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山の与太ばなし【奥多摩のはなし】(05)
【とよだ 時】

 (イラスト本ではありません)

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▼奥多摩・御岳山の伝説大口真神

【前文】
家の戸口に貼られた狼のお札。大口真神のお札は、火難や盗難よけ
にご利益があるという。東京都奥多摩町の御岳神社や埼玉県の秩父
の三峰神社で配布。狼は大神(おおかみ)に音が通じ、大きく口の
裂けた姿からこんな名前がついたという。日本武尊伝説からんでい
ます。
・東京都青梅市。


▼時間に余裕がありましたら下記の【本文】もどうぞ。

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▼奥多摩・御岳山の伝説大口真神


【本文】

 関東地方の農山村へ行くと、家の戸口にオオカミの絵を描いたお

札を貼ってあるのを見かけます。大口真神(おおぐちのまがみ)の

文字も印刷してあります。このお札は、火難や盗難よけにご利益が

あるといいます。東京都奥多摩町の御岳(みたけ)神社や埼玉県の

秩父の三峰神社で配布しています。大口の真神とは狼のことだそう

です。



 オオカミは大神(おおかみ)に音が通じ、大きく口の裂けた姿か

らこんな名前がついたという。御岳神社の社伝『御嶽山社頭来由記』

(1622・元和(げんな)8年・江戸初期)には、こんな記述があり

ます。(参考書により『御嶽山社頭由来記』となっているものがあり混乱し

ているため、『山岳宗教史研究叢書』名著出版の記述に従いました)。な

お『新編武蔵風土記稿』(巻之114)にも『由来記』をそのままのような文

章で載っています。



 「武蔵国杣郡秩父峯御嶽山に鎮座まします御獄山大権現は、鎮護国

家の霊神、万民豊楽の化徳、当今万歳の治平を往古千歳の始に宣説し

給う霊妙不思議の神徳なり。偖(さて)其来由の万一を伺奉れは、人皇十

二代景行天皇の践祚(せんそ・即位)四十年にあたり、東夷多く叛(そむ)

