続・山の神々いらすと紀行
第9章 近畿の山々

………………………………………………

■15:奈良伯母子岳一本足の妖怪

【略文】
猟師に捕らえられた妖怪は願い出た。「人の命をとらなければ喰う
ものがありません。ハテノハツカだけは人の命を貰いたい」との希
望に、猟師は「一日くらいなら」と許してやったという。そのため
ハテノハツカ(12月20日)には山へ入ってはならぬという。
・奈良県十津川村と野迫川村との境

■15:奈良伯母子岳一本足の妖怪


【本文】

高野山から熊野本宮への熊野古道小辺路途上にある伯母子岳には、

一本足の妖怪がすんでいて、美しい女に化けて通る旅人を襲って食

べるという。



ある時、高野山ろくの猟師が妖怪の女に出会いました。鉄砲を撃っ

ても弾を手で受け止めてしまう。そこで高野山神の教えどおり弾を

2つ撃ちました。化け物は後から飛んでくる弾に気がつかず命中し

てしまいました。



「助けて」と命乞いする化け物に「人の命をとらなければ助けてや

る」というと、「全然とらなければ喰うものがありません。せめて

ハテノハツカだけは」。



猟師は「一日くらいならいいだろ」と許してやりました。そのため

今でもハテノハツカ(十二月二十日)には山へ入ってはならぬとい

う。



ある年の4月、朝からの小雨が伯母子岳山頂で雪に変わり積もりだ

すしまつ。仕方なく伯母子峠に建つ避難小屋で「雪宿り」。その日

は三浦峠手前の掘っ建て小屋の中にテントを張りました。



床が抜け動物のすみかのよう。雨と泥の汚い姿。タヌキやキツネに

は妖怪に見えたかも知れません。



▼伯母子岳【データ】
【所在地】
・奈良県吉野郡十津川村と奈良県吉野郡野迫川村(のせがわむら)
との境。南海鉄道高野線高野駅の南南東18キロ。南海鉄道高野山
駅からバス千住院前下車、歩いてのべ9時間30分で伯母子岳。写
真測量による標高点(1344m)がある。そのほか付近に何もなし。
山頂直下に避難小屋がある。地形図上には山名と標高点の標高のみ
記載あり。標高点より東方向直線約470mに避難小屋、東方向直線
約630mに伯母子峠がある。

【位置】
・標高点:北緯34度04分38.63秒、東経135度39分2.58秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「伯母子岳(和歌山)」


▼【参考文献】
・『山びとの記』木の国果無山脈(宇江敏勝)(中公新書)1980年
(昭和55)
・『日本伝説大系9・南近畿』(三重・奈良・大阪・和歌山)渡邊省
吾ほか(みずうみ書房)1984年(昭和59)

 

15:奈良伯母子岳おわり
………………………………………………………………………
目次へ戻る