山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼789号 「奥秩父・両神山は神の山」

【簡略説明】
両神山は岩峰の山。山頂の剣ヶ峰に立てば360度の展望。両神山
・八日見山・竜頭(りゅうかみ)山・鋸岳などの名がある。八日見
のヨ(ヤ)ウカミはヤオカミのことで、ヤは八、オカミはオロチ(大
蛇・高?、闇?で雨乞いの神)。八つの頭を持つ竜神だという。

▼789号 「奥秩父・両神山は神の山」

【本文】
 両神山(りょうかみさん・1723.0m)は鋸の歯のような岩峰が
特徴で遠くからでもすぐ分かる山です。このあたりには珍しく岩
峰の山。くさりに捕まりながら山頂の剣ヶ峰に立てば360度の展望。
目を凝らせば遠く北アルプスまで確認できます。

 この山は両神山・八日見山・竜頭(りゅうかみ)山・鋸岳など
の名があります。山名は伊弉諾(いざなぎ)・伊弉冉(いざなみ)
の両神説や日本武尊(やまとたけるのみこと)が8日間、この山
を見ながらやってきたという説。さらに竜神をまつる竜頭(りゅ
うかみ・竜神)説があります。

 もっとも、八日見のヨ(ヤ)ウカミはヤオカミのことで、ヤは
八、オカミはオロチ(大蛇・高?(たかおかみ)、闇?(くらおか
み)で雨乞いの神)。つまり八つの頭を持つ竜王(竜頭大明神)だ
というから、八日見でも竜神でも同じことではあります。

 両神山といえば八丁尾根。剣ヶ峰から前東岳・東岳・西岳・行
蔵坊などのピークが八丁峠までつづき、そこに張られた鎖を頼り
に上り下りせねばならず、そのスリルに登山者たちは大騒ぎ、賑
やかな声が響いています。

 この山も御嶽教行者の山です。八海山(はっかいさん)・三笠山
など、木曽御嶽山の前衛にそびえる山の名が、ここ両神山にもな
らんでいます。また八海山大頭羅神王(おおずらしんんのう)、三
笠山刀利天坊(とうりてんぼう)などの天狗の石像もあります。

 ある年の4月中旬、久しぶりに清滝小屋後ろにテントを張りま
した。一位ガタワ(いちいがたわ)近くの刀利天坊の石像に会い
に行きます。格好良く、とくに長い鼻の持ち上がり具合が、ほか
では見たことがないピカイチの天狗像です。しかし風化が進んで
きていて、大分齢を感じさせるのが気になります。

 翌日、八丁尾根は岩の細道が雪がべったりついており、アイス
バーンもひどい。そこで急きょ梵天尾根を下りました。あちこち
で木が倒れ、枯れ葉が積もりどこが道か分からないほど荒れてい
ます。岩場を通過し、水がしみ出る崖にかかった鎖でよじ登り、
やがて白井差峠(しらいさすとうげ)。

 山ノ神を拝して急坂を下ります。群生するアカヤシオツツジが
見守っています。それをめでながらの下山。双中里集落はサクラ
の花が真っ盛り。何という幸運とバス停に。と、ララッ。最終バ
スが行ったばかり。バスの時刻表が変わったばかりというのです。

 こんなことは慣れている、テントでもう一泊と覚悟を決めまし
た。すると四駆に乗った一人の青年が近づいてきて途中まで送っ
てくれるといいます。さすが山ヤ青年。バスの最終時間を知って
いたのです。何かお礼を。「貧者の一灯」と感謝のシルシに小ホー
ムページに青年の勤め先のアドレスをリンクさせて貰いました。

 それにしても大峠から西側に下る廃道を復活させてくれるとい
いんだけどね。地主さんも行政さんも仲良く頼みます。しかし廃
道になってからすでに30年にはなるか?期待薄だなあ。


▼両神山【データ】
★【所在地】
埼玉県秩父郡小鹿野町(旧秩父郡小鹿野町・旧秩父郡両神村)と埼
玉県秩父市大滝(旧秩父郡大滝村)との境。秩父鉄道三峰口駅の北
西14キロ。西武線秩父駅からバス・小鹿野乗り換え出原から歩いて
4時間で両神山。二等三角点(1723.0m)と両神神社奥ノ院がある。
地形図に山名と三角点の標高のみ記載。

★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
・三角点:北緯36度01分24.24秒、東経138度50分28.75秒)。

★【地図】
・2万5千分の1地形図「両神山(長野)」。5万分の1地形図「長野
−万場」


★【参考】
・『角川日本地名大辞典11・埼玉県』小野文雄ほか編(角川書店)19
80年(昭和55)
・『郷土資料事典11・埼玉県』ふるさとの文化遺産(人文社)1997年
(平成9)
『古代山岳信仰遺跡の研究』大和久震平(名著出版)1990年(平成
2)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『図聚天狗列伝・東日本編』知切光歳(三樹書房)1977年(昭和52)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本歴史地名大系11・埼玉県の地名』(平凡社)1993年(平成5)
・『山の憶い出』小暮理太郎:「日本山岳名著全集2」(あかね書房)1962
年(昭和37)所収
・『両神山・風土と登山案内』飯野頼治著(実業之日本社)1975年(昭和50)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】とよた時

 

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