きて王化に従ひ奉らず辺境騒動するに依て、……」というわけで、日本武

尊が熊襲(くまそ)「征伐」の旅に出かけます。



 そしてさらに東夷征伐のため東国に下り、「上州より当国に来たり給い

て、この御岳に陣営を統(す)べ(統一する)られ、服するを従え、背(そ

む)けるを誅(ちゅう)し給いて東南の国々みな平均せしかば」と、甲斐、

武蔵の平野部を平定していったらしい。そして再び御岳山の陣営に帰

り、なお日本武尊の軍は西北に向かいます。険阻な山路を越え、かつて

御岳の奥の院だった大岳山のあたりで、大きな白鹿が道路をふさいでい

ます。そこで「太占(ふとまに)を以て、山鬼(※邪神)なることを知り給い」

とあります。



 そんな時占いなんて悠長なことやったんですなア。ま、それはともかく、

日本武尊はとっさに山蒜(やまひる・ニンニクのことらしい)を鹿に投げつ

けました。これが大鹿の眼にあたり、鹿はドーッと倒れましたが、「山谷鳴

動して、雲霧四方に起こり」、ついに尊たちの軍隊は道に迷ってしまった

という。そんな時白いオオカミがあらわれ、西北に向かって道案内をした

ので無事に目的地に着き、「大に征し給ふに、賊民或は亡ひ或は従ひ

奉りて終に其地を得給ふ」というわけで、この一帯の人民を従わせること

ができました。



 その時、日本武尊は白いオオカミに「これから本陣に帰って火災盗難

を守護せよ」と命じると、「獣ながらもかしこまりし顔色あらわれて、御嶽山

に向かいて去りしとなり。これ当山の火難盗難退除の守護神たることの由

なり」。



 御岳山にある大口真神社はこの神のお使いのオオカミをまつったとこ

ろで、明治維新の前は「神狗供所」といい、この「おいのさま」(オオカミの

こと)へ供物をお供えをするところだったということです(『奥多摩風土

記』)。



 大口真神のお札は、この神狼のお影をあらわした護符で、御岳神社

で頒布しています。この護符をいただいた人たちは、神社の「古神符納

め所」に納めたり、家の戸口、倉前、また田んぼや畑の中に貼って火難

盗難除けを願うようになりました。オオカミは何百年かの劫(こう・非常に

長い時間)を経ると、全身の毛が白くなり、霊獣になって「白狼」といわ

れ、白狼天狗という天狗に変身するといいます。



 白いオオカミをまつってあるのは大口真神社だといわれる一方、天狗

研究者の知切光歳氏は『図聚天狗列伝・東日本』の中でこんなことをい

っています。「さて、日本武尊によって山の守護神に選ばれた白狼天狗

の祠は一体どこのあるのだろう。山中の御獄本社の背後にある「大麻止

乃豆天神社」は、もとは地主神祠だった。御獄神鎮座以前にはこの地主

神しかなかったというから、これだろうか。それとも天狗岩の上の天狗松

か、貧乏山(日の出山)の東の天狗岩あたりか」とし、天狗とすれば、奥ノ

院の祠にまつられている大天狗だともしています。



 同じオオカミでも神の使いとして崇められれば、従順になってしまうらし

く、地元では次のような話も伝わっています。福生(ふっさ)地方の某が、

夜更けに青梅橋を渡ろうとすると、なにか獣がうずくまっています。見ると

大きなオオカミなので、肝をつぶしましたが何事もなく通してくれたとい

う。また、八王子の恩方(おんがた)集落で村人が、穴の中に落ちたオオ

カミを助けてやりました。するとその夜のうちに、その人の家の裏口にお

礼として、山鳥が一羽置いてあったというのです。



 また『御嶽山社頭由来記』にある「夫より御嶽山に帰陣なし給ひ群臣に

告て宣く、此後千歳逆民なからしめんと自ら着し給ふ所の鎧を解かせた

まひ、岩倉に納めたまふ。武器を蔵めたる国なれば当国を武蔵の国と號

へしと」との一文。武尊が自分の武具を岩倉に納め、そこを「武蔵の国」と

名づけたとあるのです。



 「武蔵の国」と名づけたはいいのですが、その武具を埋めたという場所

はどこか興味のあるところです。これについて先の知切光歳氏は、甲籠

山(かろうざん・奥ノ院)だろうとしています。



兜(甲)を埋めたので甲籠山とするこの山の山名について、宮内敏雄氏

は『奥多摩』の中で、この山名の本当の意味は唐櫃(からびつ)のことで、

これを方言で「カロート」とか、「カロット」、「カラット」といい、その唐櫃を積

み重ねたような険しい箱状の場所、または岩壁が積み重ねたようにそそり

立った場所をいうのだと、反論しています。こんなふうに昔の本の記述を

訪ねて歩くのも楽しいものですね。だけど気になるのはお札のオオカミ。た

しか道に迷った日本武尊を案内したのは「白いオオカミ」でしたよね。……

???……。



▼御岳神社【データ】
【所在地】
・東京都青梅市。JR青梅線御岳駅下車バス10分ケ−ブル6分さら
に歩いて20分で御岳神社。写真測量による標高点(929m)と御岳
神社の社殿がある。地形図に山名と標高点の標高と御獄神社の文字、
記念碑の記号の記載あり。標高点より南西方799mに奥ノ院がある。
【ご利益】
・厄徐・延命・長寿・子孫繁栄・五穀豊穣、防火(火伏せ)
【位置】
・標高点:北緯35度46分58.25秒、東経139度08分58.25秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「武蔵御岳(東京)」

▼【参考文献】
・『奥多摩』宮内敏雄(百水社)1992年(平成4)
・『奥多摩風土記』大館勇吉著(武蔵野郷土史研究会)1975年(昭和
50)
・『角川日本地名大辞典13・東京都』北原進(角川書店)1978年(昭和
53年)
・『古代山岳信仰遺跡の研究』大和久震平著(名著出版)1990年(平成
2)
・『山岳宗教史研究叢書・17』(修験道史料集1・東日本編)五来重編
(名著出版)1983年(昭和58)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『新編武蔵風土記稿』(巻之百十四):大日本地誌大系12『新編武蔵
風土記稿6』(蘆田伊人編(雄山閣)昭和45(1970)年版:
・『図聚天狗列伝・東日本編』知切光歳(三樹書房)1977年(昭和52)
・『日本歴史地名大系13・東京都の地名』児玉幸多ほか(平凡社)2002
年(平成14)



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【目次一覧】(加筆部分)
 ・01「大山」
   ・01大山は雨降山 ・02大山開山良弁僧正 ・03良弁と関係ある山
   ・04大山石尊の石 ・05下社の納太刀 ・06下社わきの豆腐の碑
   ・07大山の天狗伯耆坊 ・08大山の天狗道昭坊
   ・09大山にもいた雷獣 ・10石尊大権現の道標
    ・11大山の雨乞い ・12デイラボッチと大山 ・13大山まいり
   ・14大山の修験道
 ・02「ヤビツ峠とその周辺」
   ・01ヤビツ峠 ・02岳の台と旧ヤビツ峠 ・03蓑毛の疫病大権現
   ・04護摩屋敷橋の名水 05菩提峠と風神の石祠
 ・03「表尾根」
   ・01表尾根 ・02二ノ塔・日本武尊の足跡 ・03一の塔がない!
   ・04三ノ塔とヒメハナワラビ ・05烏尾山 ・06行者ヶ岳
   ・07政次郎尾根戸沢・砥石と猿 ・08新大日岳
 ・04「大倉尾根」
   ・01大倉尾根今昔 ・02:大倉尾根幻の水場? ・03花立
 ・05「鍋割山稜」
   ・01鍋割山 ・02鍋割峠 ・03大丸小丸
 ・06「塔ノ岳・竜ヶ馬場」
   ・01塔ノ岳 ・02不動清水 ・03尊仏岩 ・04尊仏山荘での個展
   ・05塔ノ岳西麓の金鉱脈沢 ・06尊仏ノ土平 ・07日高、竜ヶ馬場
 ・07「丹沢山・丹沢三ツ峰・天王寺尾根」
   ・01丹沢山 ・02丹沢三ツ峰と幻の大滝 ・03エンザンギ
   ・04丹沢三ツ峰シロヤシオの絨毯 ・05本間の頭(鳥屋金沢)
   ・06丹沢三ツ峰御殿森ノ頭 ・07丹沢山天王寺尾根と蜘蛛ヶ淵
   ・08長者屋敷
 ・08「不動ノ峰・鬼ヶ岩・蛭ヶ岳」
   ・01不動ノ峰 ・02鬼ヶ岩 ・03蛭ヶ岳 ・04蛭ヶ岳の山名
   ・05蛭ヶ岳の祠 ・06蛭ヶ岳のシカ
 ・09「焼山・姫次・袖平山」
   ・01焼山 ・02黍殻山 ・03姫次 ・04袖平山 ・05神ノ川
 ・10「臼ヶ岳・檜洞丸」
    ・01臼ヶ岳  ・02檜洞丸の山名 ・03マルバダケブキ
    ・04檜洞丸でブロッケンを見た  ・05檜洞丸山頂の祠
 
