山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼807号 「東京奥高尾景信山・横地監物景信と公家伝説」

【前文】
鉄砲30、弓30、計60人の兵で固められていた小仏峠の富士見関。
関所の警備にあたっていた横地監物(けんもつ)景信からの山名と
も。また桜町中納言景信という公家が、なにかのはずみで流罪にな
りこの地に流されてきたという伝説がある。
・東京都八王子市と神奈川県相模湖町の境

▼807号 「東京奥高尾景信山・横地監物景信と公家伝説」

【本文】
東京都民のオアシス高尾山。その高尾山から西北に進み小仏峠、
景信山を経て陣馬山方面への奥高尾縦走路は大勢の人々に親しま
れています。杉や檜の植林や広葉樹などにおおわれた緑の山です
が、カヤトの山頂にはベンチがならび、小屋も営業をしています。

まわりを見れば南に荒々しい丹沢の山々が、西にはたおやかな奥
多摩の山なみが続いています。とりわけ、高くそびえる富士山は
格別の風格を感じさせてくれます。景信山の山名については、北
條氏照の家臣、横地監物(けんもつ=役職名)景信説と、桜町中
納言景信の説があります。

@北條氏照の家臣、横地景信の説は、江戸幕府が(1830・天保1)
に編纂した地誌「新編相模国風土記稿」(巻之百十七 村里部 津
久井縣巻之二 毛利庄)の千木良村(知藝羅牟良)の項に、「小佛
峠 武州多摩郡上長房村の内小佛宿の西偏にあり、武相二州境界
の峠なり、甲州街道の一條及び小徑を隔てゝ国境とす、往昔は頂
上に關ありしが、是を小佛關と呼ぶ、或は富士見關と稱す。

夫より少し北に寄り、景信山と唱て、一區の地あり。北條氏照の
家臣、横地監物(けんもつ)景信が、警備せし構への跡なりと云
ふ、或云、八王子城滅亡の後、甲信警備の爲に千人隊も爰を守り
しなど云へる舊?あり」と記されています。

さらに明治中期に河田羆が著した「武蔵通志(山岳編)」にも「元
亀中北条氏照望遠台を比に設け横地景信将監をして之を戍(まも)
らしむ因て景信山と称す」と同じ記述が出てくるところからの説。
こういう話にはちゃんと異説が用意されています。

A桜町中納言景信の説。その昔、桜町中納言景信という公家が、
なにかのはずみで流罪になりこの地に流されてきたという。「住む
ならせめて富士山の見えるところで」との願いがかなえられ、こ
の山に住むようになったというのです。

地図を見ると、景信山の東を流れ下る小下沢(こげさわ)は「公
家沢」から転化した名前だとする人もいるそうです。しかし史実
はないとのことなので足をすくわれたような気になります。

「かながわの山」(植木知司著)によれば、かつて小仏峠は甲州街
道の難所。戦乱の天正のころは八王子城の砦ともいえる富士見関
が設けられ、鉄砲30、弓30、計60人の兵で固められていたとい
う。関所はその後、峠から東のふもと栗木野に移され小仏関所と
呼ばれたという。

そんな昔の殺伐とした面影とは関係なく、いまはひっそりと静か
な小仏峠。さらに景信山頂に向かえば陸上競技やスピード登山の
トレーニングか、ハイカーのわきを駆け抜ける人たちでにぎわっ
ています。

▼【データ】
山名:景信山(かげのぶやま)

・【所在地】
東京都八王子市と神奈川県津久井郡相模湖町の境。中央線藤野駅の
北東6キロ。中央本線相模湖駅から2時間40分で景信山。三等三角
点(727.1m)と景信小屋、トイレがあるがある。地形図上には山
名と三角点の標高と建物記号のみ記載。付近に何も記載なし。

・【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
【景信山三等三角点】緯度経度:北緯35度38分45.59秒、東経139度
12分57.19秒

・【地図】
2万5千分の1地形図「与瀬(東京)」。5万分の1地形図「東京−
上野原」

・【参考文献】
「角川日本地名大辞典13・東京都」北原進(角川書店)1978年(昭
和53年)
「角川日本地名大辞典14・神奈川県」伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
「かながわの山」植木知司(神奈川合同出版)1981年(昭和56)
「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
「新編相模国風土記稿」江戸幕府(1830・天保1)編纂の地誌(巻
之116村里部津久井縣巻之一):大日本地誌大系23「新編相模国風
土記・第5巻」編集校訂・蘆田伊人(雄山閣)1980年(昭和55)
「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

 

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