山の伝承伝説に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼767号 「飯豊山種蒔山とイナゴ原で発見されたイネの新種」

【概略】
名前のように飯を豊かに盛ったような山。飯豊山神社は農業に関係
のある神さまを祀っています。付近には種蒔山やイナゴ原という所
もあります。昔、参拝者は稲の初穂を持ってお山に登り、供えられ
ている種もみを貰ってきて自分のもみとまぜて種をまいたという。
・福島県喜多方市

▼767号 「飯豊山種蒔山とイナゴ原で発見されたイネの新種」

【本文】
山形県と新潟県境にありながら、細い登山道と山頂一帯は福島県喜
多方市(旧山都町)の一部になっている奇妙な境界線の飯豊山(い
いでさん)。名前のように飯を豊かに盛ったような山です。飯は稲
をあらわし稲作信仰の山だといいます。

事実山頂の飯豊山神社は五社権現という神さまをまつっているとい
います。それは水の神である御井命(みいのみこと)、太陽熱をあ
らわす高照比売(たかてるひめ)と下照比売(したてるひめ)。農
具の神の味耜高彦根命(あじすきたかひこねのみこと)、生業の神
である事代主命(ことしろぬしのみこと)の五社五神だそうです。

山頂近くには「種蒔山」があり、そこには「いなご原」というとこ
ろもあります。飯豊山はオヤマシネ(シネはイネの古語)の信仰が
盛んでした。オヤマシネは種蒔山のイナゴハラ(いなご原)に自然
発生したと信じられる水稲品種のことだそうです。

このイナゴは「稲子」の意味でしたが、いまでは蝗の漢字を当てて、
秋になるとこの原一帯に昆虫のイナゴが飛びかうなどと言い伝えら
れています。

昔は参拝者がここに生えた稲を刈り取って持ち帰り、ふもとの田ん
ぼに種を播き、実った初穂を飯豊山に奉納、一粒が万倍になって戻
ってくることを祈ったそうです。

また飯豊山中にはカケ所と呼ばれる小祠が各所にあります。村人は
二百十日前後に1週間お籠もりし、洗米や稲の初穂を持ってお山に
登ります。

そしてカケ所のひとつ「種蒔き稲荷」に供え、また供えられている
他人の種もみを貰ってきて自分のところのもみとまぜて種をまくの
だそうです。この飯豊山の信仰は戦前まで続いていたそうです。

飯豊山の草履(ぞうり)塚という場所から御秘所(おひそ)手前に
姥権(うばごん)と呼ばれる石像があります。まわりを石垣に囲ま
れ体中に布を巻いて、風化されてすごい形相をしています。

その昔、羽前の国小松出身の姥が飯豊山に登りたい一念でここまで
来ましたが神の怒りにふれ、むなしく石にされたという伝説があり
ます。羽前小松はいまの山形県十日町市(旧川西町)あたり、JR
米坂線に羽前小松駅があります。

かつて参詣者は草履塚で草履をはきかえ、身や心を一新して登った
という。この一帯は「無間ヶ岳」とよばれる難所。とくに御秘所は
特別な場所で「無間地獄」に通じる「見ても見えない口無し穴」が
あり、「見るな語るな、語らば聞くな」といい伝えられる秘所で、
かつてはよく神隠しにあうところだったということです。

ちなみにこの山がこのように奇妙な境界線になったのは、山頂に飯
豊山神社の奥社があり、また里宮本殿が福島県喜多方市(旧山都町
一ノ木)にあって、神社への登拝はもっぱら福島県側から行われた
ことによるそうです。

▼種蒔山【データ】
山名:たねまきやま

★【所在地】
福島県喜多方市山都町(旧耶麻郡山都町)と山形県西置賜郡小国町、
新潟県東蒲原郡阿賀町(旧東蒲原郡鹿瀬町)との境。磐越西線山都
駅の北西22キロ。磐越西線山都駅からタクシー川入りから歩いて4
時間30分で種蒔山。三等三角点(1891.0m)がある。そのほか付近
に何もなし。地形図上には山名(種蒔山)と三角点の記号とその標
高のみ記載。付近に何も記載なし。

★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
【種蒔山三等三角点】緯度経度:北緯37度49分49.38秒、東経139度
43分52.65秒

★【地図】
2万5千分の1地形図「大日岳(新潟)」or「飯豊山(新潟)」(2図
葉名と重なる)。5万分の1地形図「新潟−大日岳」

★【参考】
「東北の山岳信仰」岩崎敏夫(岩崎美術社)1996年(平成8)
「飯豊山の修験道」中地茂男(「山岳宗教史研究叢書・7」(名著出
版)1977年(昭和52)所収)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

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