1の天狗)の化
身といわれるし、毘沙門天は夜の姿が同じく京都鞍馬寺の神格的天
狗の魔王大僧正だというといいます。そんなところから、まさに神
々に囲まれた「鼻高き僧形の」満行大権現こそ、榛名山の信徒たち
が信奉する榛名の大天狗であると、天狗の研究者知切光歳は『図聚
天狗列伝』のなかで力説しています。

この満行坊については上野国四十七郡の領主群馬太郎満行(くるま
のたろうみつゆき)だとする説もあるそうです(『辛科縁起・から
しなえんぎ』)。

さて、榛名山の北東にある相馬山には相馬ヶ岳相満坊という天狗が
いるという。相満坊は、その弟(あるいは三男)の群馬三郎相満(す
けみつ)のことだそうです(市古剛『前橋風土記』貞享元年(1684)
成立、前橋の風俗・社寺を記した地誌)。

一説には南部太郎光行、南部三郎祐光の兄弟天狗だという説もあり、
「南部光行祐光兄弟」と「群馬満行相満兄弟」の名が同じ「ミツユ
キ・スケミツ」でもありかなり混乱しているようです。

弟分の相馬ヶ岳相満坊は暴れん坊天狗として知られ、かってはここ
に登るには、十七日の潔斎してからでないと異変があるといわたそ
うです。先の『上野名跡志』には「相馬又総魔と書し」とも書いて
います。

明治の末、日本最後の仙人であり明治期の天狗使いといわれた、国
安普明の弟子が、相馬山に入り不思議な老人に出会ったという。下
山してから師匠にあれが相馬山の天狗だと教えられ、思い当たるふ
しがあったという話もあります。

相馬山頂には相満坊をまつる黒髪神社があって、わきの石仏群の筆
頭に相満坊天狗の化身相馬大神が口を「へ」の字に曲げて立ってい
ます。

▼榛名神社【データ】
【所在地】
・群馬県高崎市旧榛名町地区名(旧群馬郡榛名町)。JR高崎駅か
らバス・榛名神社入口、徒歩5分で榛名神社。地形図上には神社名
とそのすぐ南側に榛名神社の矢立スギの文字のみ記載。

【ご利益】
・榛名神社:開運招福・五穀豊穣

【位置】
・榛名神社:北緯36度27分31.44秒、東経138度51分08.07秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「榛名湖(長野)」

【参考】
・「神道集」安居院作(南北朝時代の説話集)
・『図聚天狗列伝・東日本編』知切光歳(三樹書房)1977年(昭和52)
・「古代山岳信仰遺跡の研究」大和久震平(名著出版)1990年(平成2)
・「天狗の研究」知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・「日本歴史地名大系10・群馬」(平凡社)1987年(昭和62)

山と田園の画文ライター
ゆ-もぁイラストレーター
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