山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼999号「神奈川県箱根・二子山の伝説」

【序文】

その昔、箱根山には「アマンジャク」といって、人間とも神さまと
も分からない大力無双の剛の者がすんでいたという。この怪人が、
自分のすんでいる箱根の山より、富士山があまりにも美しいのが憎
らしくて仕方ありませんでした。アマンジャクは、なんとか富士山
の形を崩してやろうと、山肌を削りとりました。
・神奈川県足柄下郡箱根町。
(本文は下記にあります)

▼999号「神奈川県箱根・二子山の伝説」

【本文】

その昔、神奈川県箱根山には「アマンジャク」という、人間とも神
さまとも分からない大力無双の剛の者がすんでいたという。この怪
人が、自分のすんでいる箱根の山より、富士山があまりにも美しい
のが憎らしくて仕方ありませんでした。

アマンジャクは、なんとか富士山の形を崩してやろうと、山肌を削
りとりました。崩した土をモッコに入れて、天秤でかついで、相模
灘へ持っていって捨てだしました。

その捨てた土からできたのが伊豆の大島などの島々になったとい
う。ある晩、都合でもあったのか、遅くから仕事にかかったアマン
ジャクは、相模灘まで行く途中、箱根のあたりまで来た時、夜が白
んでしまいました。

昼間が苦手なアマンジャクは大慌てに慌て、担いでいた土をそこに
捨て、姿を隠してしまったというのです。大モッコから投げ出され
た2つの泥で出来たのがいまの二子山で、右も左も同じ名前の二子
山になっています(『日本伝説集』)。

このアマンジャクはダイダラボッチとも呼ばれ、『茅ヶ崎の伝説』
にはこんなふうに載っています。「神奈川県茅ヶ崎市の中赤羽地区
のそばの菱沼と室田の境に、手白塚(てしろづか)というのがあっ
たそうだ。その東北側に「だいの窪」という大きな窪地があった。

これは昔、怪人が歩いてきた足跡だという。藤沢市の二ツ谷(や)
地区にも同じものがあって、それはダイダラボッチの右の足跡で、
菱沼にあるのは左足跡だという。二ツ谷とここを一またぎするんだ
から、よほど大きな人だったんだろう。

なにしろ、かかとのあとだけで180坪あったかね。ちゃんと足のか
っこうしてたんですよ。砂を両肩にかついで歩いてきたけど、ひも
が切れちゃった。それで、砂をおんまけてしまったところが、箱根
の二子山という」(『日本伝説大系5・南関東』から)。

そんなわけで出来た二ツの二子山。この山はそれぞれ、上二子山
(1091m)、下二子山(1064m)と呼ばれるドーム型の双子峰。前
者は表二子ともいって、山頂に無線中継施設があります。一方の下
二子山は裏二子ともいい、山頂付近には箱根町天然記念物になって
いるハコネコメツツジや、ヒメイワカガミなどが生育しています。

標高800mから上は、特別保護区に指定されていますが盗掘がひど
く、いまは山全体を柵で囲んで鍵がかけられ、入山禁止のありさま。
年1回、町の教育委員会が埴生調査に入っていますが、いまだ盗掘
の跡があるというからひどいものです。二子山は裏から見ると山頂
が4つに見えます。このため「表二子に裏四つ子」と呼ばれるとい
うから面白い。

また鎌倉時代初頭、建久2年(1191年)の箱根権現の由来記で、
箱根権現別当・行実編纂の「筥(はこ)根山縁起并序」という文書
に、「長生妙術之霊薬籠之。或筥或盖(※ふた=蓋の俗字)。故號盖
子塚。岸脚有二池。一名精進池」(※長生妙術の霊薬之(これ)に
篭(こも)る、或は筥(はこ)にし、或は盖(ふた)にす、故に盖
子塚(ふたごづか)と号す…)とあり、この盖子塚が二子山なのだ
そうです。

二子山の西ろくにはここに出てくる精進池が横たわっています。こ
のあたりは元箱根石仏群のあるところ。どれも二子山からとれた二
子石と呼ばれる輝石安山岩に刻んだもの。「二十五菩薩」には1293
年(永仁元)や1295年(永仁3)の銘があります。近くには高さ3.2m
の地蔵菩薩像「六道地蔵」があり、「賽の河原」や「血の池」、「死
出の沢」などの地名も残っています。

そしてこの地蔵には「二子岳」と判読できるという銘文が刻まれて
いるのが興味を引くところだとしています。『精進池の石造塔』(赤
星直忠・箱根町誌第一巻)によれば、「ここに六道の辻を想定し、
地蔵菩薩の加護を期待したという。

当然のことながら「死出の山」が存在した。それは「二子山」の銘
からみて六道地蔵の背後にある二子山が「死出の山」と考えていた
のではないかと推察される」と書かれています。精進池の池畔には
「火焚き地蔵」もあります。「箱根山ふた子の山も秋深み明け暮れ
風に木の葉散りかふ」(『好忠集』)。

▼箱根・上二子山【データ】
★【所在地】
・神奈川県足柄下郡箱根町。二子山は登山禁止ですが、右手に二
子山を見上げながら甘酒茶屋から旧東海道の石畳、お玉ヶ池を経て
芦ノ湯の史跡探勝路までのハイキングコースがあります。JR東海
道本線小田原駅からバス、甘酒茶屋下車、お玉ヶ池まで30分、精
進池まで45分、芦ノ湯まで30分。三等三角点(1090.98m)と、
写真測量による標高点(1099m)と、無線中継施設がある。

★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から
・上二子山標高点:北緯35度12分53.07秒、東経139度2分30.73

・上二子山三等三角点:北緯35度12分50.52秒、東経 139度2分
36.91秒

★【地図】
・旧2万5千分の1地形図:箱根。

★【参考文献】
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県』伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・『かながわの山』植木知司(神奈川合同出版)1981年(昭和56)
・『山岳宗教史研究叢書17』「修験道史料集1・東日本編」五来重
編(名著出版)1983年(昭和58)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本伝説集』高木敏雄(ちくま学芸文庫・筑摩書房)2010年(平
成22)
・『日本伝説大系5・南関東』(千葉・埼玉・東京・神奈川・山梨)
宮田登ほか(みずうみ書房)1986年(昭和61)
・『日本歴史地名大系14・神奈川県の地名』鈴木棠三ほか(平凡社)
1990年(平成2)
・「箱根山縁起并序」:『山岳宗教史研究叢書17』「修験道史料集1・
東日本編」五来重編(名著出版)1983年(昭和58)

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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