山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼868号 「八ヶ岳・横岳が好きなツクモグサ」

▼868号 「八ヶ岳・横岳が好きなツクモグサ」

【本文】
山地の日当たりのいいところに咲くオキナグサという花がありま
す。花が咲いたあとたくさんの白い羽毛がのびだし、風になびくさ
まは、まるでお年寄りの白髪がなびいているようです。そこでつけ
た名前がオキナグサ(翁草・漢名で白頭翁)。

高山植物のツクモグサはこのオキナグサの仲間です。ツクモグサは
北海道と本州(八ヶ岳と北アルプス白馬岳)の高山の礫地や草地に
分布するキンポウゲ科オキナグサ属の多年草。日本特産の高山植物
です。八ヶ岳では赤岳、横岳、硫黄岳の間、なかでもなぜか横岳の
周辺の西斜面が好きだそうで、ここにかたまって生えています。

高さは12センチから〜20センチ。6から7月に淡黄色の花を斜め
上向きに咲かせます。花は直径2.5〜3センチほど。花はちょうど
梅雨どき、雨やくもりでは開かないといい、晴れて太陽が顔を出し
ている時だけ咲くというからなかなかの気むずかし屋さんのようで
す。

6枚の淡黄色の花弁は、実はがく片、その中の黄色いのは雄しべだ
そうです。花弁はありません。がく片の外側には毛が生えています。
葉は花よりも遅くのびて、ニンジンのような形で根元から生えてい
ます。梅雨が明けて夏山の本格シーズンになるころ、ツクモグサの
花は終わり、花茎がのびはじめ、綿毛に種子(タネ)がついて、高
山植物のチングルマによく似ています。

ツクモソウは漢字で書くと「九十九草」。これを八ヶ岳ではじめて
発見したのは弁護士の城(じょう)数馬という人だそうです。城数
馬が八ヶ岳でこの草を発見した時、「花は黄色で、形がオキナグサ
に、葉っぱはコマクサに、全体にはハクサンイチゲに似ている!」
珍しい花。どうやら新種らしい。

有名な牧野富太郎博士に見てもらいましたがどうもはっきりしませ
ん。しかしオキナグサ(白頭翁)によく似ています。オキナグサの
漢字の名前「白頭翁」の1字め「白」は百の字から横一をとった字
の白です。そこでこの花も百に一つ足らない九十九としました。

またちょうど九十九は祖父の名前でもあり、ついに「九十九草」と
名づけたということです。彼は江戸時代末期の1864(元治1)年
に久留米藩士の家に生まれました。司法省法学校から帝国大学法科
大学仏法学科を卒業、弁護士として法曹界で活躍しました。

また東京市議会議員で、山野草愛好家としても知られ、日本山岳会
の創設や、東京大学理学系研究科附属植物園日光分園(日光植物園)
の開設にも深く関わったそうです。ちなみに彼は、八ヶ岳でそのほ
か、ウルップソウ、ミヤマツメクサ、クモマナズナなどの新種を次
々と発見したそうです。
・キンポウゲ科オキナグサ属の多年草

▼【参考文献】
・『高山植物』(野外ハンドブック・8)小野幹雄ほか(山と渓谷社)
1985年(昭和60)
・『植物の世界8巻・93号』(週刊朝日百科)(朝日新聞社)1996年
(平成8)
・『世界の植物巻6・68号』(朝日新聞社)1977年(昭和52)
・『日本の野草』(山と渓谷社)1983年(昭和58)
・『牧野新日本植物図鑑』牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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