第7章 7 月

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▼中 扉

7月(ふづき) (この章の目次)
  ・文月(ふづき)
  ・山開き
  ・七夕
  ・小暑
  ・中元
  ・土用丑の日
  ・プロ野球オールスター戦
  ・大暑
  ・夏休み
  ・暑中見舞い
  ・夏祭り
  ・花火
  ・7月その他の行事

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・文 月

 日本の昔の暦(陰暦)の7月は文月といい、ふみづき・ふづきとも呼ばれます。文月は「文扱い月」の略したものだといわれ、明治時代の辞書「類聚(るいじゅう)名物考」には「七月ふみづき 旧説に文書を通はし消息を贈るといふも、時に限るべからざるに似たりうんぬん」とあります。

 英語のジュライはエジプトの太陽暦をもとにユリウス暦をつくらせたジュリアス・シーザーの生まれた月なので、その名をとってつけられたのだそうです。ローマ暦での7番目の月の意味セプトは、セブンの語源でいまのセプテンバーです。

 しかし、7日のジュライと8月のローマ初代皇帝オクタビアヌスの異名アウグスツスからとったオーガストが間に入ってしまったので、結局、セプテンバーは9月にずれてしまったということです。

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・山開き(1日)

 7月1日に山開きをするところは多い。昔は信仰としての登山だったので、山へ登ることが許される最初の日に、ご神体である山をまつるのが山開きの儀式です。昔は夏の一定の期間以外の登山は禁止されていたわけです。

 山開きは、その年の登山の安全の祈願をするもので、多くの山小屋やその他の施設もその日から開業します。富士山は7月初めから8月26日、木曽の御岳山は7月10日から9月26日というように、登山が許される期間が決められていて、白衣の信仰登山者が先達を中心に参詣登山をしています。

 この山開きはいまでも行われてはいますが、だんだん形式化して交通機関の整備とともに、登山の季節も広がっているようです。同じ山開きでも北アルプス上高地のウエストン祭のように近代登山開拓者の記念行事になっている所もあります。

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・七夕(7日)

 7月7日の夕方は七夕です。天の川をはさんでふたつの星が向かい合っているとし星祭りをします。サトイモの葉っぱの露で墨をすり、願い事を書いてササ竹につるします。このため、七夕とササ竹は切っても切れないものと思っていたら、ナントこれはずっと最近のことで、手習い、習字などがはやってからのものだ、とモノの本にありました。

 牽牛(けんぎゅう)星と織女(しょくじょ)星が天の川を中に向かい合うという伝説は、古く中国の「詩経」という本にあります。後漢の時代(2世紀)になるとこの星たちは恋人だということに発展、さらに六朝(りくちょう)時代(3世紀)になると「年1度デートをする」のだ、と本に書かれるようになります。

 これが乞巧稟(きっこうでん)という行事になって、691年(飛鳥時代)以前に中国から日本に伝わりました。それが日本に古くからあった棚機津女(たなばたつめ)の信仰と習合し、いまの七夕の星祭りになったと考えられています。

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 棚機津女とは、たな(懸け造り)に設けられた機(はた)にもたれより神の降臨を待ち、一夜を神のもとに侍る聖なる乙女。乙棚機(おとたなばた)ともいうそうです。彼女は人里離れた水辺の機屋に籠もりそこを祭場としてつつしんで神を迎え祭り、一夜を過ごします。

 翌日神が帰る時、村人は禊(みそ)ぎを行い、また自分たちのけがれを神に託して持ち去って貰うのが棚機津女の信仰です。つまりけがれを祓う行事です。

 この夜、わずかでも雨が降れば、牽牛と織女は会うことができないといわれる都合風の考え方(中国流)、これはいまの一般的な七夕祭りです。 

 ところがそれに対してこの夜に、雨が三つぶでも降らないと七夕さまが天の川を渡ってしまい疫病神を生むという、祓(はら)いの行事としての農村の七夕の考え方(日本古来のもの)があります。これは棚機津女の信仰基づいた考え方なのだそうです。

 有名な青森県の「ねぶた」や秋田、角館の「竿灯」も七夕祭ですが、七夕はもともと夕方、神をむかえ、翌朝罪けがれを神に託して持ち帰ってもらう行事。 

 そのため最近まで七夕には水浴びをし、女性は髪を洗い井戸をさらって清めるという風習が各地にあったそうです。また七夕小屋を作ったり、七夕馬を供えたり、祭りのやり方はさまぎまですが、これはみな豊作の願いをこめたお祭りなのだそうです。

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・小 暑(7日ころ)

 太陽暦の7月7日ごろは二十四節気のひとつ小暑(しょうしょ)にあたります。太陽の黄経(天球の太陽の位置)が105度のときをいうそうです。そろそろ梅雨あけのころで、暑さも本格的になるころ。

