山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼799号「富士山・お鉢めぐりと八葉蓮華」

【概略】
「お鉢めぐり」は約3.5キロを1時間半。火口のまわりに剣ヶ峰、
白山岳(釈迦ヶ岳)、久須志岳(薬師岳)、大日岳(朝日岳)、伊豆
ヶ岳(阿弥陀岳)、成就ヶ岳(勢至ヶ岳)、駒ヶ岳(浅間岳)、三島
岳(文殊ヶ岳)と8峰。それらを「八葉蓮華」(釈迦が座るハス)
に例えかつては「お八めぐり」といったという。

▼799号「富士山・お鉢めぐりと八葉蓮華」

【本文】
富士山は、不尽山、不二山、布士山、富慈山、芙蓉峰(ふようほう)、
富岳などの別名があります。どれも二つとない美しく神秘な山とい
う意味だとか。

富士山の山頂には火口の大きな穴があり、そのまわりの尾根を歩く
ことを「お鉢めぐり」といっています。尾根は約3.5キロほどで1
時間半で一周できます。火口は直径800m。火口は大内院と呼ばれ、
西安河原にも小内院と呼ばれる噴火口があります。

小内院の外側をまわるのを外輪コース、内側をまわるのを内輪コー
スと呼んでいるそうです。

火口のまわりの尾根には剣ヶ峰、白山岳(釈迦ヶ岳)、久須志岳(薬
師岳)、大日岳(朝日岳)、伊豆ヶ岳(阿弥陀岳)、成就ヶ岳(勢至
ヶ岳)、駒ヶ岳(浅間岳)、三島岳(文殊ヶ岳)と8つのピークがあ
ります。

それらを仏教の「八葉蓮華」(お釈迦さまが座っているハス)に例
えてかつては「お八めぐり」といったそうです。

しかし、その後明治維新の廃仏棄釈により仏教的な呼び方が否定さ
れ、「お八めぐり」は山頂の大内院と呼ばれる火口をすり鉢に例え
て、呼び方を「お鉢めぐり」と変えたという。こんなところにも明
治政府の神仏分離令の影響があらわれてきています。

「八葉」の名は、古文献などでは地蔵獄、阿弥陀獄 、観音獄、釈
迦獄、弥勒獄、薬師獄、文殊獄。加来獄、大日岳。宝生獄、勢至々
獄、浅間々獄、剣ケ峰、普賢獄、雷之獄、経々獄、駒々獄、馬背々
獄、鋸々獄、中将獄などいろいろな名称で呼ばれていたそうですが、
いまは先述のとおりに呼ばれています。

これらはひとつひとつ神仏に関連していて次のように説明されてい
ます。剣ケ峰(標高3,776m)は、剣ヶ峰というのは土俵の一番外
側をいい、大山の外輪山の最高位を示しているという。

阿弥陀如来(垂迹は神熊野三大権現)をあてています。白山岳(釈
迦ヶ岳・標高3,757m)は、釈迦の垂迹(すいじゃく)が白山妙理
大権現であつたためについた名という。

釈迦牟尼如来(垂迹神は白山妙理大権現)をあてています。久須志
岳(薬師ヶ岳・標高3,740m)は、久須志神社(薬師如来をまつる)
があるための名。薬師如来(垂迹神は鹿島金山大権現)。

大日岳(朝日ヶ岳・標高3,750m)は、大日如来観音菩薩の垂迹(す
いじゃく)は浅間大菩薩でもあります。大日如来。

伊豆岳(観音岳・標高3,746m)は、観音菩薩の垂迹が伊豆大権現
であったための名。明治8年に改称したという。観世音大菩薩(垂
迹神は伊豆大権現)。

成就岳(勢至ヶ岳・経ヶ岳標高3,735m)。駒ケ岳(浅間ヶ岳・標高
3,735m)は、聖徳太子が駒(甲斐の黒駒)に乗って飛んできた場所
であるといわれ、黒岩で出来ています。

文殊大菩薩(垂迹神は箱根大権現)。三島岳(文殊ヶ岳・標高3,740
m)。神仏集合時代に文殊ヶ岳の垂迹に三島大明神があったためら
しいという。宝生如来(垂迹神は三島大明神)。

なんか難しい世界にまぎれ込んでしまったようです。ちなみに本地
垂迹とは神仏習合に基づいた説で、仏菩薩がこの世の人を救うため
仮に姿をあらわすとし、仏菩薩を本地(真実の身)、神を垂迹(仮
の身)とする思想(「日本大百科全書・21」)。

▼富士山頂【データ】
山名:ふじさん・ふじやま

★【異名・由来】
異名:不尽、不二、布士、富慈、芙蓉峰(ふようほう)、富岳など
の呼び方がある。

由来:天地の富を士(つかさどる)故に富士山と号し、郡名と作(な)
す。勅使が大勢の兵士を連れて登ったので、富士山が兵士でいっぱ
いになった。そこで「士に富む山=富士山」になった(「竹取物語」)。
富士山8合9勺(はちごうきゅうしゃく=3360m)からから上、約
400万平方mは、徳川家康が富士山本宮浅間大社に寄進したとの記
録があるが、明治維新後国有地にされていた。8合目から上の神社
の施設のある約16万平方m分は1952年(昭和27)に大社に譲与され
ているが、富士山頂が返還されなかったため、大社側が国を相手取
って裁判を起こしました。1974年(昭和49)、最高裁の判決で大社
側の所有が認められた。しかし静岡、山梨の県境が確定しておらず、
登記手続きがとれず(東海財務局)、2004年(平成16)12月17日、
土地の所有権が国から富士山本宮浅間神社に移った。(2004年(平
成16)12月18付け朝日新聞から)。しかし、土地の所有権は認めら
れはしたものの、山頂付近の静岡県と山梨県の県境はまだ定まって
いないという。したがって、土地登記が出来ずじまい。住所は、も
ちろん静岡県でもなく山梨県でもない。所在地は、日本国富士山無
番地なのだそうです。同大社側は「これで所有権の手続きは解決し
た。県境の問題は県民感情もあり、登記に向けて時間をかけて解決
したい」と話しているという。

★【所在地】富士山頂
山梨県富士吉田市、山梨県南都留郡鳴沢村と静岡県富士宮市、富士
市、御殿場市・静岡県駿東郡小山町(合併なし)との境だが八合目
付近から上部は富士山本宮浅間大社の「私有地」になっており、境
界がはっきりしていない。富士急行河口湖駅からバス、河口湖口五
合目から5時間30分で富士山頂。山頂剣ヶ峰に電子基準点(3777.3
9m)と二等三角点(3775.63m)、白山岳に二等三角点(3756.36m)
がある。火口内に写真測量による標高点(3535m・標石はない)が
ある。

★【ご利益】
【浅間神社奥宮】:【浅間神社】安産・火災除け:【富士山本宮浅間
大社】五穀豊穣、湧水守護の神

★【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第72番選定):日本二百名山、日
本三百名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(第69 番選定)
・山梨県選定「山梨百名山」(第100番選定)

★【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
山頂剣ヶ峰に電子基準点と三角点、白山岳に三角点、火口内に標高
点がある。

★【地図】
2万5千分の1地形図「富士山(甲府)」。5万分の1地形図「甲府
−富士山」

★参考】
・『山岳宗教史研究叢書・9』(富士・御嶽と中部霊山)鈴木昭英編
(名著出版)1978年(昭和53年)
・『山岳宗教史研究叢書17』(修験道史料集(1)」五木重編(名著
出版)1983年(昭和58)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

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