山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼821号「修那羅峠・狛猫?狛虎?狛犬」

【概略】
石仏で有名な長野県の修那羅峠は、山頂近くに安宮神社があって、
裏山の細い道に沿って一列にズラッと五百体もの石神や石仏がなら
んでいます。どれも作者不明で江戸時代末期から明治にかけて彫ら
れたものといわれています。
・長野県筑北村と青木村との境

▼821号 「修那羅峠・狛猫?狛虎?狛犬」

【本文】
奇抜な石神石仏で有名な長野県の修那羅(しょなら)山(峠)。こ
のあたりは昔から舟窪山(ふなくぼやま)と呼ばれている景勝地。
この山頂近くに安宮(やすみや)神社があり、その裏山の細い山道
に沿って500体もの石仏が一列にならんでいます。

ここの石仏は普通に見られる観音やお地蔵などとちがい、庶民の願
いをこめた石神や石仏ばかりです。ささやき大明神、婆羅門女天狗、
催促金神、どれも奇抜な神さまたちです。なかにはシバタレ神、ウ
ユワ神、山月神など意味不明のものも多い。

また、啖護(たんご)明神、癪王(しゃくおう)神、咳霊神と称す
る神々、その他もろもろの神々が、どれを見ても奇怪この上ないお
姿、かたちで鎮座ましましておられます。

これらの石仏は、江戸の末期から明治にかけての銘がありますがど
れも制作者不明のもの。

修那羅の語源については、アイヌ語説、古代日本語説、朝鮮語説、
梵語説などがありますが、なかでも「日本書紀」(巻第十七・男大
迹天皇(をほどのすめらみこと・継体天皇)に、新羅国の上臣が掠
めた4ヶ国の割注に「一本に云はく、多田羅(たたら)・須那羅(す
なら)・和多(わた)・費智(ほち)を四つの村(すき)とすといふ」
あり、また新羅の帰化人が「安坂」の姓を賜ったという記録(地元
の地名の安坂・いまの長野県東筑摩郡筑北村)もあり、その他の検
証から朝鮮語説が有力とされています。

ここの石仏は安政(1854〜60)から文久(1861〜64)、明治にか
けての年号が刻まれています。幕末近い安政2年(1855)、旧新潟
県中頸城郡妙高村大鹿(いまの新潟県妙高市)出身の修那羅大天武
命(望月政右衛門)がここに安宮の社殿を開き、没するまで870基
を超す石仏を造立したといいます。

なるほど数ある石仏群の中でも修那羅大天武のものはひときわ立派
です。訪れた大勢の人たちはそれぞれカメラをのぞき、すれ違うに
も背中をそらすようにして移動していきます。

そんななか、猫の狛犬だと称する石仏を見つけました。大きな面構
えとでかい態度、それに鋭い「眼光」はどう見ても虎ではありませ
んか。さすが奇抜な修那羅山的に造形された石仏です。それにして
も猫のような虎のような狛犬。ン?猫か虎か犬か??はっきりせん
かい。

▼【データ】
・【山名】修那羅峠(しょならとうげ、しゅなら)
【異名、由来】シュ・ショ・シュウは湿原のこと、山麓に湿原のあ
る山の峠(「日本山岳ルーツ大辞典」)

・【所在地】
長野県東筑摩郡筑北村(旧東筑摩郡坂井村)と小県郡長野県青木村
との堺。長野新幹線上田駅からバス四方下車15分で修那羅山。地形
図に地名「修那羅峠・しゅならのルビ」のみ記載。峠より北西方50
3mに安宮神社がある。

・【ご利益】安宮神社
五穀豊穣祈願・家内安全祈願・交通安全祈願・就職祈願・方位除け
・子授け祈顧・養蚕祈願・病気平癒祈願・商売繁昌祈・災難祈除・
虫加持(虫封じ)・鼠除け祈願・安産祈願・就学祈願・金神除け・
命名

・【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
【修那羅峠】緯度経度:北緯36度24分15.77秒、東経138度06分04.4
6秒

・【地図】
2万5千分の1地形図「信濃西条(長野)」

・【参考文献】
「安宮神社縁起」(安宮神社)所蔵:「北信妙高」にファイル。
「信州の石仏」(文一総合出版)1980年(昭和55)
「信州百峠・改訂普及版」井出孫六・市川健夫監修(郷土出版社)1995
年(平成7)
「図聚 天狗列伝・東日本編」知切光歳著(三樹書房)1977年(昭
和52)
「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
「日本の石仏・庚申・東海篇」
「日本発見 石仏紀行」(暁教育図書)1980年(昭和55)
「修那羅・霊諍山の石像」久野健:「日本発見 石仏紀行」(暁教育
図書)1980年(昭和55)所収
「日本書紀」(巻第十七・男大迹天皇(をほどのすめらみこと・継
体天皇)720年(養老4):岩波文庫「日本書紀」(三)(校注・坂
本太郎ほか)(岩波書店)1995年(平成7)
「謎の修那羅石像群」大護八郎:「信州の石仏」曽根原駿吉郎(文
一総合出版)1980年(昭和55)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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