山旅通信【ひとり画ッ展】
『日本百名山』の伝説と神話
(山の神・伝説神話)
【本文のページ】(05)
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▼日本百名山75番「九重山のはなし」
「空池の猿と久住山の恋敵」
(長文です。ご興味ある部分を
拾い読みしてください)
▼【目次】
・【九重山とは】
・【高山植物】
・【山頂の御池】
・【九重山と久住山】
・【ふたつのお寺】
・【山好き藩主】
・【文人墨客】
・【久住の空池伝説】
・【由布山と久住山の恋敵伝説】
・【九重山データ】
・【参考文献】
▼【本文】
★【九重山とは】
九州大分県にある九重山は、九重町(ここ
のえまち)と竹田市(旧久住町)にまたがる
火山群の総称。その南西山ろくは熊本県にま
で入っています。一名「九重三十五峰」とい
い、1000mを超える山が35峰も連なっていま
す。この山々は九重連山、九重連峰ともいうそう
です。
九重の名の意味はトロイデ型の火山が9つ重
なっていることによるとの説があります。最高峰は
中岳(1791m・竹田市)で、大船山(たいせんざ
ん・1787.1m・竹田市)、久住山(くじゅうさん・
1786.8m・竹田市)の順。ほかに三俣山(竹田市
・九重町)、稲星山(いなぼしやま・竹田市)、星
生山(ほっしょうざん・九重町)山などの峰々があ
ります。
頂上からの展望は、西は阿蘇の中岳、根子
岳、烏帽子岳、杵島岳などの阿蘇五岳から、南
は祖母山、傾山、大崩山(おおくえさん)、北は
由布山、英彦山(ひこさん)などが一望できます。
高山植物は、北西側に国天然記念物のコケ
モモ・ミヤマキリシマの大群落があり、とくにミヤマ
キリシマは有名です。山の歌に「坊がつる賛歌」
という歌があります。作詞:神尾明正・松本征夫
の2番です。「ミヤマキリシマ咲き誇り、山くれな
いに大船(だしせん)の、峰を仰ぎて山男、花の
情けを知る者ぞ」と山男の間で歌われています。
★【山頂の御池】
九重山の最高峰中岳の直下には火口湖の御
池(みいけ)があり、さらに西隣、一段低いところ
にすり鉢状にくぼんだ、空池(からいけ)がありま
す。御池は田畑を潤す水の源・水神として崇め
られ、「この池を汚した人には災厄がおきる」と信
じられてきました。これとは別に、俗に九重の神
は、綏靖天皇(すいぜいてんんのう)のことだとの
話がありますが、これは水精で水信仰に由来し
たもので別のことそうです。この水の神としての
御池にお参りにきた人たちは、池に賽銭を投げ
ていったらしく、御池の底には賽銭がたくさん沈
んでいたといいます。
近代になって硫黄の採掘の作業員たちが池
にもぐって拾い、酒代にしたといいます。ちなみ
に大船山横にも御池がありますが、ここは「おい
け」と呼ぶそうです。また『箋釈 豊後風土記』と
いう書籍に、「九重山の北に硫黄山があり。上常
に火あり。鳴動雷のごとく、黒烟天に接す。多く
の硫黄を産し、甚だ精良なり」とあるように、硫黄
山で硫黄が採れたそうです。酒代に賽銭を拾っ
たという人たちはここの作業員だったのでしょう
か。
★【九重山と久住山】
そもそも九重山には、久住山というピークがあ
ってどちらも同じように「くじゅうさん」と読むので
まぎらわしいことこの上ありません。しかし、「九
重」の方は、35座も連なる山の連峰の名前で、
一方「久住」の方はその中の一つの山なのだそ
うです。
どうしてこんなことになったのでしょう。そもそも
九重連峰も昔はほかの山と同じように、霊山と崇
められ、信仰の対象でありました。この連峰は、
豊後(いまの大分県)と肥後(熊本県)との境界
にまたがっており、豊後側では「九重山」といい、
肥後側では「久住山」と呼んでいたといいます。
それはふたつのお寺から来ているというのです。
この山中には九重山法華院白水寺(はくすい
じ)と、久住山猪鹿狼寺(いからじ)があり、それ
ぞれが中岳山頂に近い賽の河原の「上宮」をま
つっていました。しかもお寺の山号が「九重山」と
「久住山」。九重山法華院白水寺は、豊後国(い
まの大分県)岡(竹田)藩領の坊ガツルにあり、
一方、久住山猪鹿狼寺(いからじ)は豊後国内な
がら熊本藩(肥後)領の久住高原で下宮として勢
力をふるっていたのでした。
当然、地元の豊後側では「九重山」と書き、肥
後側では「久住山」と書きます。明治36年
(1903)、5万分の1の地形図がつくられました。
その当時、中岳と御池がセットで信仰されていま
した。そのため中岳は聖域ということで三角点設
