▼山の伝承神話【本文のページ】(03)
【とよだ時】(豊田時男)
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山旅【ひとり画ッ展】
▼神奈川県「丹沢・大山は雨降山」
▼神奈川県「丹沢・大山は雨降山」
【説明本文】
丹沢の山には仏果山(ぶつかさん)、経ヶ
岳、木ノ又大日岳、行者岳、不動ノ峰、権現
山など、仏教にちなんだ名前が多いようです。
そういえば最高峰の蛭ヶ岳も、別名は薬師岳
ですし、塔ノ岳にも尊仏山の別名があります。
それもそのはずで、かつてここは修験道の
盛んな山域だったそうです。大山(当山派)
や日向薬師(ひなたやくし・本山派)に本拠
のあった山伏たちは、いまから1200年も前
に表尾根道を開き、修験道入峰修行の場にし
ていたといわれます。
大山から表尾根をたどり、塔ノ岳にたどり
ついた山伏たちは、さらに奥へ、丹沢山から
蛭ヶ岳へと進み、次々に名前をつけていった
のだそうです。
さて、この大山は奈良時代の霊亀(れいき)
2年(716)、行基(ぎょうき)という僧が、
近畿地方から関東にやってきました。この人
は、奈良時代の高僧で、行基菩薩と呼ばれる
ほど人々に慕われた坊さんです。
そして、国分寺や日向薬師を造立後、大山
をも開山しようとしましたが、果たせなかっ
たといいます。奈良時代も後期になり、天平
勝宝(てんぴょうしょうほう)7年(755)、
奈良東大寺別当(べっとう・寺務を統轄した
長官)の良弁(ろうべん)というお坊さんが
大山を開山したといわれています。
良弁は、奈良時代の華厳(かげん)・法相
宗(ほっそうしゅう)の学僧(学問に優れた
僧)(お坊さんはみんな学問に優れていると
思っていたけど…)で、奈良市雑司町にある
東大寺を開山した偉いお坊さんです。幼い時
に金色の鷲にさらわれ、のち成長して名僧に
なったという。
良弁が鷲にさらわれてから30数年間、わ
が子を探し歩いていた母が、風の便りに偉い
お坊さんになっていることを知りました。母
は東大寺に出かけましたが、相手は高僧です
から、面会も思うようにいきません。そこで
二月堂の「大杉」に事情を書いた札を立てて
おきました。それが良弁の目にとまり、やっ
と再会できたという。このことは「良弁杉」
の故事として有名になっています。
江戸時代の地誌『新編相模国風土記稿』に
は、「……縁起(大山寺縁起)に據(よる)
に、往昔當山の嶺頭に五色の彩光あり、土人
(住民)恠(あやし)みて嶺上に至るに、地
中に不動の石像あり、其後天平勝宝七年僧良
弁(ろうべん)山頂に攀(よじ)て不動を拝
し、霊告を得て、不動の像(明王社の神体是
なり)を彫刻し、且堂舎僧坊等を造立す」と
あります。
良弁が、「住民たちが大山山頂から5色の
光が発しているのを見て頂に登り、不動明王
の石像を得た」ことを聞き、山頂に登ったと
ころ不動明王と出会えました。そこで早速、
不動明王の石像を彫り、またお堂や社など49
院を建立。その後八大坊を開いたというので
す。
いま丹沢の大山(相模大山)の山頂には、
阿夫利(あふり)神社の本社があり、中腹に
もその下社(しもしゃ)、また不動前には大
山寺があります。大山寺は雨降山大山寺(う
ごうさんだいさんじ)といい、かつては、石
尊社は大山寺の支配下になっていて、業務は
一切仏式で行われていたそうです。ところが
明治維新の神仏分離の時、石尊社は大山寺か
ら独立し、神仏習合名である石尊大権現の名
をやめて、いまのような阿夫利神社に改めた
といいます。
廃仏棄釈は、江戸時代、幕府が儒学を奨励、
ことに宋学を推したことから神仏の関係は急
変、仏教排斥の気運が高まっていきました。
やがて明治初年の神仏分離令につながり、仏
像は壊され、お堂は焼かれ、奈良時代から伝
わってきた、貴重な文化財は焼失してしまい
ました。まるでどこかの文化大革命のようだ
ったという。その陰に当時の神道家の林羅山
や平田篤胤・本居宣長などの陰謀があったと
もいわれています。
さて、大山とは山頂にまつられている大山
祇神(おおやまづみのかみ・山ノ神)の名か
らついた名前だそうです。相模地方にあるの
で相模大山とも呼ばれています。また雨降山、
阿倍利山、阿夫利山などと書き、「あふり、
あぶり」と読んだりもします。「あふりやま」
の山名の由来についてはいくつかの説があり
ます。
まず、頂上にいつも雲がかかっていて、雨
がよく降るからという説。次にアイヌ語のア
スプリ(偉大なる山という意味)が、なまっ
てあぶりやあふりになったとの説。また、古
代には「しかばね」を山に葬る(はふる=ほ
うむる)習慣があったといい、「はふり山」
に転じたという説もあります。
大山はまた相模の国御(くにみ)岳で、昔
から農神、海神とされ、信仰された山です。
「国のみたまが、吾路山命(おおやまのみこ
と・大山祇神)を生んだ」と地元の神話にあ
るそうです。
