山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼801号「北ア・雷雨と双六小屋キャンプ場」

【略文】
激しい雷と雨にやられ雨具を通し中までびしょ濡れ。やっと着いた
双六小屋テント場。まだ山すそに残雪があり、吹いてくる風が冷た
い。コンロで暖かい食べ物をつくり体を温めます。ここには何回も
来ていますがこ初めてです。7月末に携帯用カイロが必要だなんて。
・長野県大町市と岐阜県高山市

▼801号「北ア・雷雨と花と双六小屋キャンプ場」

【本文】
その日は朝から遠くで雷鳴が聞こえていました。新穂高温泉から間
もない、わさび平小屋テント場を出発して小1時間、傘を差して歩
きました。

林道から登山道に入った直後に降り出した雨はやまず、雷も激しく
なってきました。イタドリヶ原と呼ぶあたりではダケカンバの木の
下で雨宿りをするしまつ。

それでも次から次へと来る登山者はどんどん追い抜いていきます。
やがて一面シシウドに埋まるシシウドヶ原もずぶぬれの雨具に足元
以外は目に入りません。

30キロを超すザックは肩に食い込み、下ろせばまた背負う時に厄
介です。鏡平での休憩も早々に弓折岳の稜線への急坂をひたすら登
ります。

それでも雷は止んで雨足も弱まり、路傍に咲く大きな高山植物の花
を観賞する余裕も出てきました。稜線を少し歩くころにあらわれた
雪田を渡るとガスの中に広がるお花畑。花見平と呼ばれるところで
す。なにこれッ、というほどの花が一面に広がっています。

シナノキンバイ、ハクサンコザクラ、コイワカガミ、キンポウゲ、
ヨツバシオガマなどなど。黄色の花、白い花、それに葉の緑色が入
り交じっています。

しばらく休憩したあと双六小屋テント場へ向かいます。途中クロユ
リが乱舞する木道を目の前のテント場へ急ぎました。テント場は双
六池の池畔にあり、いつもにぎわっています。見れば山すそにまだ
かなり残雪があります。吹いてくる風が冷たい。

双六岳の山名は、山の西側直下の双六谷に、双六の盤面に似た石が
あるところから名づけられたいう。また「四五六谷」が転化した双
六谷の源頭にあるからともいわれています。

ここ双六小屋は、世界大戦前の1935年(昭和10)、岐阜県旧上宝
村の村営小屋として建設されたといいます。しかし、それから数年
のちに勃発した戦争。登山どころではなくなり利用者が皆無。小屋
は無人のまま放置されていたという。

戦争も終わり、そろそろ落ち着いてきた1950年(昭和25)、小池
義清氏が小屋をひきつぎ再建したという。いまは義清氏の次男であ
る小池潜氏が経営にあたっています。

ここ双六小屋へ登るのは、以前は双六谷を遡行するルートをとられ
ていたそうですが、途中籠の渡し、沢登り、ヤブこぎと難路つづき
で、到着するまで十数時間を要したといいます。

そのため、1955年(昭和30)、小池義清氏がいまの新穂高温泉わき
の蒲田川左俣から大ノマ乗越を経由して双六小屋に至る「小池新道」
を開拓。その後、いまのように鏡平山荘経由になったのだそうです。

フライを張ってテントの中に入ったはいいがあの雨のおかげでシュ
ラフがぬれて寒い。外はまだ小雨。コンロで暖かい食べ物をつくり
体を温めます。気分も和らいできました。

こうなれば体温で乾かすほかありません。このテント場には10回
近く来ていますがこんなことは初めてです。時期は7月末、携帯用
カイロが必要だなんて。

▼双六小屋テント場【データ】
山名:すごろくだけ

・【異名・由来】
由来:双六岳の名は双六谷に双六の盤面に似た盤の石があるところ
から名づけられたとも、また「四五六谷」が転化して双六谷になっ
たという説もある。

・【所在地】
長野県大町市と岐阜県高山市上宝町(旧同県吉城郡上宝村)との境。
JR高山本線高山駅からバス、新穂高温泉終点から歩いて8時間30
分で双六小屋テント場(双六岳まではさらに1時間20分)。双六池
がある。地形図に小屋名と双六池の文字のみ記載。ほかに何も記載
なし。

・【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
【双六小屋テント場】緯度経度:北緯36度22分9.98秒、東経137
度36分6.08秒

・【地図】
2万5千分の1地形図「三俣蓮華岳(高山)」

・【参考文献】
「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
「角川日本地名大辞典21・岐阜県」野村忠夫ほか編(角川書店)1980
年(昭和55)
「角川日本地名大辞典20・長野県」市川健夫ほか編(角川書店)1990
年(平成2)
「信州山岳百科・1」(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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