置は遠慮して、中岳のすぐ南の無名峰が最高点
であるとして三角点を設置、久住山と名づけまし
た。
そして九重山という山は、いまの星生山(ほっ
しょうざん)にしました。その後、最高峰を「久住
山」とし、連山の総称を「九重山」にすることで話
し合い、5万分の1地形図には「九重(久住)連
山」と書くことで一件落着したように見えました。
ところが、そのあとで、最高峰であるべきはず
の久住山の山頂が崩壊し、大船山より少し低く
なってしまったのです。改めて測量したところ、
最高峰は中岳で、2位が大船山とわかり、久住
山は3位になってしまいました。いままで中岳は
上宮の神域なので遠慮して、三角点を置けず測
量できなかったため、正確な標高が不明だった
のです。神域だと遠慮していたのが仇になって
しまったのです。
昭和61年(1986)になり、九重山と阿蘇山一
帯は国立公園に指定されました。そしてその名
称を「阿蘇くじゅう国立公園」としています。くやし
いのは久住山側の地元、いまだに山名論争がく
すぶっているといい、はっきり決着はついていな
いようです。ただ、観光宣伝の面では「くじゅう」
のひらがな書きを協定しているということです。
★【ふたつのお寺】
さて、九重山の山中には、九重山法華院白水
寺(はくすいじ)と、久住山猪鹿狼寺(いからじ)
のふたつのお寺があることは先に書きました。江
戸時代には白水寺は、豊後岡藩(大分県)の庇
護を受けてますます発展し、修験者や禅定者
(ぜんじょうしゃ)がたくさん訪れました。また猪鹿
狼寺も熊本藩の庇護を受け、同様に一大山岳
霊場として栄えていました。
しかし、山上をめぐっての争いで、同じ天台宗
でありながら対立し続けているのでした。このふ
たつの寺も明治になると、廃仏棄釈の嵐が吹き
荒れ、廃寺にされてしまいました。その後、猪鹿
狼寺は復興されはしたたものの、もう片方の法華
院白水寺は完全になくなり、寺宝類の多くが失
われてしまいます。いくら仏さまをまつるお寺とは
いえ、栄枯盛衰の波にはかなわないのでしょう
か。
★【山好き藩主】
ところで、豊後国岡藩の第三代藩主の中川久
清という人は大の山好きだったそうです。藩主在
任中の間にも5回、大船山になどに登っているそ
うです。もっとも、強力が担ぐ人鞍(ひとくら)とい
う背負子(しょいこ)に乗って登っていたらしいで
すが。これほどですから、記録にはありません
が、当然若いころや、隠退後も登っています。
中川久清は52歳で藩主を隠退すると、「静に
は住みへしましとは思へとも、山より山の奥をた
つねむ」、「もとむへい隠れかもなしおのつから、
山よりおくの山を心に」などの歌を詠んでいま
す。久清は「入山」と号していたそうです。久清は
天和(てんな)元年(1681)67歳で没しました
が、法号を「宝厳院泰岳入山大居士」といい、大
船山中(久住町有氏)に葬られたそうです。
★【文人墨客】
この山に訪れた文人も多い。徳富蘇峰(そほ
う)が「久住高源有作」の漢詩をよみ、田山花袋
も和歌2首と漢詩を詠み、北原白秋も「草深野こ
こにあふげば国の秀や久住はたかし雲を生みつ
ゝ」と歌っています。また野口雨情も詩を詠み、
川端康成は九重山を訪れて『波千鳥』(「続千羽
鶴」)を書いています。ほかにも歌人や俳人、作
家で九重を訪れた人は多く、九重山域のあとこ
ちに歌碑や句碑、文学碑が残されています。
★【久住の空池伝説】
さて、九重山最高峰の中岳の東側東直下に
は火口湖御池があり、さらに隣接して東側一段
低いところに空池(からいけ・くぼ地)があります。
ここにはこんな伝説があります。久住の山の守護
神は心の優しい女神さまで、土地に住む人々も
昔から「久住のお山で殺生してはならぬ。この戒
めを守らぬとたたりがある」と、村中で代々この禁
制を守って生活していました。
ところが、どこにもひねくれ者がいるもので、
「そんな馬鹿なことがあるもんか、たたりがあるか
ねえか、試してやる」と、人々のとめるのも聞かず
に、猟に出かけました。そして両手を合わせて、
助けてくれというような猿の仕ぐさも意にとめず、
撃ち殺してしまったのです。それは母猿でした。
母猿は腹の下には生まれたばかりの子猿をしっ
かり抱きしめたまま死んでいました。
猟師は子猿を母猿から放そうとしましたが、母
猿はしっかり抱きしめていて、どうしても放れませ
ん。猟師は山刀を抜いて母猿の両手を切り、子
猿を放しました。そして母猿の血で汚れた山刀
をきれいにしようと拭きました。しかし、いくら拭い
ても血が落ちません。猟師は近くにあった池に
行き、水で山刀を洗おうとしました。
