山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼814号 「富士山頂の伝説と民俗」

【前文】
富士山頂には八つのピークがあり昔は「お八めぐり」といっていま
した。明治の廃仏毀釈で仏教的な呼び方が廃止され「お鉢めぐり」
と改名。太古の昔から詩歌、紀行にあらわされ、山岳信仰のメッカ
としてあがめられてきた富士山はやはり富士山は神秘の山。いろい
ろ面白い話が残っています。

▼814号 「富士山頂の伝説と民俗」

【本文】
富士山頂には大内院と呼ばれる直径800mもの噴火口があります。
一周が約3.5キロほど。そのまわりに剣ヶ峰、白山岳(釈迦ヶ岳)、
久須志岳(薬師岳)、大日岳(朝日岳)、伊豆ヶ岳(阿弥陀岳)、成
就ヶ岳(勢至ヶ岳)、駒ケ岳(浅間岳)、三島岳(文殊ヶ岳)と八つ
のピークがあります。

これらのピークにはそれぞれ本地垂迹(ほんぢすいじゃく)による
仏神が配置されています。それらを「八葉蓮華」(お釈迦様が座っ
ている蓮)に例えて「お八」といったそうです。これらの火口壁を
一周するのがお鉢めぐり。

昔は「お八」の尊称から「お八めぐり」といっていたそうですが、
明治維新の廃仏毀釈の影響で仏教的な呼び方が廃止され、山頂の大
内院(火口)を「すり鉢」に例えて「お鉢めぐり」と呼ぶようにな
ったそうです。

火口には大内院のほか、西安河原にも小内院と呼ばれる噴火口があ
ります。小内院の外側を回るのを外輪コース、内側を回るのを内輪
コースと呼んでいます。

富士山は太古の昔から詩歌、紀行、史実にあらわされ、また山岳信
仰のメッカとしてあがめられてきた山。大衆化されたとはいえ、や
はり富士山は神秘の山。いろいろ面白い話が残っています。

曰く、孝安天皇92年富士山謎の湧出説、孝霊5年説。曰く、木花
開耶姫伝説。三猿の案内で富士山に登り山頂から天に昇ったという。
その時姫が他言無用といったことから猿たちは「見ざる言わざる聞
かざる」の庚申の三猿になったという。

曰く、かぐや姫伝説。16歳の時御門の要請を断り王冠を受け取る
とそのまま富士山頂に消えたという。また聖徳太子、甲斐の黒駒に
乗って空を飛び日本を一周、富士山頂に馬の足が触れたとの説。五
合目の聖徳太子と黒駒の碑があります。

山頂コノシロ池には海の魚コノシロがすむという。開耶姫を恋い慕
う風の神。山頂に舞う二人の女神。曰く、徐福伝説。また日本武尊
・除福・聖徳太子・天智天皇・役ノ小角・恒武天皇・空海など登山
説。

1872年(明治5)3月、大政官の布告「神社仏閣地に女人結界之
場所有之候処、自今被廃止、登山参詣可為勝手候事」という明治政
府の一文により女人禁止は解かれました。

▼【データ】
山名:富士山頂(ふじさん・ふじやま)

・【異名・由来】
異名:不尽、不二、布士、富慈、芙蓉峰(ふようほう)、富岳など
の呼び方がある。

由来:天地の富を士(つかさどる)故に富士山と号し、郡名と作(な)
す。勅使が大勢の兵士を連れて登ったので、富士山が兵士でいっぱ
いになった。そこで「士に富む山=富士山」になった(「竹取物語」)。

・【所在地】富士山頂
山梨県富士吉田市、山梨県南都留郡鳴沢村と静岡県富士宮市、富士
市、御殿場市・静岡県駿東郡小山町との境だが八合目付近から上部
は富士山本宮浅間大社の「私有地」になっており、境界がはっきり
していない。富士急行河口湖駅からバス、河口湖口五合目から5時
間30分で富士山頂。山頂剣ヶ峰に電子基準点(3777.39m)と二等
三角点(3775.63m)、白山岳に二等三角点(3756.36m)がある。火
口内に写真測量による標高点(3535m)がある。

・【ご利益】
【浅間神社奥宮】:【浅間神社】安産・火災除け:【富士山本宮浅間
大社】五穀豊穣、湧水守護の神

・【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第72番選定):日本二百名山、日
本三百名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(第69 番選定)
・山梨県選定「山梨百名山」(第100番選定)

・【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
山頂剣ヶ峰に電子基準点と三角点、白山岳に三角点、火口内に標高
点がある。
・【剣ヶ峰の電子基準点】(※標高3774.9m)緯度経度:北緯35度21
分38.75秒、東経138度43分38.3秒
・【剣ヶ峰電子基準点のすぐ南の三角点】(標高3775.6m)緯度経度
:北緯35度21分38.26秒、東経138度43分38.52秒
・【白山岳の三角点】(標高3756.4m)緯度経度:北緯35度22分0.02
秒、東経138度43分46.43秒
・【火口内の標高点】(標高3535m)緯度経度:北緯35度21分46.53秒、
東経138度43分53.27秒

・【地図】
2万5千分の1地形図「富士山(甲府)」。5万分の1地形図「甲府
−富士山」

・【参考文献】
「甲斐国志」(松平定能(まさ)編集)1814(文化11年):(「大日
本地誌大系」(雄山閣)1973年(昭和48)
「海道記」:新日本古典文学大系51「中世日記紀行集」福田秀一他
校注(岩波書店)1990年(平成2)所収
「角川日本地名大辞典19・山梨県」磯貝正義ほか編(角川書店)1984
年(昭和59)
「古今和歌集序聞書三流抄(ききがきさんりゅうしょう)」:(「中世
古今集註釈解題(二)」片桐洋一(赤尾照文堂)1973年(昭和48)
「古代山岳信仰遺跡の研究」大和久震平著(名著出版)1990年(平
成2)
「山岳宗教史研究叢書・9」(富士・御嶽と中部霊山)鈴木昭英編
(名著出版)1978年(昭和53年)
「山岳宗教史研究叢書17・修験道史料集(1)」五木重編(名著出
版)1983年(昭和58)
「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
「駿河国新風土記」(全25巻)新庄道雄(1776〜1835)著(天保5
年(1834)に完成した駿河国の地誌)
「日本架空伝承人名事典」大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成4)
「日本山岳風土記・3」(宝文館)1960年(昭和35)
「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
「日本伝奇伝説大事典」編者・乾勝己ほか(角川書店)1990年(平
成2)
「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
「富士山縁起」室町時代の古書の筆写本。富士宮市村山の浅間神社
宝物館に所蔵していた巻物。室町時代の古書の筆写本。富士宮市村
山の浅間神社宝物館に所蔵していた巻物。孝安天皇92年:「山岳宗
教史研究叢書・17」(名著出版)1981年(昭和56)
「富士山記」(平安時代の漢詩人で文章博士・都良香著)(「本朝文
粹註釋巻第12」に収納)柿村重松・註(内外出版)1992年(平成
4)
「富士山・史話と伝説」遠藤秀男(名著出版)1988年(昭和63)
「本朝神社考」林羅山著:「日本庶民生活史料集成・第26巻神社縁
起」(三一書房)1986年(昭和61)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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