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【新・丹沢山ものがたり】(04)
【とよだ 時】

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 (イラスト本ではありません)

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▼丹沢・塔ノ岳の尊仏岩

【略文】

塔ノ岳には昔、山頂北側に、仏像に似た大岩・尊仏岩があったとい
う。しかし、1924年(大正13)の関東大震災の余震で北西側直下の
大金沢にくずれ落ちました。ここには狗留尊仏がまつられていまし
た。いまはコケむした仏像とコイワザクラが訪れるのを待っていま
す。
・神奈川県秦野市と山北町、清川村との境

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▼丹沢・塔ノ岳の尊仏岩

【本文】

 関東近郊の山・丹沢の入門コースといえば、ご存知ヤビツ峠から

つづく表尾根の塔ノ岳(1491m)。塔ノ岳には尊仏山荘という名前の

小屋があるように昔、山頂北側に、仏像に似た大岩・尊仏岩があり、

「ソンブッツァン」としたわれ、近郊の住民の信仰を集めていたと

いいます。



 江戸幕府官撰による相模国に関する地誌『新編相模風土記稿』の

玄倉村(久呂久羅牟良)の項にも「塔ノ嶽 村東大住郡境にあり、

此山の中腹に土俗K尊佛と唱ふる大石あり。高五丈八尺許、其形座

像の佛體に似たり。故に此稱あり。此山を他郷にては、尊佛山と唱

ふ、土民の?に、旱魃の時、登山して此石に祈請し、雨を乞と云、

又石上に生ずる苔を土人御衣と称し瘧疾を煩ふ者あれば、是を取て

煎じ用、必効験あり、郡中三廻部村觀音院にては、此石を孫佛尊と

呼び、其寺の山號をも孫佛山と唱へり、何の縁故ありや詳ならず、

猶三廻部村の條に辨ず」と出ています。



 しかし、1923年(大正12)9月1日に関東大震災が起こり、その

翌年の1924年(大正13)1月15日の余震(余震ではなく別の地震と

もいう)で、もろい大岩はコナゴナになって、北西側直下の大金沢

にくずれ落ちたといいます。



 この大岩には狗留尊仏(くるそんぶつ)という仏さまがまつられ

ていて、干ばつのときは、大事な雨乞いの場になっていました。岩

の高さは1丈(3.03m)とも3丈とも、また5丈8尺あったともい

われていますから、いずれにしても大岩だったわけです。



 狗留尊仏とは、過去七仏のひとつで、お釈迦さまのように悟りを

ひらき、完全人格者になり、仏陀になれた人が過去に7人いたとす

る考えなのだそうです。



 ある年の4月、尊仏山荘でイラストの個展を開催させて戴きまし

た。その最中に尊仏の大岩を訪れてみました。地震でくずれた尊仏

岩のなごりは、急なガケにへばりついて、高さを裏から測るのと表

から測るのでは大きな差が出てしまいます。



 これでは測り具合で高さが違ってくるわけです。そんな傾斜地の

中、尊仏岩の土台に生えたコイワザクラの花が満開です。そのわき

で、首をとられた仏像がコケむしていました。



 尊仏岩といえば、明治38年(1905)9月末に、武田久吉博士ら日

本博物学同志会の一行12人が、案内人を頼んで玄倉川をさかのぼ

り、尊仏岩経由で、塔ノ岳へ登っていった記録があります。



 それによると前の日、玄倉にある「同志会」会員の友人の実家に

泊まらせて貰ったという。前夜は手違いで玄倉村に着いたのが、真

夜中の0時20分。翌朝午前4時半に跳ね起き、準備に2時間も費

やして出発。



 一行の植物組は胴乱、昆虫組は捕虫網、岩石組はハンマーを手に

といういでたち。道中、あっちで観察、こっちで採集で時間がかか

り、記念写真を済ませて、諸士平を後にしたのが1時50分。その

