山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画ッ展】とよだ 時

▼785号 「奥秩父金峰山・きんぷさんときんぽうさん」

【序文】
奥秩父の金峰山は、南麓の山梨県側では「きんぷさん」とか「き
んぷうさん」、また北麓の長野県側では「きんぽうさん」と呼ぶそ
うです。その開山について山梨県側の由緒では飛鳥時代、奈良吉
野の金峰山から勧請したとあります。北側・長野県川上村の縁起
にも同じころ、役行者が蔵王権現に分身をこの山に移すとのお告
げを受けたとの記述。どちらがどちらの記述に合わせたか。
・山梨県甲府市と長野県南佐久郡川上村との境

▼785号 「奥秩父金峰山・きんぷさんときんぽうさん」

【本文】
▼山旅通信【ひとり画展】785号「奥秩父金峰山・山名と役行者」
【本文】
【▼導入部】
 奥秩父の金峰山は、山梨県甲府市と長野県南佐久郡川上村との
境にある山です。いまでこそJR中央本線塩山駅から大弛峠まで
車で入り、山頂往復日帰り登山の対象なっています。また山頂か
らすぐそこまでカラマツの植林がせまっていますが、かつては奥
秩父特有の原始林でおおわれ神秘的な山だったといいます。

【▼山名】
 この山は金峰山と書いて南ろくの山梨県側では「きんぷさん」
とか「きんぷうさん」、また北麓の長野県側では「きんぽうさん」
と呼ぶそうです。金峰山と書く山は『日本山名事典』(三省堂)で
みても10座を超えています。たいがいは山頂に金峰神社が祭って
あり、奈良県吉野の金峰山(吉野では「きんぷせん」と呼ぶ)と
関係がありそうです。

 奥秩父の金峰山も山頂五丈石の基部に金峰山神社の祠がありま
す。国家鎮護の霊地として日本武尊が山頂に社殿造営。素戔嗚尊
(すさのおのみこと)と大己貴命(おおなむちのみこと)を合祀
(ごうし)したのだそうです。山梨県甲府市御岳町の金桜神社の
由緒(社記)によれば、ここはかつて金丸山といっていたといい
ます。さらに飛鳥時代(文武(もんむ)天皇のころ)になって、
大和金峰山から蔵王権現を勧請し、本宮(山宮)と里宮にまつっ
たため、金峰山と改称したということになっているそうです。

【▼金峰山神社・縁起】
 また金峰山神社は、この山の長野県側山ろくにも数ヶ所ありま
す。その金峰山縁起には、やはり飛鳥時代、奈良葛城山で修行し
吉野金峰山で蔵王権現を感得したという役行者が、中山道を東国
に向かって諸国行脚をしていました。行者がちょうど塩名田橋(し
おなたばし・いまの長野県佐久市・旧北佐久郡浅科村)にさしか
かった時、ふと川面をみると梵字(ぼんじ)が浮いて流れてくる
のが見えました。

 行者はこの川上に霊神がいると悟り、千曲川に沿って長野県南
佐久郡川上村川端下集落に入り金峰山に登ります。途中いろいろ
な不思議な人物や動物に案内され、6月16日の黄昏時についに山
頂につきました。「お姿を配させ給え」行者が念じるとたちまち蔵
王権現があらわれました。

 そして「われはその往古(かみ)より、吉野金峰に鎮座すると
雖(いえど)も、坂東へは遠く普(あまね)く衆生を度(わた)
し難し。よって毎月一日より望(もち・15日)までは吉野金峰山
に鎮座し、望より下旬までこの峰に分身を移して群生(ぐんじょ
う・一切衆生・しゅうせい)を利するなり。されども未だ知る者
あらず。汝(なんじ)東国の衆生(しゅじょう)に我れ住山を知
らすべし」とお告げをして姿を消したというのです。

 以来金峰山は、蔵王権現をまつる山としてまた修験道の山とし
て栄えたという。この長野県側の金峰山縁起が伝説が先か、山梨
県側の金桜神社の由緒(社記)が先かは分かりませんが、とにか
く飛鳥時代の文武天皇のころに、奈良吉野金峰山の蔵王権現の分
身が、この秩父の金峰山にまつられたようです。


▼金峰山【データ】
山名:きんぷさん・きんぷぜん・きんぷうさん・きんぽうざん・き
んぷざん

★【異名・由来】
異名:幾日峰(いくひのみね)

★【所在地】
山梨県甲府市と長野県南佐久郡川上村との境。JR中央本線韮崎駅の
北東24キロ。JR小海線信濃川上駅からバス終点川端下下車、4時
間30分で金峰山(きんぷさん)。五丈岩と三等三角点(2595.03m)
と標高点(2599m)、金桜神社の山宮(本宮)跡がある。地形図に
山名と三角点の標高と標高点の標高の記載あり。三角点より北西方
向380mに金峰山小屋がある。

★【名山】
「日本百名山」(深田久弥選定):第68番選定(日本二百名山、日
本三百名山にも含まれる)
「新日本百名山」(岩崎元郎選定):第47番選定
「山梨百名山」(山梨県選定):第7番選定
「信州百名山」(清水栄一選定):第48 番選定
「花の百名山」(田中澄江選定・1981年):第51番選定

★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
【金峰山標高点】緯度経度:北緯35度52分17.81秒、東経138度37分
31.69秒

【金峰山三等三角点】緯度経度:北緯35度52分17.4092秒、東経138
度37分31.1284秒

★【地図】
2万5千分の1地形図「金峰山(甲府)」or「瑞牆山(甲府)」(2図
葉名と重なる)。5万分の1地形図「甲府−金峰山」

▼【参考】
・『山岳宗教史研究叢書17』(修験道史料集1・東日本編)五来重
編(名著出版)1983年(昭和58)
・『日本歴史地名大系・長野』(平凡社)1990年(平成2)
・『日本歴史地名大系・山梨』(平凡社)1995年(平成7)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
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