▼山のまん画ばなし【本文】のページ10
 【とよだ 時】

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▼奥秩父・十文字峠のアズマシャクナゲ

【本文】

秩父三峠のひとつに数えられる十文字峠道。埼玉
県秩父市栃本から長野県川上村梓山を結び、江戸時
代には江戸と信州を結ぶ最短距離でした。この道は奥
秩父を代表する原生林で、とくに峠付近は秩父三大
原生美林に数えられています。


奥秩父をこよなく愛した英文学者で登山家の田部
重治もその著書「秩父の山々」の中で、「この峠は
それ自身の美を持っている。蜿蜒(えんえん)として
連なる峠道は、やがて幽邃(ゆうすい)なる樹木に蔽
(おお)われ、峠の真中頃は針葉樹林ふかく、林間に
は苔がぶくぶくしてあたりは掃き清められたように綺
麗である」と書いています。


井出孫六編『日本百峠』には第24番(埼玉県)に、
「定本信州百峠』には第7番に選ばれてもいます。こ
のあたりは、6月上旬ころにアズマシャクナゲが淡
い紅色の花を咲かせます。


十文字峠(標高1960m)はその名のように栃本か
ら梓山間の峠道と、甲武信岳(標高2475m)と三国
山(標高1834m)を結ぶ縦走路とが十文字に交差し
ている峠。昔は交易の道として、信州(長野県)側から
は米や麦、みそ、信州馬が運ばれ、武州(埼玉県)側か
らは煙草、塩、桶、輪竹などを運ばれたという。


有名な善光寺(長野市)へ参拝道でもあり、逆に三峰
神社(埼玉県秩父市)への三峰講の参詣道でもありまし
た。また中山道裏道としても利用されたという。そんな道
ですから栃本には1614年(慶長19)に関所が設けら
れました。江戸時代1702年(元禄15)におきた、あの
赤穂浪士討ち入りの第一報も、信州方面へはこの峠を
通る人によってもたらされたともいいます。


「川上村誌」によれば、1864年(元治1)の「通行人改
名帳」には同年8月中に309人の旅人が通っているとあ
るそうです。いまある1里(50町を1里としている)ごとに
道程を記した石の観音像は、同じ1864年(元治1)に建
てられたものだという。



ある年の6月も下旬、金桜神社(山梨県甲府市)
の宮司見習いに道を聞き、奥秩父の金峰山(標高点
2599m)に向かいましたが見事に迷い途中で1泊。
甲府駅にもどり小淵沢駅経由、信濃川上駅から遠回
りして奥秩父に入りました。


そして金峰山から信濃川源流に立ち寄り、甲武信
ヶ岳に縦走。荒川源流を訪れたあと十文字峠に向か
います。いくつもの峰を越え、アップダウンとくさ
り場を通過。やっと峠近くなったらしく、木の根が
タコの足のように登山道に剥き出ています。この急
な下り坂を気をつけながら降り、峠に降り立ちます。


峠には十文字小屋が建っています。この小屋はもと
は埼玉県側の四里観音のそばにあったそうです。それ
を1967年(昭和42)、埼玉県国民体育大会の時にここ
に移築したものと聞きます。水場に降りて水を補給し
てもどりました。見るとシャクナゲの花のそばで山
小屋の主人が、黙々と小屋の庭の植木の手入れをし
ていました。


人の気配もない静かな空間に剪定ばさみの音だけ
が聞こえます。通りすがりにちょっと声をかけまし
たが、植木の剪定に気をとられているようで返事が
ありません。仕事のジャマをしないようそっと立ち
去り、栃本方面への道を急いだのでありました。




▼十文字峠【データ】
【所在地】
・長野県川上村梓山と埼玉県秩父市大滝(旧秩父郡
大滝村)栃本との境。JR小海線信濃川上駅からバ
ス梓山、歩いて3時間45分で十文字峠。

【名峠】
・井出孫六編「日本名百峠」(第24番・埼玉県)
・郷土出版社版「定本信州百峠」(第7番)

【位置】
・十文字峠:北緯35度56分34.56秒、東経138度44
分5.75秒

【地図】
・2万5千分の1地形図:「居倉(甲府)」

【山行】某年6月27日(月曜日・晴れ)
・ビンボー山行の私は、青春18切符愛好者。山小屋に
も泊まれず、幕営山行ばかりです。


▼【出典】
・『角川日本地名大辞典11・埼玉県』小野文雄ほか編
(角川書店)1980年(昭和55)
・『角川日本地名大辞典20・長野県』市川健夫ほか編
(角川書店)1990年(平成2)
・『信州山岳百科3』(信濃毎日新聞社)1983年(昭和
58)
・『信州百峠』井出孫六ほか監修(郷土出版社)1995年
(平成7)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005
年(平成17)
・『旅と伝説』1933年(昭和8)8号
・「秩父の山」田部重吉:『日本山岳風土記3』宝文館 
1960年(昭和35)
・『日本歴史地名大系11・埼玉県の地名』小野文雄ほ
か(平凡社)1993年(平成5)
・『日本歴史地名大系20・長野県の地名』一志茂樹ほ
か(平凡社)1990年(平成2)

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▼このシリーズは、CD本『山の伝説いらすと紀行に記載してあります。

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