▼雑学・山の伝承ばなし
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【とよだ時】(豊田時男
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福井県荒島岳・仙人と鹿の角と災いの風

【説明本文】
 福井県大野市の東に位置する荒島岳は、大荒島
岳と小荒島岳からなっています。近くの景勝地九
頭竜峡は、この山の爆発で東麓を流れる九頭竜川
を、東に追いやってできたといいます。

 その山名は、山麓の荒島神社からつけられたと
いう説と、荒島谷川の奥にあるためという説、荒
島という集落名に由来するという説。また、荒は
新(あらた)で、島はうちの「シマ」のように同
族の一区画。新しく開拓された身内だけの集落名
だという説があります。

 荒島岳は「大野富士」とも呼ばれ、白山と同じ
泰澄上人の開山ともされ、また『日本百名山』の
ひとつにも数えられています。荒島岳の標高は
1523mです。『百名山』では88番目の山です。

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※【お詫び】一部の投稿の中で、「百名山」では
95番目とあるのは、88番目と訂正します。また
「日本二百名山」は166番目、「三百名山」では
224番目の部分は削除してください。
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 この山は文献でも歴史は古く、平安初期の「延
喜式」(当時の官人の業務マニュアル)にも、阿
羅志摩我多気(あらしまがたけ)と出てくるそうで
す。

 この山には、餐霧(さんむ)という仙人が住ん
でいたといいます。江戸中期の『帰雁記』という
本に、これは常陸房(ひたちぼう)が事なりとあ
り、義経の家来常陸坊海尊(かいそん)だとして
います。


 海尊は常陸の国(茨城県)の鹿島神宮の別当
(寺務を治める)寺で修行し、のち、滋賀県三井
寺(園城寺)に移ったといわれる僧で、武蔵坊弁
慶などとともに源義経の家来として活躍した人物。

 ともに「源平合戦」で平家と戦い、奥州落ちも
一緒に行動しました。文治5(1189)年、義経が
「衣川の戦い」で敗死した日は、海尊はたまたま
同僚と、付近の寺参りに行っていて留守でした。

 寺参りから帰ってきて、義経が死んだと知った
海尊たちは、そのまま行方をくらましてしまった
と『義経記』(室町初期の軍記物語)巻第八・衣
河合戦の記に出ています。その後、江戸時代
初頭になって海尊が姿をあらわしたといいます。


 「わしは不老不死だ」といい、大昔の「源平合
戦」の模様を当事者のようにまわりの人によく話
していたといます。この不思議な老人に、世間で
は常陸坊海尊は仙人になって現れたのに違いない
と大評判。

 この仙人は、フラフラとあちこちに出没してい
たらしく、江戸川柳にも「ひたち坊風来ものの元
祖なり」などと詠まれているほどだったそうで
す。寅さんみたいでうらやましい〜。

 さて、この山にも雪形が出るそうです。雪形は
残雪が溶ける途中で、いろいろな形に見えるも
の。ここの雪形は「Y字形」をしていて、地元の
人は「鹿の角」と呼んだといいます。ふもとの人
はそれを見て季節を知り、村を流れる九頭竜川
のアユ捕りをはじめたということです。


 また春、荒島岳から吹き下ろす乾燥した南東の
風は、相当強い風らしく、大火をもたらす荒島お
ろしと恐れられました。また、初夏に吹く風はウ
ンカを運び、稲に被害をもたらすとされるという
から厄介です。

 9月、きょうも快晴、朝から暑い。登山道のキ
ツイ登り坂で吹き出す汗。しかしやはり『百名
山』ブームのせいか、20人近くの登山者に出会
いました。ブナ林の登山道に、ハングル文字の
布の見印が、枝に結ばれていたのが印象的
でした。
・福井県大野市と福井県大野市との境。


▼荒島岳【データ】
【所在地】
・福井県大野市(旧大野郡大野町)と福井県大野
市(旧大野郡和泉村)との境。JR越美北線(九
頭竜線)越前大野駅の南東11キロ。JR越美北線
(九頭竜線)勝原駅から歩いて4時間で荒島岳。
一等三角点(1523.5m)と、祠がある。

【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWeb」)
・三角点:北緯35度56分03.49秒、東経136度36
分04.5秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「荒島岳(岐阜)」

【山行】
・某年09月01日(水曜日・晴れ)

▼【参考】
・『角川日本地名大辞典18・福井県』河原純之ほか
編(角川書店)1989年(平成1)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出
版)2005年(平成17)
・『日本歴史地名大系18・福井県の地名』(平凡
社)1981年(昭和56)
・『帰雁記』福井藩士松波伝蔵著(正徳2・1712
年)

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