後玄倉川を渡渉の繰り返し。岩壁に咲いたイワツリガネソウを採集

したり、砂地に生えたシラヒゲソウを掘り取るやら、蝶を追って後

戻りする者もあって、道は中々捗りません。



 熊木沢近くへ来たのが3時ごろ。玄倉の村を出てからすでに8時

間半。案内人はこれから塔ノ岳へいくのは無理だ。きょうは鍋割の

山仕事小屋に泊まるというのを、一行は予定通りに行きたいと案内

に強要。不動清水経由で尊仏岩についたのが午後6時手前。



 尊仏岩について武田久吉博士は次のように書いています。「黒尊

仏は高さ5丈八尺ばかりといわれ「其形座像の仏体に似たり、故に

此称あり」と古記録にある。この石に雷穴という穴があって、それ

には雷神が棲んで居たといわれる。…



 …旱魃の時には山麓の村人は、竜の形物を造り、幾本かの長旒(ち

ょうりゅう・※長い旗)を押し立て、鐘や太鼓を鳴らし、懺悔懺悔

六根清浄を唱えながら、三里の難路を塔ノ岳に押し上り、彼の雷穴

に石や木を投げ込んで、雷神を怒らせると、たちまち豪雨が降ると

信じられて居た。…



 …またこの「岩上に生ずる苔を上人お衣と称し、虐疾(ぎゃくし

つ・※おこりの病)を煩う者あれば、是を取って煎じ用うれば必ず

効験あり」などともいわれて居る。一行は石の高さを測ったり、お

衣なる苔を採集してその何かなるかを確かめたり、写真を撮影した

りなどと、いろいろ欲深い計画を持っていたが、時刻の遅いため、

みなそれを後日にのばすほかなかった。…



 …その後何年経過しても、それを実行する機会を持ち得ないうち

に、大正12(1923)年の震災に、尊仏岩は金沢の谷深く埋もれて

しまい、あたら名物が永久に失われたことは、返す返すも遺憾であ

る」。



 さて、尊仏岩をあとにして間もなく塔ノ岳。6時15分大倉に向

かって下りはじめました。それからが大変で、真っ暗な大倉尾根、

足元を照らすのは、先頭の案内がもった提灯(ちょうちん)だけ。

潅木やすすきやらにつかまりながらソロリ、ソロリと降りていきま

す。



 そして「松田の駅前の旅館富士見屋をたたき起こして、一行13

人が草鞋をぬぐなり横になったのは、明治38年(1905)9月25日

の午前3時を過ぎる5分であった」(武田久吉。四十年前の丹沢(『山

と渓谷』)とあります。



 「植物組は胴乱、昆虫組は捕虫網、岩石組はハンマーを手にし、

勇気凛々」はいいけれど、友人の実家の宿に、真夜中の0時20分

に集まったり、午前3時過ぎに旅館をたたき起こされたり、まわり

の人たちはいい迷惑だったでしょうね。案内人もナントモ気の毒で

す。



▼塔ノ岳【データ】
★【所在地】
・神奈川県秦野市と同県山北町、同県清川村との境。小田急線渋沢
駅からバス、大倉から歩いて3時間30分で塔ノ岳(とうのだけ・標
高1490.9m)。三等三角点がある。地形図に山名と三角点と標高、
尊仏山荘の文字の記載あり。
★【位置】
・三角点:北緯35度27分14.67秒、東経139度09分47.86秒
★【地図】
・2万5千分の1地形図「大山(東京)」



▼【参考文献】
・『あしなか3第41輯』(山村民俗の会)
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県」伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・『かながわの山」植木知司(神奈川合同出版)1981年(昭和56)
・『新編相模風土記稿』:大日本地誌大系19「新編相模風土記稿1」
(雄山閣)1980年(昭和55)
・『日本山岳風土記3・富士とその周辺』(宝文館)1960年(昭和35)
・『日本歴史地名大系・神奈川県』(平凡社)1990年(平成2)



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