山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼451号 「東北・早池峰山盗人を助ける神」

【略文】
よその田んぼから種籾を盗んでまいた糯米。見つかりそうになった
男は早池峰神社に願をかけた。糯米は一晩の内にうるち米になって
何とかごまかせた。早池峰の女神は盗みを働いた者にまでご加護し
てくださると、いよいよ信仰する人が多くなったという。
・岩手県遠野市

▼451号 「東北・早池峰山盗人を助ける神」

【本文】
高山植物の宝庫・岩手県の早池峰山(1914m)のふもとには不思議
な話が多い。昔、附馬牛(つきもうし)村(いまの遠野市附馬牛地
区)の男が、伊勢神宮参りに行きました。

その帰り、アラミ(北上市方面の古い名)の国を通った時、田んぼ
によく実った稲がありました。男は穂を手でしごいて懐に入れて帰
りました。

翌年その籾を播いて育てたところ糯(もち)稲になりました。次の
年、田植えをし、苗は青々と育ちました。

ところがある日、アラミの人たちが早池峰神社にお参りにきて、田
んぼの稲を見て「これはおれの家の種だ。一目で分かる。盗んでま
いたに違いない。品種は糯(もち)だろ」。

氏子はあわてて「いや違う。これは粳(うるち)だ」と言い張りま
した。北上の人は、秋に穂が出たころ見にきて訴え出る、といって
帰りました。

盗んだ氏子は困り、早池峰の神社に願をかけ、早池峰山に登って祈
り続けました。

秋になり、アラミの人がやってきて穂の出た稲を見せろという。氏
子はおどおどしながらあとについていきました。そして実った稲穂
を調べると、きのうまで糯稲だったものが、どれも毛の長い粳米に
なっていました。

アラミの人は詫び言をいいながら逃げるように帰って行きました。
「これは早池峰山の神さまが助けてくれたに違いない」と村中で大
喜び。

この米がいま生出糯(おいでもち・大出糯)と呼ばれる粳(うるち)
のように見える糯米の品種だそうです。

それからというものお山の女神さまは盗みを働いた者にまでご加護
してくださると、いよいよ信仰する人が多くなったという。「遠野
物語拾遺・六九」(柳田国男)に出てくるお話ですが、これって、ご加
護の仕方ちょっと違いませんか?。

▼遠野早池峰神社【データ】
【所在地】
・岩手県遠野市。JR遠野駅からバス終点大出下車、歩いて10分
で早池峰神社。地形図上には大出の地区名と早池峰神社の文字のみ
記載。

【ご利益】
・【遠野早池峰神社】:豊作祈願

【位置】
・【遠野早池峰神社】緯度経度:北緯39度28分32.12秒、東経141
度30分33.36秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」か
ら検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「大出(盛岡)」or「竪沢(盛岡)」(2図葉
名と重なる)

【参考】
・「あしなか254輯」遠野地方特集(杉崎満寿雄)山村民俗の会
・「早池峰山麓の山岳伝承」福田八郎:「山岳宗教史研究叢書・16」
(名著出版)1981年(昭和56)
・「遠野物語」柳田国男(角川文庫・角川書店)1979年(昭和54)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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