山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼901号 立山龍王岳の竜と天狗

立山浄土山の一角にそそり立つ岩峰龍王岳。ここに降った雨は東に流
れて黒部川、西に流れて常願寺川に注ぐ分水嶺。その昔、龍王岳には
天狗がすんでいるといわれ、登ってくる者を引き裂くという伝説があった
という。この山のヌシの龍王のすみかは、ザラ峠から西側、常願寺川に下
る途中の刈込池。水害をもたらす悪竜や、大蛇をすべてこの池に封じ込
めているという。
・富山県中新川郡立山町
(本文は下記にあります)

【本文】

立山の室堂平のバス終点から一ノ越経由で立山雄山へ向かいます。
祓堂を過ぎたあたりから右側に三角形にとがった岩峰があらわれ
ます。龍王岳です。『富山県山名録』によれば、山頂には雄山神社
の末社、龍王岳社の小社があったといわれていますがいまはあり
ません。

ここ祭られている神さまは、天水分神(あめのみまくりのかみ)
と、国水分神(くにのみまくりのかみ)だそうです。これらの神
は天地の水の分配を司る神だそうです。『神々の系図』によれば水
分(みくまり)は水配りの意味だそうです。

『万葉集』巻七上に「神(かむ)さぶる磐根(いわね)こごしき
三芳野(みよしの)の水分山(みくまりやま)を見れば悲しも」
とあり、だいたい山の分水嶺をいっています。また国水分神(く
にのみまくりのかみ)は「天」に対する「国」で、天与の水(雨)
と地与の水(雨)との関係からいわれた名だという。

山頂の鋭い尖峰に降った雨はこのピークで2分され、東に流れて
黒部川、西に流れて常願寺川に注いでいます。ザラ峠から西側、
常願寺川に下る途中の立山カルデラ底池沼のひとつ刈(狩)込池
があります。この池は竜王の住みかだそうです。

立山開山の祖である佐伯有頼(さえきありより)は、常願寺川の
氾濫を鎮めるために立山権現に祈って、水害をもたらしている三
里四方の悪竜や、大蛇をすべてこの池に封じ込めたという伝説が
あります。

「南谷には大きな池よ、山を開いた有若(有頼)さまは、あまた
の大蛇が住みなす故に、権現さまに頼ませられて、大蛇刈込池じ
ゃとござる」….。「飛騨越中安政地震 山抜泥水化物口説(やまぬ
けどろみずばけものくどき)」の一節です。これは1858(安政5)
年の地震による大水害を記憶にとどめるため、を流布させた口説
節というものだそうです。

かつて立山温泉には、龍王岳から勧請した祭神を祀る水上龍王堂
というお堂があって、刈込池の竜神に雨乞いや止雨を祈願したと
いう。龍王岳の記録は、江戸時代前期の寛文6(1666)年の「立
山ざら越之図」という絵図に「竜王ヶ嶽」と記載、天和3(1683)
年の大淀三千風の「立山路往」に「竜王ヶ嶽は明神遊覧の阡にひ
とし」とあり、神の遊ぶ場所だといっています。

グンと下って、江戸時代後期の弘化2(1845)年の大塚敬業の「登
立山記」の中に、浄土山からの眺望を記述して「近クニ聳ユルハ
蟻峰タリ、竜嶽タリ」とあります(『富山県の地名』)。またその昔、
龍王岳山頂にはには天狗がすんでいるといわれ、登ってくる者を
引き裂くという伝説があったという。

ある年の7月も29日、剱沢から室堂駅についてほんのちょっとと
喫茶店に入り涼しい空気に当たり気力半減。室堂山への急登の途
中、わきの残雪で若者がスキーに興じる姿を見るのもうつろです。
やっと着いた一ノ越への三叉路登山道。よくぞ天狗さまに引き裂
かれなかったと胸をなで下ろしています。

龍王岳の南の鬼岳(2750m)と、獅子岳(2714m)の位置は、か
つてはどちらが鬼でどちらが獅子か、地図によってまちまちで長
年混乱していたそうです。1959年(昭和34)版の国土地理院地図
でいまのように、北の峰を鬼岳、南の峰を獅子岳に統一したそう
です。きょうのテント場は五色ヶ原。鬼岳、獅子岳、ザラ峠も無
事通過。残雪のなかキャンプ場へ急いだのでありました。

▼龍王岳【データ】
【所在地】
・富山県中新川郡立山町。富山地方鉄道立山線立山駅からバス、
室堂箸ターミナル下車、さらに歩いて1時間30分で龍王岳。写真
測量による標高点(2872m)がある。すぐ北側に富山大学立山研
究所がある。地形図上には山名(龍王岳)と標高のみ記載。

【位置】
・標高点:北緯36度33分52.9秒、東経137度36分25.8秒

【地図】
・旧2万5千分1地形図名:立山(高山5号-4)

【参考文献】
・「角川日本地名大辞典16・富山県」坂井誠一ほか編(角川書店)
1979年(昭和54)
・「山岳宗教史研究叢書10・白山・立山と北陸修験道」高瀬重雄編
(名著出版)1977年(昭和52)
・『富山県山名録』橋本廣ほか(桂書房)2001年(平成13)
・「日本歴史地名大系16・富山県の地名」(平凡社)1994年(平成

ゆ-もぁイラスト・漫画家・
山と田園の画文ライター
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