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CD本『全国の山・天狗ばなし』(07)
【とよだ 時】

 CD本目次
(イラスト本ではありません)

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▼高尾山の天狗の鼻は高くない

【略文】
南北朝時代、偉いお坊さんが高尾山にやってきて、山中の滝で修行
をしていました。疲れてウトウトした時、夢の中にあらわれた飯縄
権現の像を本尊とし、修験道の道場にしたといいます。この飯縄権
現は長野県飯縄山の天狗・飯綱三郎の分家格。白狐に乗った荼吉尼
天の姿です。なので鼻は高くありません。
・東京都八王子市

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▼高尾山の天狗の鼻は高くない


【本文】

 東京都民の山高尾山はあまりにも有名です。日本百景にも選定、

また「明治の森高尾国定公園」に指定されています。さらに2007

年(平成19)には、ミシュランガイド(実用旅行ガイド)で最高

ランクの「三つ星」の観光地に選ばれているそうです。



 この山域は古くから竹木の伐採を禁じられ、天然の森林が保護さ

れてきました。そのため珍しい植物も豊富。いまでも植物の採取、

鳥類の捕獲も禁止されているそうです。明治以降は、牧野富太郎博

士をはじめ、多くの研究者によって新しい植物が次々とこの山で発

見、発表されています。



 山頂は十三州見晴台と呼ばれ、天気のよい日には富士山も雄姿を

見せてくれます。山頂の直下には、真言宗智山派別格本山薬王院有

喜寺があって、真言宗の関東三山(成田山新勝寺、川崎平間寺)の

ひとつに数えられています。



 高尾山の名前の「タカオ」とは、山の尾根が高いところで左右に

長く伸びていることを示す山名だという。また高尾山は高雄山の異

名があるように、京都市右京区の梅ヶ畑の地にある高雄(山上に真

言宗の名刹がる)に模した山ではないかという人もいます。



 寺伝の縁起文によれば「聖武天皇の天平十六年(744)行基菩薩

勅命を奉じて開山せり」とあり、奈良時代、聖武天皇の勅願により

行基菩薩がみずから薬師如来を刻み、諸人救済のため高尾山上に仏

像を安置、本尊として開山したのがはじまりということになってい

ます。



 その後600年たった、南北朝時代、北朝でいう永和2年(1376)、

京都醍醐寺の僧・俊源大徳(しゅんげんたいとく)がこの山にきて、

琵琶滝、蛇滝で修行、炊ぎ谷(かしぎ谷)で不動明王を勧請、10

万枚の護摩を修し、疲れ果てて仮眠の際、夢で飯縄権現を感得しま

した。



 俊源は、早速その像を彫り、権現堂にまつって、修験道の道場に

したということです。(『山岳宗教史研究叢書』)。この飯縄権現は、

長野県の飯縄山の天狗・飯綱三郎の分家格です。なので鼻は高くあ

りません。



 右手に宝剣、左手に索縄(さくじょう)をもち足にヘビをまきつ

け、白狐にまたがった荼吉尼天の姿。そして「醍醐山内無量寿院松

橋の法」という難しいものを伝えたという。寺伝では「勇猛精進の

師」などと呼ばれています。



 これが高尾山修験道のはじまりで、俊源大徳から歴代の住職は30

数世にもなり、その法流をいまに伝えているという。俊源の夢にあ

らわれた飯縄権現の姿は、顔は人でトビのようにくちばしをとがら

し、頭に蒼いヘビをのせ、法衣を着て背中に火炎が燃えており、両

わきから翼を広げ、右手に宝剣、左手に索縄を持った、白狐にまた

がった荼吉尼天の姿。



 神は俊源に向かい、「余はアバラ(不動)明王である。長い間世

の中が多難で、諸々の魔怪が横行して世を騒がすので、雷を落とし

て降伏させるために奇瑞をあらわした。これを飯縄の神女という。

山にまつるがよろしい」とのおつげ(『若稽旧記』寛延3・1750年)

