山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼863号 「房総・鹿野山の鬼」

▼863号「房総・鹿野山の鬼」

【本文】
房総丘陵の北の端に鹿野山(かのうざん)という山があります。マ
ザー牧場や九十九谷があることで知られ、352mと標高は低いです
が南東部は浸食され深い谷を形成しています。この山には昔、日
本武尊が“鬼”を退治したとの伝説があります。

相模国(神奈川県)から東京湾の入り口の浦賀水道(走水・はし
りみず)を渡った日本武尊の軍船は上総へ上陸。次々に民家を焼
きながら進んで行きます。そして鹿野山に到着。鹿野山の鬼(阿
久留王・あくるおう)は西方の鬼泪山(きなだやま)に逃げ込み、
泣いて謝りましたが許して貰えず退治されたというのです。

その結果、北麓を流れる染川(血染川)は、王の血が三日三晩流
れ続けたという。それが腐敗してそそいだ所が東京湾の千種浦(血
臭浦・ちぐさうら・富津市千種新田)だとされています。染川の
水源は鹿野山の春日峰の蛇堀で、いつも白蛇がすみ里人は近寄ら
ないといいます。

ところで阿久留王は、悪楼王とも六手王とも呼ばれます。この王
は北麓の六手地区(君津市)の出身という。この地方の部族の王
(大和朝廷から見ると朝廷に従わぬ鬼)だったわけです。

ところが鹿野山山頂にある神野寺の寺伝によると、推古天皇6年
(598)9月、聖徳太子が羽の生えた馬に乗って富士山に登ったと
き、鹿野山に降りてきて神野寺をつくり、軍荼利(ぐんだり)明王
などを安置したという。これがお寺の本尊になっています。この軍
荼利明王が=(イコール)阿久留王だというのです。

「房総志料」(中村國香著)をベースに著した「房総志料続篇」田
丸健良著・天保4年(1833年)(巻之十)に、「軍荼利明王は鹿野
山強賊悪楼王(阿久留王)を祭る。日本武尊悪楼王征伐の後、其性
暴悪なる故に後世に祟をなさしめざるために此処に祭りたるべし。

悪楼王(阿久留王)一名六手(むて)王といふ、軍荼利の像は八臂
なり。鹿野山明王は六臂にて蛇を手足にからめり。(今按ずるに、
鹿野山の蟲札は蛇を制し給ふ故なるべし。世人皆曰く、鹿野山へ参
詣せし人は蝮蛇の刺を免ると。)悪楼王生まれたるところを六手村
と名づくと」とあります。

ふつう軍荼利明王は一面八臂(ぴ・顔がひとつに腕が8本)ですが、
神野寺の本尊の軍荼利明王は三面六臂で顔が三つに腕が6本です。
阿久留王は六手村出身の六手王のため、こんな説が生まれたのだろ
うとされてます。

なお、阿久留王が逃げたとされる鬼泪山は、いまはそのほとんど
がマザー牧場の敷地なっています。その昔、富津の篠部村には、
親が62歳になると鬼泪山に捨てる風習があったそうです。
・千葉県君津市。JR内房線佐貫町駅からバス30分で鹿野山。

★鹿野山【データ】
【山名】かのうざん
・【異名、由来】「金属が生まれる」と書く「かのうざん・金生山」。
切り替え畑や焼き畑(カノ)があったところ。語源の刈野が転じ
て鹿野になった(「日本山岳ルーツ大辞典」)。

【所在地】
・【鹿野山】千葉県君津市。内房線佐貫町駅の東7キロ。JR内房
線佐貫町駅からバス30分で鹿野山。神野寺と(1)電子基準点(3
41.7m)、(2)電子基準点(二等水準点・341.7m)、(3)電子基
準点付(341.7m)、(4)一等三角点(352.4m)、(5)一等水準
点(351.0m)がある。地形図上には測地観測所の文字と、電子基
準点記号とその標高と、水準点記号とその標高、さらに三角点記号と
その標高の記載あり。

【ご利益】
・【神野寺】安産・子育て・子授け・乳授祈願。:奥の院(本尊は
飯縄大権現(白狐に乗った烏天狗)):大下駄に触れると足腰の守護
と健康。

【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
(1)・【電子基準点】緯度経度:北緯35度15分17.29秒、東経139
度57分15.68秒
(2)・【電子基準点(二等水準点)】緯度経度:北緯35度15分17.29
秒、東経139度57分15.68秒
(3)・【電子基準点付】緯度経度:北緯35度15分17.29秒、東経13
9度57分15.68秒
(4)・【一等三角点】緯度経度:北緯35度15分17.94秒、東経139
度57分20.63秒
(5)・【一等水準点】(352.4m、水準点)緯度経度:北緯35度15
分19.58秒、東経139度57分21.98秒

【地図】
・旧2万5千分の1地形図「鹿野山(横須賀)」or「鬼泪山(横須賀)」
(2図葉名と重なる)。5万分の1地形図「横須賀−富津」

【参考文献】
・「鹿野山と上総の山岳信仰」府間修:『山岳宗教史研究叢書8』(日
光山と関東の修験道)宮田登・宮本袈裟雄編(名著出版)1979年(昭
和54)所収
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『房総山岳志』内田栄一(論書房出版)2005年(平成17)
・「房総志料」(巻第一):『房総叢書6』房総叢書刊行会(房総叢書
刊行会発行)1941年(昭和16)
・「房総志料続篇」(巻之十):「房総叢書6」房総叢書刊行会編(房
総叢書刊行会発行)1941年(昭和16)所収

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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