 1年を24で割り、それぞれその季節にふさわしい名をつけたのが二十四節気ですが、それをまた、三つずつに割り、季節の移りかわりをとらえようとした「七十二候」というものがあります。この時期は第三十一候〜第三十三候にあたります。

 第三十一候(7〜11日ころ)は「温風至る」ころ、第三十二候(12〜17日ころ)は、「蓮(はす)始めて咲く」ころ、第三十三候(18〜22日ころ)は「鷹学(わざ)を習う」(鷹のひな鳥がいよいよ羽づかいを覚えとびたつころ)としています。

 夏至から16日、もう16日もたつと大暑(たいしょ)です。昔のこよみの欠点を補うため中国で考え出され、日本で修正したものだそうです。

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・お中元

 お中元にはお世話になった人たちへ贈り物をする習慣があります。昔、中国で旧暦の正月15日を上元、7月15日を中元、10月15日を下元といい、合わせて三元といったそうです。三元は道教の天官、地官、本官の三官信仰がもとになっています。それによると、地官は中元に生まれ、人間を愛し罪を許してくれる神だとしています。

 中国で、この日にもてなしをすれば罪が許されるという考え方があり、やがて日本にも入ってきます。このうち中元の祭りが仏教の盂蘭盆会と結びつき、祖先崇拝行事になっていきます。そしてこの日に祖霊を祭って供物を仏前に供え、両親に白米やくだもの、麺類などを贈る「生き身魂(みたま)」(生き盆)の行事に発展します。

 この贈答行事は、室町時代から行われた記録があります。これが明治から以降、付き合いの範囲が広がるに従って、商魂に乗せられたか、いまでは中元といえばお世話になった人や上司、得意先、先輩などへ贈り物をすることをいうようになりました。これらは江戸時代の年中行事の本や習俗の記録にはないということです。

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・土用丑の日(20日ころ)

 7月20日ころは丑(うし)の日です。土用とは中国の暦に使われた二十四節気以外の節(雑節)のひとつ。土用は陰暦の立春、立夏、立秋、立冬の前の18日間をいい、1年に4回あります。しかしいま土用といえば夏の土用のことを指しています。

 カレンダーなどに子(ね)丑(うし)寅(とら)など十二支の名前が書いてありますが、土用の期間中の丑の日が「土用の丑の日」。土用丑の日といえばウナギを連想します。この日には夏まけしないようウナギを食べる習慣があるからです。

 これは江戸中期の科学者で文人の平賀源内がウナギ屋の看板に「今日は丑」と書いたのが大評判になり、それからウナギを食べる習慣が出来たということです。これにちなんで1954(昭和29)年、ウナギ(活鰻)の卸業者の集まりである全国淡水魚荷受組合連合会が発足、この日を「うなぎの日」と命名しています。

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・プロ野球オールスター戦(20日ころ)

 7月20日ころにプロ野球オールスター戦がはじまります。日本でのオールスター戦は、1933年シカゴで20世紀世界博覧会の行事として行われた、アメリカのアメリカン・ナショナル両リーグのオールスター戦をみならい、1951(昭和26)年からはじまったもの。監督は前年度の優勝チームの監督で、その監督がコーチを指名し選手はファンの投票で選びます。

 第1回のオールスター戦はセ・リーグが2対1で勝ち、最優秀選手は杉下茂(中日)が選ばれました。第2回の27年は1勝1引分けでパ・リーグが勝ち、飯島滋弥(大映)が最優秀選手になりました。

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・大 暑(23日ころ)

 カレンダーの7月23日ころのところに「大暑」の文字が書かれています。これは「二十四節気」のひとつで、1年を24に分けてそれぞれ季節にふさわしい名前をつけたものです。

 大暑は地球からみた太陽の位置(黄径)が120度に達した時だそうで、このころは夏の土用をむかえ、暑さが絶頂期に入りしのぎにくい日が続きます。

 大暑の15日をさらに3等分し、1年を72に分けたものに「七十二候」があります。いまの時期は第三十四候から第三十六候にあたります。第三十四候は23日〜27日ころで「桐(きり)始めて花を結ぶ」ころ。

 第三十五候は7月28日〜8月2日ころで「土潤(うるお)いて暑し」ころ、第三十六候は8月3日〜7日ころで、「大雨(たいう)時行(ときどきふる)」ころと、それぞれ解説されています。
 このころは暑さが絶頂期に入り、酷暑の季節。ナデシコやサルスベリが咲きだします。

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・夏休み(21日ころから)