すると、いままで波打っていた池の水が、みる
みるなくなって空の池になってしまったのです。
「???」。あわてた猟師はあたりを見渡すと、す
ぐそばのくぼ地が、いつのまにか満々と水をたた
えています。猟師は急いでその池でまた刀を洗
おうとすると、またもや水がなくなってもとのくぼ
地になり、いつの間にか前の池が水でいっぱい
になっています。
猟師は慌てにあわてて両方の池を血のつい
た刀をもったまま行ったり来たり。次第にやけくそ
になり、右往左往しているうちついに日が暮れて
いきます。猟師はそのうち、とうとう気が狂ってし
まいました。これ以来、水のある御池(みいけ)と
水のない空(から)池がならぶようになりました。こ
の池の水は聖なる水。「久住のお山で殺生して
はならぬ。この戒めを守らぬとたたりがある」。村
中で代々守ってきた禁制を犯した罰だと人々は
噂しあいました。
★【由布山と久住山の恋敵伝説】
いま九重山(九重連山)の最高峰は中岳
(1791m)です。しかしかつて、正確な三角点測
量ができなかった昔、久住山(九重連山の中の
一山)は九州一、背が高くりりしい山だと思われ
ていました。これはそのころの話です。久住山の
北東、別府市の近くに由布岳(1583m)がありま
す。由布岳はその美しい姿から「豊後富士」とも
呼ばれるほど男前の山でした。その由布岳の近
くにはおしとやかで愛らしい「鶴見岳」(1375m)
という山がありました。
このふたつの山は幼なじみで、お互いに思い
を寄せ合う中でした。そんな時、その鶴見山を見
そめて通ってくる山があらわれました。それはは
るか彼方にりりしく九州一高くそびえる久住山で
した。久住山はミヤマキリシマの花束をもって、
毎日のように鶴見山のもとに通ってきます。その
熱心さにさすがの鶴見山も心がゆれはじめまし
た。
それを知った由布山は、「確かに高さでは久
住山が一番だけど、私のところにも久住山に負
けない花が咲いている…」と、ミヤマキリシマ、エ
ヒメアヤメ、サクラソウなどでつくった花束を鶴見
山にプレゼントしたのでした。鶴見山はその真心
にすっかりまいり、ふたりはめでたく結婚しまし
た。
そこへ、何も知らない久住山が花束を抱えて
やってきました。そこではじめてふたりが結婚し
たことを知りました。久住山は、がっかりして涙を
流して悲しみ、遠く南西の彼方へ帰って行きまし
た。そして、二度と姿をあらわすことはありません
でした。この時久住山が流した涙が鶴見山の南
東にある志高湖(しだかこ)になりました。また鶴
見山は由布山に寄り添うようにそびえています。
そしてふたりの間に生まれた子が太平山(扇山・
815m)になったということです。
▼九重山【データ】
★【所在地】
・大分県九重町と竹田市旧久住町にまたがる。J
R久大本線豊後中村駅からバス、九重長者原-
経由牧の戸峠、さらに歩いて2時間で久住山(一
等三角点1786.6m)、1時間で中岳。(写真測
量による標高点(1791m)がある。
。
★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWe
bシステム」から
・中岳標高点:北緯33度05分9.46秒、東経1
31度14分56.5秒
・久住山一等三角点:北緯33度04分55.87秒、
東経131度14分27.13秒
★【地図】
・2万5千分1地形図名:久住山、湯坪、大船山
▼【参考文献】
・『角川日本地名大辞典44・大分県』竹内理三
(角川書店)1991年(平成3)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出
版)2005年(平成17)
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)
1997年(平成9)
・『日本三百名山』毎日新聞社編(毎日新聞社)
1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004
年(平成16)
・『日本の民話20』(福岡・大分編)加来宣幸ほ
か(未来社)1974年(昭和49)
・『日本歴史地名大系45・大分県の地名』(平凡
社)1995年(平成7)
・『名山の文化史』高橋千劔破(河出書房新社)
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20/10/2000



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