山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼811号 「長野県スズランと牧場・南朝再興の願い入笠山」

【前文】
スズランが群生する入笠山。稲を積んだ「にお」の「にお笠山」だ
という。山頂北側にある御所平峠の御所平は北条高時の息子相模二
郎時行の屋敷があったところとか、南朝の宗良親王が南朝再興のい
くさの指揮をとるために滞在した所ともいわれている。
・長野県伊那市と、同県富士見町との境

▼811号 「長野県スズランと牧場・南朝再興の願い入笠山」

【本文】
それほど標高は高くはありませんが、ふつう高地にあるべきはずの
植物が多く、湿原には亜高山湿地帯植物が群生する入笠山。近くの
スキー場のゴンドラで簡単に登ることができるため四季を通じての
観光の山になっています。

山の形が刈り取った稲の束を積み重ねた「にお」に似ているため「に
お笠山」がなまったといわれています。

この山が有名になったのは、第2次大戦後まもなく、旧国鉄が募集
した「だれでも楽しめるハイキングコース」に、都会のある青年が
この山を推薦応募して入選したことがきっかけだという。

それからは東京から「スズラン列車」が運行されるようにまでなり
ました。当時、夜行列車で富士見駅や青柳駅で下りて歩き出し、鐘
打平に出たという。

ここはスズランの山で入笠湿原の斜面一面に群生し、観光客は木道
を歩いて鑑賞しています。山頂北側に御所平峠がありますが、御所
平は足利時代初期、豪族諏訪氏によって保護されていた北条高時の
息子相模二郎時行の屋敷があったところといわれています。

また南北朝時代、赤石岳西麓に隠棲していた南朝の宗良(むねなが)
親王が軍事上の重要な通行路として、南朝再興のいくさの指揮をと
るために滞在した所ともいわれています。御所はやはりやんごとな
い方に関係があるのですね。御所平は西側のJA牧場の中の小高い
丘なのだそうです。

またここには伊那市高遠町と富士見町を結ぶ古道「法華道」があり
ます。法華道とは、富士見町若宮から入笠山を経由し、伊那市高遠
町芝平までの全長22キロの古道。古くから甲州(山梨県)と信州
(長野県)を最短で結ぶ重要な道だったという。

15世紀には法華道を通って甲斐の身延山久遠寺から上人が長野県
側に布教に訪れ、日蓮宗教化につとめたという。高遠の谷沿いに日
蓮宗の寺が並ぶのはその名残だそうです(「長野日報」)。

法華道の道中の高座岩から芝平に抜ける道と長谷へ行く道があると
いう。室町時代の1473年(文明3)には身延山21世日朝上人が道
中の高座岩で7日7晩説法をしたとする言い伝えもあります。

この古道を復活させようとする人たちが草刈りなどして整備、御所
平峠には道中安全地蔵菩薩も建立されています。地蔵の脇には「地
蔵尊立たす入笠山の尾根法華道はろばろと甦りつつ」と詠まれた歌
碑も建っています。

ところで入笠山には風力発電の計画が持ち上がっているという。湿
原の木道には花々を愛でる楽しそうなお年寄りの二人連れも目立ち
ます。いつまでもみんなに愛される場所であって欲しいものです。

中央本線のこのあたりを電車で通るたび気になっていた駅から歩く
山行。6月はじめ、思い切ってすずらんの里駅から登り、青柳駅へ
下るコースを歩いてみました。

スズランの里駅からは最後まで林道でマウンテンバイクを奨励して
いるのか専用の看板や道標が目立ちます。数年前まであった入笠湿
原のキャンプ場は閉鎖していました。

JAハウスのキャンプ場に向かいます。湿原のスズランはまだ少し
早かったが、御所平からのコナシは見事な群生。それぞれの木の濃
いピンクのつぼみはそれは見事。まるで競い合っているようです。

牧場の番人の方のご厚意であちこちを案内して戴きました。入笠山
頂は360度の展望。展望板を前に山々を見比べ一周します。中央ア
ルプスの雪の千畳敷が目の前です。島田娘の雪形が笑っていました。

▼入笠山【データ】
・【山名・異名・由来】
入笠山(にゅうかさやま)ニュウとは方言で、1本の高い柱に稲束
をかけていくこと。稲積みともいいその山成になった形が菅笠にも
似ている。山の形が刈り取った稲の束を積み重ねた「にお」に似て
いるところから「にお笠山」がなまって入笠山。

・【所在地】
長野県伊那市(旧上伊那郡高遠町)と長野県伊那市(旧上伊那郡長
谷村)、長野県諏訪郡富士見町との境。中央本線富士見駅の西南西
6キロ。JR中央本線青柳駅からタクシー入笠山。二等三角点(19
55.1m)がある。地形図に山名と三角点の標高の記載あり。付近に
何も記載なし

・【名山】
・日本山岳会選定「日本三百名山」(第240番選定):日本百名山以
外に200山を加えたもの。
・清水栄一選定「信州百名山」(第90番選定)

・【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
三角点:【緯度経度】北緯35度53分46.78秒、東経138度10分17.8秒

・【地図】
2万5千分の1地形図「信濃富士見(甲府)」。5万分の1地形図「甲
府−高遠」

・【参考】
「角川日本地名大辞典20・長野県の地名」市川健夫ほか編(角川
書店)1990年(平成2)
「信州山岳百科・2」(信濃毎日新聞社)1983年(昭和58)
「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

山旅イラスト【ひとり画展通信】題名一覧へ戻る
………………………………………………………………………………………………