 関東地方あたりは7月21日ころから夏休みに入ります。大きな太陽に入道雲、胸おどる夏休みです。学校の夏休みは1947(昭和22)年の学校教育法という法律の施行令で教育委員会がきめているのだそうです(公立の小・中・高校)。私立はそれぞれの学校で決められているという。
 夏休みの期間は、とくに法律では規制されてはいなく、夏休みや冬休み、日曜祝日学年末などの合計が学校教育法の規則できめられている最低授業数より少なくならないようにしているという。ふつう夏休みは、7月下旬から8月末までですが、冬休みが長い北国の地方ではその分夏休みを短くしているのだそうです。

また夏休みの間に出かける林間学校や海の家、登校日などは授業とはみなされないので出欠、授業日数とは無関係なのだそうです。

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・暑中見舞い(20日ころから)

 7月も下旬になると暑中見舞いのはがきを出す準備をします。暑中とは夏の土用の18日間をいうという。夏のいちばん暑いころに小暑、大暑がありますが、その小暑から、13日目が土用の入り。そして大暑を通り越した立秋までの18日間が暑中です。立秋からあとの暑さは残暑としています。

 この酷暑の時期に出す見舞いの手紙が暑中見舞いです。しかしこれは暦の上のことで、日本の各地の気温は、いちばん気温の高いのは7月の末から8日の上旬。いずれも7月より8月の平均気温の方が高いのだそうです。

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・夏祭り

 夏はお祭りの季節です。祭りは神さまを神々の世界から人間の世界にお迎えして、お客さまとしてお酒や料理をさしあげ、踊りなどを見せてもてなします。

 夏に行う祭りには神田(しんでん)などに苗を植える田植え祭り、夏越(なご)しの祓いのような祓い、山の上に木の枝をつみあげてたき火をし、村の先祖の霊を呼ぶ魂(たま)祭り、それにおみこしが行列をつくってねり歩く祭り「神幸祭」の4種類があります。

 この夏祭りの有名なものには青森県の恐山大祭、青森ねぶた、宮城県の仙台七夕祭り、山形美人が踊ることで名高い花笠踊り、長崎チャンコ踊り、徳島県阿波踊り、広島県壬生の花田植え、京都の祇園祭、茨城県の綱火人形、富山県の八尾風の盆などきりがないほどたくさんあります。

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・花 火

 夏の夜は子どもたちも花火をして楽しみます。花火はギリシャ、ローマの昔からすでにあったという人もいますが、いまのような火薬をつかったものはそれが発明された後の13世紀の末、イタリアの古都フィレンツェで作り出されたといわれています。

 花火には円の形をあらわすものや、つるし星などの打ち上げ花火、仕掛け花火、小さくて火薬も少なく危険が少ないおもちゃ用花火の3種類があるそうです。

 日本には、室町時代の1543(天文12)年に鉄砲といっしょに伝わったとされています。江戸時代に入ると「ねずみ火」や「流星」などの花火が大流行。長屋などでは火事になったり危なくてしょうがない。幕府が花火禁止令を出したとものの本に出ています。

 また打ち上げた花火が開いた途中で2回、3回と色の変化する技術は日本独特のもので、外国にはないのだそうです。

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・7月 その他の行事

▼半夏生(7月2日ころ) 7月2日ころは半夏生にあたります。夏至(6月21日ころ)から数えて11日目になります。雑節のひとつで太陽の黄経(天球の太陽の位置)が100度になる日です。七十二候の第三十候にあたる日です。昔はこの日に天から毒気が降ってくると信じられ、井戸にふたをしたりこの日に摘んだ野草は食べなかったという話もあります。このころはドクダミ科の毒草・はんげ(カタシログサ)が生えるのでこの名があるのだそうです。

▼お盆(7月15日) お盆は盂蘭盆(うらぼん)の略したもので倒懸(さかさがけ)という意味の梵語(ぼんご)から転化したものの音訳だそうです。盆の中心は昔は7目15日でしたが、太陽暦を使うようになると新暦、旧暦の15日、はたまた1ヶ月おくれのところや、なかには9月1日に行う所まで出てきました。くわしくは8月の行事のところをご参照ください。

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▼祇園会  7月は全国に数多くある祇園さま、天王さんの祭りの月です。本社は京都・東山区祇園町の八坂神社。祇園会は869年(貞観11年・平安時代)に疫病が大流行、これをしずめるために祇園御霊会を行ったのが最初だといいます。

 6本の鉾(ほこ)を立てておみこしを神泉苑に送りました。わざわいを威力で追い払い、けがれを水に流したものだそうです。うらみをもって死んだ人々の怨霊を退散させようとする信仰です。八坂神社の末社は天王さまと呼んで各地にあります。

▼ほうずき市(9・10日) 東京・浅草寺(せんそうじ)。

▼かんこおどり(17日) 石川県。


・天神祭(24・25日)大阪。

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(7月終わり)

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