があったと伝えます。



 ちょっと待って下さい。この本には飯縄権現は女神だとあるので

す。そうすると高尾山の天狗は女性ということになってしまうでは

ありませんか。飯縄権現は長野県の飯縄山の天狗・飯綱三郎の分家

格です。そのため三郎坊と呼ぶこともあります。そんなはずはない。

『若稽旧記』に飯縄神女とあるのは俊源大徳の聞き違いではないか

と、天狗研究者知切光歳氏は『天狗列伝・東日本編』で述べていま

す。



 それはさておき、このように高尾山の天狗の鼻は高くありません。

室町時代末期、日本画の狩野派3代の祖、狩野元信が、それまでは

天狗といえばくちばしのとがったトビのような烏天狗でした。それ

に対し、京都愛宕山の天狗「鞍馬大僧正坊」をイメージし、いまま

でとは違って「カッコイイ」、鼻の高い山伏姿の大天狗を描き出し

ました。



 以来、各地の天狗を売りにしていた山の信奉者が「おらほの天狗

もこっちの姿にしよう」と言いはじめました。そして次々に、この

大天狗の姿に乗り換えてしまいました。そんな中で飯縄系の山々は

昔の烏天狗のままでおしとおしています。



 飯縄山や、高尾山、箱根大雄山、秋葉山、迦葉山、加波山などは

みんな飯縄系の天狗です。登山口の京王線高尾山口駅や、近くのJ

R中央線高尾駅には、鼻の高い天狗の石像やお面も飾られています。



 このくちばしのある高尾山の天狗(荼吉尼天姿の天狗)が、「天

狗といえば鼻の高い天狗が当たり前」と勘違いされ、ふもとの駅に

堂々と建てられてしまっているいま、飯縄神女の話など永遠の謎に

なってしまうのでしょうか。



 また高尾山の参道には名物たこ杉があります。たこ杉は、樹高30

m、樹齢推定300年とも1千年ともいわれる巨杉ですが、根が盛り

あがり、まるでタコ足のようです。その昔、薬王院への参道をつく

るとき、この杉の根っこが参道にのびていて、危険でもあり、邪魔

になってしょうがありません。



 道路側だけでも切ることに決まり、翌朝、鋸や斧を持って行って

見たら、ナント一夜のうちに根が山側だけに向いていたという。こ

れは高尾山にすむ天狗の仕業に違いないと「天狗杉」とも呼ぶよう

になったとの伝説が残っています。



▼高尾山頂【データ】
【所在地】
・東京都八王子市。中央線高尾駅の南西4キロ。京王高尾線高尾山
口駅からケーブルカー・高尾山駅から歩いて45分で高尾山山頂。
・山頂に二等三角点(599.2m)とビジターセンター、レストラン
ハウス、やまびこ茶屋がある。・山頂直下に薬王院(有喜寺)が
ある。
・地形図に山名と三角点の標高と高尾ビジターセンターの文字の
記載あり。三角点より東方向486mに薬王院がある。
【位置】
・二等三角点:北緯35度37分30.66秒、東経139度14分36.94秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「与瀬(東京)」or「八王子(東京)」
(2図葉名と重なる)。



▼【参考文献】
・『山岳宗教史研究叢書8・日光山と関東の修験道』宮田登・宮本
袈裟雄(みやもとけさお)編(名著出版)1979年(昭和54)
・『若稽旧記』(1750・寛延3年):『新編武蔵風土記稿』蘆田伊人編
集校訂(雄山閣)昭和45(1970)年版
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『新編武蔵風土記稿』:大日本地誌大系11『新編武蔵風土記稿・
5』蘆田伊人編集校訂(雄山閣)昭和45(1970)年版
・『図聚天狗列伝・東日本編』知切光歳(三樹書房)1977年(昭和5
2)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・『日本歴史地名大系13・東京都の地名』児玉幸多ほか(平凡社)
2002年(平成14)
・『名山の日本史』高橋千劔破(ちはや)(河出書房新社)2004年
(平成16)


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【とよだ 時】 山の伝承探査
山旅通信【ひとり画っ展】発行
U-moあ-と】すたじお
山旅はがき画の会
from 20/10/2000


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・ねたむな、そしるな、うらやむな。
・今朝酒あらば 今朝酒を楽しみ 明日憂来らば
 明日憂えん。(城山三郎)