山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼778号 「富士山の異名と西行法師」

【概略】
めでたいとされる富士山。不二・不尽・蓬莱などの異名を持ち「寿
山不二」とも書く。また、西行は「風になびく富士のけぶりの空に
消えて行方も知らぬわが思ひかな」と歌い、かつては「墨衣の僧が
網代笠や杖を手に富士山を見ている図は即「富士見西行」だと、誰
も分かる一般常識だったという。

▼778号 「富士山の異名と西行法師」

【本文】
正月など、めでたい時によく絵に描かれるものに富士山があります。
不二山・不尽山・布士山・複慈山・不死山・芙蓉の峰・蓬莱山など
の異名を持ち、「寿山不二」などと書く人もいます。

異名については養老山など十種異名(「富士山由来記」)、不尽山な
ど十五種異名(「富士山縁起」)、竹取山など九種異名(秘中抄)、神
路山など十種異名(同じく秘中抄)ときりがありません。

また、西行の歌に、あづまのかたへ修行し侍りけるに、ふじの山を
よめる「風になびく富士のけぶりの空に消えて行方も知らぬわが思
ひかな」があります。

粗末な庵。音ひとつなく静まりかえるなか、雪の富士山を仰ぎ見る
坊さん姿の人物。西行は1186年、東大寺再建の勧進のため、再び陸
奥に旅立った折り、東海道の旅の途中で詠んだ歌といわれ、「富士
見西行」の異名もとっています。

「富士見西行」は、「墨染の衣を着た坊さんが、網代笠を片手に杖
ついて、富士に向って休息しているとすれば、問わずして富士見西
行なることを知る」と小島烏水(1873〜1948)が「不尽の高根」に
書いたように、かつては誰にも分かるテーマだったのだそうです。

ちなみに西行の歌の最初の「風になびく」は、もとは「駿河なる」
だったといわれています。

このように富士山は、万葉の時代から現代にまで歌に詠まれ、絵に
描かれ詩に書かれています。それほど日本人の心に広く親しまれて
いるんですね。

▼富士山頂【データ】
山名:ふじさん・ふじやま

★【異名・由来】
異名:不尽、不二、布士、富慈、芙蓉峰(ふようほう)、富岳など
の呼び方がある。

由来:天地の富を士(つかさどる)故に富士山と号し、郡名と作(な)
す。勅使が大勢の兵士を連れて登ったので、富士山が兵士でいっぱ
いになった。そこで「士に富む山=富士山」になった(「竹取物語」)。

富士山8合9勺(はちごうきゅうしゃく=3360m)からから上、約
400万平方mは、徳川家康が富士山本宮浅間大社に寄進したとの記
録があるが、明治維新後国有地にされていた。

8合目から上の神社の施設のある約16万平方m分は1952年(昭和27)
に大社に譲与されているが、富士山頂が返還されなかったため、大
社側が国を相手取って裁判を起こしました。1974年(昭和49)、最
高裁の判決で大社側の所有が認められた。

しかし静岡、山梨の県境が確定しておらず、登記手続きがとれず(東
海財務局)、2004年(平成16)12月17日、土地の所有権が国から富
士山本宮浅間神社に移った。(2004年(平成16)12月18付け朝日新
聞から)。

しかし、土地の所有権は認められはしたものの、山頂付近の静岡県
と山梨県の県境はまだ定まっていないという。したがって、土地登
記が出来ずじまい。住所は、もちろん静岡県でもなく山梨県でもな
い。所在地は、日本国富士山無番地なのだそうです。

同大社側は「これで所有権の手続きは解決した。県境の問題は県民
感情もあり、登記に向けて時間をかけて解決したい」と話している
という。

★【所在地】富士山頂
山梨県富士吉田市、山梨県南都留郡鳴沢村と静岡県富士宮市、富士
市、御殿場市・静岡県駿東郡小山町との境だが八合目付近から上部
は富士山本宮浅間大社の「私有地」になっており、境界がはっきり
していない。

富士急行河口湖駅からバス、河口湖口五合目から5時間30分で富士
山頂。山頂剣ヶ峰に電子基準点(3777.39m)と二等三角点(3775.
63m)、白山岳に二等三角点(3756.36m)がある。火口内に写真測
量による標高点(3535m・標石はない)がある。

★【ご利益】
【浅間神社奥宮】:【浅間神社】安産・火災除け:【富士山本宮浅間
大社】五穀豊穣、湧水守護の神

★【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第72番選定):日本二百名山、日
本三百名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(第69 番選定)
・山梨県選定「山梨百名山」(第100番選定)

・【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
山頂剣ヶ峰に電子基準点と三角点、白山岳に三角点、火口内に標高
点がある。

★【剣ヶ峰の電子基準点】(※標高3774.9m)緯度経度:北緯35度21
分38.75秒、東経138度43分38.3秒

★【剣ヶ峰電子基準点のすぐ南の三角点】(標高3775.6m)緯度経度
:北緯35度21分38.26秒、東経138度43分38.52秒

★【白山岳の三角点】(標高3756.4m)緯度経度:北緯35度22分0.02
秒、東経138度43分46.43秒

★【火口内の標高点】(標高3535m)緯度経度:北緯35度21分46.53秒、
東経138度43分53.27秒

★【地図】
2万5千分の1地形図「富士山(甲府)」。5万分の1地形図「甲府
−富士山」

★【参考】
「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
「富士山・史話と伝説」遠藤秀男(名著出版)1988年(昭和63)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

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