山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼897号 房総三石山・育つ岩と天狗ばなし

房総半島のほぼ中央にある三石山は、3つの大岩があり、岩くつ
に食い込むように観音堂が建っています。山頂へ登るには狭い岩
の割れ目を進みます。この岩が年々育つといい、いまは体を横に
してやっとすり抜けます。ここにも天狗がたくさんいて修行を積
んだ清廉潔白な住職でないと勤まらないという。
※本文は下記にあります。

【本文】

房総半島のほぼ中央、千葉県君津市亀山湖の近くにある三石山。山
頂は、狭い岩峰が突起になっていてその上に立つと、まるで空中に
突き上げられた感じになります。標高としては282mと低い山なが
ら360度の展望。

西側を見れば東京湾をはさんで箱根、丹沢の山々や富士山が、また
近くは鹿野山、高宕山、愛宕山、清澄山まで手にとるようです。
ほこらのまわりは縁結びの観音への願かけで、ハンカチ、タオル、
ネクタイなど、結べるものなら何でもビッシリ結びつけられてい
ます。

ここは直下の三石観音堂の奥の院になっていて、ほこらがあり、中
で役の行者のような石像がにらみをきかしています。三石観音堂は、
広場のわきの三つの大石に食い込むように建っていて、岩くつに
は十一面観音がまつられています。山の名前はこの三つの大石か
ら来ているといいます。

ここのご利益は開運と海運、縁結びだといい、昔から近郊の人たち
の信仰を集めてきたそうです。入り口駐車場に観光バスがならぶ
こともあります。山頂へ登るには狭い岩の割れ目を体を横にして
かわすように通ります。この岩が年々大きく育っているというの
です。

そういえば、以前はそれ程でもなかった窮屈さが最近は通り抜ける
のに骨が折れます。かつては傘をさして通れたという人もいるので
すから本当の話かも知れません。このままではあと何年通れるか心
配です。

江戸時代、天保4(1833)年に田丸健良が著した「房総志料続篇」
(巻之九・望陀郡)に三石山についての記述があります。「(木更津
市亀山の)草河原より山に登る事半里餘、三ツ石観世音。(中略)
少し下りて左へ寄りて、南に向ふ。比所の石堅黒にて他の石と異れ
り。少し行けば右の方松山あり。是観世音の山也。入口観世音。

上に三石(中略)右へ入る事十間許、奇石怪巌(岩)筆に盡し難し。
堂は南向。山中の大石へ造りかけ、大石、堂上を壓(圧)して今に
も墜(落)ちるやと危うし。堂上大石、西の方石の間一尺五寸許、
これを抜け出づれば斷崖千先仞(仭)、諸佛の石像有り。

堂は三間四面。千手観音菩薩、前の岩の中より出現。別当、草河原
富士山蔵福寺。堂の脇に貳間に三間半の小室あり。今は老僧一人住
居給仕す。深山幽谷にして天狗等多く住居す。故に清潔の僧ならで
は居ること能はずと」とあります。

三石観音の別当(寺務を治める)は山麓の木更津市亀山草川原の蔵
福寺。このあたりにも天狗がたくさん棲んでいて暴れまわり、修行
を積んだ清廉潔白なお坊さんでないと勤まらなかったようです。

お堂の上の大岩には貝の化石がついていて、大昔は海の底だった
ことを物語っています。三石山から元清澄山方面へのハイキング
コースがあって、よくハイカーが訪れるところです。

▼三石山【データ】
【所在地】
・千葉県君津市。久留里線上総亀山駅の南2キロ。JR内房緑木
更津駅乗り換え久留里線終点の上総亀山駅下車、徒歩1時間40分
で三石山。標高点((282m)がある。地形図に山名と標高点とお
寺のマークの記載あり。

【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
・標高点:北緯35度12分33.81秒、東経140度05分20.77秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「坂畑(大多喜)」

【参考文献】
・「角川日本地名大辞典・千葉」(角川書店)
・「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『房総山岳志』内田栄一(論書房出版)2005年(平成17)
・「房総志料続篇」(巻之九):(「房総叢書6」房総叢書刊行会
編(房総叢書刊行会発行)1941年(昭和16)所収

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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