『続・山の神々いらすと紀行』
第2章 東北の山々

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■07:以東岳と大鳥池・大白鳥

【略文】
朝日連峰以東岳北東の山上湖・大鳥池は怪魚タキタロウがすむとい
う湖。奈良時代、僧の行基菩薩が越後・乙村に寺を建てようとする
が、社木が1本どうしても足らない。すると白鳥が飛んで大鳥池ま
で案内してくれ、残りの1本を手に入れることができたという伝説
がある。
・山形県朝日村

■02-08:以東岳と大鳥池・大白鳥


【本文】

いまは跡かたさえなくなってしまった東北朝日連峰の修験道。それ

には修験者間の汚い陰謀があったのだそうです。鎌倉時代、年々盛

んになる朝日修験に、となりの出羽三山(羽黒修験)は面白くあり

ません。



ことあるごとに朝日修験に難癖をつけ、またジャマをし、時にはお

堂をこわし、仏像まで朝日川に投げ捨てたといからかなりの腹黒さ

です。



その上、ひそかに裏で画策して、当時執権だった最明寺時頼(北条

時頼)に弾圧させたという。そして室町末期にはついに朝日修験の

行者たちを根こそぎ出羽山参詣へと誘導してしまったということで

す。神だ仏だという裏でもこうだったんですね。



朝日連峰北部に位置する以東岳は、山形県東田川郡朝日村と新潟県

岩船郡朝日村にまたがり、おおらかで重量感のある山容を持ってい

ます。標高はさほどではありませんが、日本海の季節風をまともに

受ける厳しい環境のため、夏でも多くの残雪を残し高山的な様相を

見せています。



その以東岳北東に山上湖・大鳥池があります。以東岳から見る大鳥

池は、樹林の中にこうもり傘を広げたような形をしています。訪れ

るのはせいぜい登山者か釣り人くらい。



ここにはイワナのほかに幻の怪魚タキタロウがすむといい、池のヌ

シとされ話題になり、調査船が出てレーダーで探査したことがあり

ましたが、結局は分からずじまい。



大鳥池の大鳥とは大きな白鳥のことだといいます。天平年間(729

〜747)というから、いまから1200〜300年も前の話です。奈良

時代の僧・行基菩薩が、越後にやってきて、いまの北蒲原郡中条町

に寺を建てようとした際、乙(きのと)村に寺を建てようとします

が4本必要な社木のうち1本がどうしても見つかりません。



困っていると、馬くらいもある大きな白鳥が飛んで来て、行基さま

を大鳥池まで案内し、そこで残りの一本を見つけることができたと

いうのです。この大白鳥はいまも岩かげから姿をあらわし、釣人を

驚かすといい伝えられます。



以東岳から眺める大鳥池は、熊の毛皮を広げたような形です。以東

岳直下の避難小屋がまだ立て替えられていないころの8月初めこと

でした。部屋のなかが暗い避難小屋を避けて外にテントを張りまし

た。



高山植物のニッコウキスゲやミツバシオガマが花盛りです。夕陽が

日本海に沈み、まばゆい星空の下、イカ漁でしょうか、イサリ火が

やけに光っていました。



翌朝は、大鳥池へ下ります。大鳥池は以外に大きく、湖面にひっそ

りとさざ波がただよい神秘さを増しています。裸になり、シャツを

乾かしながら、大休憩。もしかしたらと湖面にタキタロウの姿を探

します。



深山幽谷にある大鳥池も、いまはキャンプ場もあり、泡滝ダムまで

マイクバスも入ります。池からの下り道は、しみ出る湖水が流れる

湿地になっています。足音に驚いて逃げるマムシなどのヘビたちの

姿をあちこちで見かけました。




▼【データ】
【所在地】
・山形県鶴岡市旧朝日各地区名(旧東田川郡朝日村)。JR羽越本
線酒田駅からバス大鳥終点、5時間45分で大鳥池。地形図に大鳥
池の文字と北側に大鳥小屋の記載あり。
【位置】
・大鳥池:北緯38度21分45.34秒、東経139度49分43.99秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「大鳥池(村上)」



▼【参考文献】
・『角川日本地名大辞典6・山形県』誉田慶恩ほか編(角川書店)1981
年(昭和56)
・『修験の山々』柞(たら)木田龍善(法蔵館)1980年(昭和55)
・『日本歴史地名大系6・山形の地名』(平凡社)1990年(平成2)

 

▼07:以東岳おわり
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