山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼283号 「北ア双六岳南方・大ノマ乗越のミヤマシシウド」

【概略】
ジリジリと夏の太陽。笠ヶ岳から双六岳へ向かう途中、さすがにま
いって、大ノマ乗越で大休止。左俣谷から吹き上げる涼しい風にゆ
れるシシウド。左側だけずーっと太陽に照らされたため、左側だけ
真っ赤に焼けたと、青年が苦笑いしながら双六岳方面から降りてき
た。
・岐阜県高山市

▼283号 「北ア双六岳南方・大ノマ乗越のミヤマシシウド」

岐阜県側に大きく張り出した北アルプスの北ア笠ヶ岳(2897m)。
そこから北上する稜線を双六岳方面に向かう途中に大ノマ岳と大ノ
マ乗越(のっこし)というところがあります。

「ノマ」とは飛騨途方や越中地方で、全層旧雪なだれのことをいう
そうです。また、なだれが水の流れをせき止め、あふれるのを「ノ
マツク」、「ノマエル」ともいうという。

大ノマ乗越は標高2450m。地図を見ると残雪マークもありなるほど
雪も多くなだれも多そうな場所です。

ある年の8月、笠ヶ岳のテント場は水不足です。テント場の朝、ポ
タっと落ちる水をやっと水筒の底に集めて出発しました。秩父平近
くの水場に雪渓はすでになくなっていましたが、それでもわずかに
流れる水を「寄せ集め」水筒はなんとか満タンになりました。

大ノマ乗越というところで大休止としました。相変わらずジリジリ
と夏の太陽がきびしい光をそそぎます。あまりの暑さに背丈の低い
ハイマツの木陰に隠れます。

すると熱波が体中襲いかかります。仕方なく左俣谷から吹き上げる
涼しい風にあたると、もろにギラギラ太陽に当たります。涼しげに
ゆれるシシウドをうらめしく見ていると、若者が乗越におりてきま
した。

裏銀座を歩いてきたという。ずーっと左側だけ太陽に照らされてき
たといい、左側だけ真っ赤に焼けただれるよう。温泉に入るのが思
いやられると笑っていました。

▼【データ】整理済み
【所在地】
・岐阜県高山市(旧吉城郡上宝村)。JR高山本線高山駅からバス1時間
40分終点新穂高温泉、さらに歩いて鏡平経由6時間50分で大ノマ乗越。
地形図に地名のみ記載。付近に何も記載なし。

【位置】
・【大ノマ乗越】緯度経度:北緯36度20分51.25秒、東経137度35
分28.98秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検
索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「三俣蓮華岳(高山)」

【山行】北アルプス笠ヶ岳〜黒部源流縦走
・某年8月8日(月・快晴)大ノマ乗越探訪

【参考】
・「山ことば辞典」岩科小一郎(百水社)1993年(平成5)
・「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)

【とよだ 時】 山と田園風物漫画
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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山旅イラスト【ひとり画展通信】
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