・11「同角山稜」
    ・01同角の頭 ・02石小屋の頭 ・03大石山 ・04石棚山
    ・05ユーシン
 ・12「大笄小笄・犬越路・鐘撞山・大室山・馬場峠・加入道山」
   ・01熊笹の峰 ・02大笄、小笄 ・03犬越路 ・04鐘撞山
   ・05富士隠しの大室山 ・06大室山と相、甲国境争い
   ・07大室山・山頂の石碑を隠せ! ・08大群神社 ・09馬場峠
   ・10加入道山とオオバコ ・11用木沢 ・12箒杉
 ・13「畦ヶ丸・権現山・城ヶ尾・菰釣山」
   ・01畦ヶ丸とアセビ 02畦ヶ丸山頂の石碑 ・03畦ヶ丸初登頂争い
   ・04権現山 ・05大界木山 ・06平指山 ・07鳥胸山
   ・08城ヶ尾峠(山) ・09菰釣山 ・10石保土山 ・11織戸峠
   ・12バケモノ沢
 ・14「大棚・高指・鉄砲木ノ頭」
   ・01大棚ノ頭 ・02山伏峠 ・03高指山 ・04切通峠 ・05鉄砲木ノ頭
 ・15「三国山・明神・湯船山・不老山」
   ・01三国山 ・02明神山 ・03湯船山 ・04不老山
 ・16「大野山・丹沢湖付近・三神峠・神縄付近」
   ・01大野山 ・02丹沢湖畔の石碑 ・03玄倉 ・04丹沢湖権現山の雨乞い歌
   ・05神縄トンネル三神峠の石仏 ・06山神沢の石碑 ・07神縄頼政神社
 ・17「雨山・檜岳・シダンゴ山・高松山」
   ・01雨山峠(山) ・02伊勢沢の頭 ・03秦野峠 ・04シダンゴ山
   ・05高松山
 ・18「弘法・八菅・仏果・三峰山周辺」
 
  ・01弘法山 ・02吾妻山 ・03三増峠 ・04八菅山 05鳶尾山
   ・06仏果山 ・07経ヶ岳 ・08華厳山 ・09白山 ・10辺室山
   ・11煤ヶ谷正住寺  ・12大山三ッ峰山 ・13鐘ヶ岳 ・14日向山


▼見本と詳細は
こちらをご覧下さい。

 

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あります −画と文でつづったCDブック本−

・(01)野の本・山の本(春・夏・秋・冬編)全4巻(誠文堂新光社)

・(02)山の神々いらすと紀行(東京新聞) 雑誌「岳人」に連載・出版したものの改訂版です。

・(03新・ふるさとの神々何でも事典(富民協会)(改訂版) 奇神・変神・おもしろ神

・(04)家庭行事なんでも事典(富民協会)(改訂版) 元旦から除夜の鐘まで、その意味と由来。

・(05)新・丹沢山ものがたり(山と渓谷社) 既刊のものに大幅加筆改訂。身近な山々が次々に。

・(06)健康(クスリになる)野菜と果物(主婦と生活) 既刊のものに加筆改訂しました。

(07)ひとの一生なんでも事典(富民協会)(改訂版) 一風変わった冠婚葬祭の本。

・(08)ふるさと祭事記・歳時記(冨民協会)(改訂版) 忘れていたふるさとの祭りや行事。

・(09)全国天狗のはなし(自家製作) 各地の山々に君臨する愛すべき妖怪天狗。

・(10)山旅通信【ひとり画ってんの会 毎月、各地の山の伝説伝承イラスト通信が送られてくる。

 

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とよだ 時(山と田園風物漫画
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【時U-mo】あ-とすたじお
山のはがき画の会

 

 

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