山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼954号「奥多摩笹尾根・笛吹(うずしき)峠」

【前文】
三頭山からつづく笹尾根にある笛吹峠。うずしきとは口笛などをい
う古語で、そばを流れる沢の水の音の形容詞から生まれた呼称だろ
うという。昔は境目番所があり旅人を見張っていました。峠の大日
如来の石塔は、ふもとの山伏たちの本尊からきているのでしょうか。
・東京都檜原村と山梨県上野原市との境

・【本文】は下記にあります。

▼954号「奥多摩笹尾根・笛吹(うずしき)峠」

【本文】
 奥多摩・三頭山から東南にのびる笹尾根。東京都檜原村と山梨県
上野原市との境を走っています。そのほぼ中央にある笛吹峠(うず
しきとうげ)は、東京都檜原村(ひのはらむら)笛吹集落と山梨県
上野原市との境にある静かな味わい深い峠です。標高1100m。中
世には檜原村の笛吹地区より上野原市藤尾に通じる古道が通ってい
て、武蔵と甲斐をつなぐ生活文化の交流点だったという。

 笛吹と書いて「うずしき」とはめずらしい読み方ですが、地元の
人は「うそふき峠」とか「うずひき峠」などとも呼んだりしていま
す。ウズシキは、口笛などをいう古語だそうで、これはドドメキな
どと同じように、そばを流れる沢の水の音の形容詞から生まれた呼
称だろうということです。木暮理太郎(明治時代の登山家、日本登
山界の大先達)は、これは韓国語系の言葉だろうといっているそう
です。

 昔はここに境目番所がありました。本宿の口止め番所で目こぼれ
た旅人をここで見張っていた、政略上重要な峠道でした。峠の上に
は「みぎ かずま」「ひだり さいはら」と刻まれた古い石碑があ
ります。これは道標を兼ねた「大日百番塔」というもので、これが
峠の名の由来になっています。檜原村は修験道の流れをくんでいる
神社やお寺が多く、山伏たちの修験道場になっていました。そのた
め、修験道の本尊である大日如来にちなむ石塔が峠に建てているの
でしょうか。また、すぐわきに丸山があり丸山峠とも呼ばれていた
そうです。

 笛吹峠から三頭山方面(西北側)には、槇寄山(まきよせやま・1188
m)があります。牧寄山ともいい、かつては千間平(せんげんだい
ら)とも呼ばれたところ。千間は富士山を意味する浅間からきたも
ので、昔は富士をまつっていたらしいという。山頂は平らでやはり
富士山の展望がよい。東に下ったところに西原峠(さいはらとうげ・
郡内峠)があります。

 槇寄山は山梨県側の呼び名で、もともとは山の名ではなく、付近
一帯の字(あざ)名らしい。農家にとっての馬の食料、堆肥などに
必要な草生え地を意味する名から来ているという。笛吹峠のすぐ東
南にある丸山はドーム型の形。武州・甲斐両方から同じ名で呼ばれ
たいたという。山頂の北面にシダの群生地があります。

 笹尾根を丸山からさらに東南に下っていくと、土俵岳(どひょう
だけ・1005m)があります。かつては「笹平の尾根」と呼ばれた
地点。峠として直接上り下りしていた痕跡がいまも残っています。
山頂は平らで高木林に囲まれています。山頂の東、約700mのとこ
ろに日原峠が乗越しています。峠には石仏なども残っていて峠らし
い雰囲気をとどめています。

 さて、東京都檜原村は人口4700人。明治から大正にかけては養
蚕が盛んで、一時は8ヶ所もの工場があり、茨城県方面からも働き
手が来たほどだったという。村名の文字のようにヒノキやスギなど
森林におおわれ、多摩林業の中心地になっています。自然美に恵ま
れ、近くの三頭山を中心に「檜原都民の森」もでき、森林館も設置
された観光地としても知られた所です。

 笛吹峠のある笛吹集落は檜原村大字人里(へんぼり)に属してい
ます。かつては、人里から笛吹峠東側にある小棡(こゆずり)峠を
経て、山梨県側棡原(ゆずりはら)から上野原へ抜ける「古甲州街
道」と呼ばれる道が発達、平安後期の嘉元3(1305)年の銘がある
板碑や石仏が多く残っています。


▼笛吹峠【データ】
【所在地】
・東京都西多摩郡檜原村人里と山梨県上野原市(旧上野原町)との
境。JR五日市線武蔵五日市駅からバス、笛吹入り口下車。歩いて
1時間40分で笛吹峠。地形図上には峠名のみ記載。笛吹峠より東
南方向直線約560mに丸山がある。

【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から
・笛吹峠:北緯35度42分8.36秒、東経139度3分33.28秒

【地図】
・旧2万5千分1地形図名:猪丸

【参考文献】
・『奥多摩』宮内敏雄(百水社)1992年(平成4)
・『角川日本地名大辞典13・東京都』北原進(角川書店)1978年(昭
和53年)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

山旅イラスト【ひとり画展通信】
題名一覧へ戻る
………………………………………………………………………………………………