山頂の阿夫利神社は、ご神体が石であるた
め、昔は石尊社、石尊大権現と呼ばれ、商売
繁盛・豊作祈願・無病息災の神として、関東
一円の地域住民から信仰され、「大山まいり」
は落語にも出てくるほどのブームを呼んだと
いう。
この山には不思議な話も伝わっています。
江戸時代の国語辞典『和訓栞』(わくんのし
おり・谷川士清(たにがわことすが著)に、
明和乙酉(2年、1765年)の7月に相州雨
降山(大山)に(雷獣が)落ちたるも猫より
は大きく、ほぼ鼬(いたち)に似て色鼬より
黒し、爪五つありて甚だたくまし、と記載さ
れています。昔ここに落雷した時あらわれる、
雷獣に似た獣が雷とともに落ちてきたという
話もあります(『日本未確認生物事典』)。
またこの山は天狗の山でもあります。かつ
てここには相模坊(さがみぼう)という大天
狗がいました。しかし平安末期、香川県の白
峰(しらみね)に山移りしてしまい、次いで
鳥取県の伯耆大山(ほうきだいせん・1729
m)から別の天狗・伯耆坊(ほうきぼう)が
移住してきたというのです。その伯耆坊のホ
コラがケーブル不動前駅の大山寺の左側わき
に鎮座、また阿夫利神社下社わきには伯耆坊
の姿を彫った石碑もあります。
ここには別の大天狗がもう1狗(天狗は1
狗2狗と数える)いることになっています。
阿夫利山道(常)昭坊といい、平田篤胤が門
人の下総の国柏井村の中尾玄仲から聞いた話
をその著『仙境異聞』(せんきょういぶん)
に紹介したもの。内容は『天狗列伝』(知切
光歳)によれば、下総の国東葛飾郡新宿に、
旅館の主人で藤屋荘兵衛という熱心な大山信
者がいたという。荘兵衛はある日の午後、急
に思い立ち、大山へお参りに出発しました。
荘兵衛が2キロも行かないうち、「柿色の
絹を着て髪長く、山伏の如き人の、凡人より
眼大きく、すさまじげなる」男が道ばたで待
っていたという。さらに荘兵衛を背負って、
空を飛び大山まで連れて行ったという。そし
ておまいりをすますと、また空を飛び、出会
った場所まで戻り、そこへおろしてくれまし
た。そして近いうちにおまえの家に行くから
といって別れました。
その後約束通り訪ねてきて、荘兵衛と酒を
酌み交わしながら5,6日滞在して帰って行
ったという。その時書き残した文書からこの
山伏は、日向国坂野上の出身で、名前を常昭
(道昭)山人といい、田村という苗字で大山
にすんでいることまで分かったという。
篤胤が『仙境異聞』にこの天狗について書
いてからは、門人の島田幸安、宮地堅磐など
が、「幽界で常昭を見た」とか、「道昭のうわ
さを聞いた」とか、ほかのいろいろな本に書
いています。
しかし、こうした道昭のうわさ話は、平田
篤胤一派以外の神道家は、だれもいないとい
うのです。さらに阿夫利神社の神職でさえ、
常昭坊のことを全然知らないというのですか
ら困ったことになってしまいます。
▼大山【データ】
★【所在地】
・神奈川県伊勢原市と厚木市・秦野市との
境。小田急小田原線伊勢原駅の北6キロ。小
田急伊勢原駅からバス、大山ケーブル駅から
ケーブル利用下社駅下車、さらに歩いて1時
間30分で丹沢大山。三等三角点(1251.7m、
現地確認)と写真測量による標高点(1252m
・標石はない)と阿夫利神社奥社と電波塔が
ある。
★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWe
bシステム」から検索
・大山標高点:北緯35度26分27.09秒、東経1
39度13分52.22秒
★【地図】
・2万5千分の1地形図「大山(東京)」
▼【参考文献】
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県』伊倉
退蔵ほか編(角川書店)1984年(昭和59)
・『古代山岳信仰遺跡の研究」大和久震平著
(名著出版)1990年(平成2)
・『山岳宗教史研究叢書・8」(日光山と関東
の修験道)宮田登・宮本袈裟雄編(名著出版)
1979年(昭和54))
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ
出版)2005年(平成17)
・『新編相模風土記稿』:大日本地誌大系『新
編相模国風土記稿』編集校訂・蘆田伊人(雄
山閣)1980年(昭和55)
・『図聚 天狗列伝・東日本編」知切光歳著
(三樹書房)1977年(昭和52)
・『日本未確認生物事典」笠間良彦(柏美術
出版)1994年(平成6)
・『日本歴史地名大系14・神奈川県の地名」
(平凡社)1984年(昭和59)
・『山の石・大山石尊」羽賀正太郎:「あしな
か第73輯」(山村民俗の会)1961年(昭和36)
・『和訓栞(わくんのしおり)大綱』(谷川士
清(ことすが)・尾崎知光編 勉誠社文庫121
1984年)
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