山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

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▼723号 「山の鳥・地獄の使い?トラツグミ」

【概略】
南ア茶臼岳のキャンプ場。はずれの富士山が見える高台にツェルト
を張りました。夕立のあとのガス、どんよりした薄暗いなか、一声、
ぬえの鳴き声が響いた。そのあといくら耳を澄ましても静寂感が覆
ってくるだけだった。一声だけなのがなお印象的だった。
・長野県南信濃村と静岡県静岡市との境

▼723号 「山の鳥・地獄の使い?トラツグミ」

【本文】
テントの一こま。夕飯を食べ寝袋の中、外は暗くなりました。ガス
が出てきたようです。テントの前を小動物が通る気はいがします。

突然「ヒー、ヒョー」と、ものさびしい地獄の底から聞こえるよう
な声。トラツグミとはわかっていても、うす気味悪く、思わず首を
すくめます。

トラツグミは体にとらふのあるツグミ属の鳥。その声が、昔、源頼
政が退治したという怪獣の「ぬえ」の声に似ているというので、ぬ
えの別称もあります。

薄暗い森林にすみ、昆虫、ムカデ、ナメクジ、ミミズなどを食べて
いるそうです。(スズメ目ヒタキ科ツグミ亜科ツグミ属の夏鳥また
はひょう鳥)。

南アルプスの茶臼岳(2604m・静岡県と長野県境)でもトラツグ
ミの声を聞きました。県営茶臼小屋キャンプ場(静岡県側)は若者
たちで賑わっていました。

キャンプ場の一番はずれ、富士山が見える高台にツェルトを張りま
した。ここは東側に富士山が望め、私のような関東の人間にはその
姿が珍しい。

夕立が過ぎ、小屋の親父さんがそばにやってきて下界に定期の無線
連絡をしています。二言三言冗談を飛ばし、小屋に降りていきまし
た。夕立があがったとはいえ、ガスでとうに富士山は見えません。

どんよりした薄暗いなか、一声、ぬえの鳴き声が響きました。その
あといくら耳を澄ましても静寂感が覆ってくるだけでした。

※【ぬえ退治】ぬえは、「古事記」や「万葉集」、「日本略記」、「吾
妻鏡」、「太平記」などにも記載されています。

なかでも源頼政のぬえ退治は有名で、「平家物語」(巻4)に、近衛
院の仁平年間(1151〜1154年)のころ、天皇が毎晩丑(うし)の
刻になるとおびえることがあった。

そこで源頼政が、おびえさせる主を矢で射落とし治しました。見る
と頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎の姿。鳴く声は「ぬえ」のよ
うだったという。

また、二条天皇の応保年中(1161〜62年)にも宮中でぬえが鳴い
たので、源頼政が仕留めたという(「平家物語」)話があります。

▼【データ】南ア茶臼岳(ちゃうすだけ)
・【所在地】
長野県飯田市旧南信濃村各地区名(旧下伊那郡南信濃村)と静岡県
静岡市との境。身延線身延駅の西28キロ。大井川鉄道井川駅からバ
ス畑薙第一ダム下車、歩いて7:30時間で南ア茶臼岳。写真測量に
よる標高点(2604m)がある。そのほか付近に何もなし。地形図上
には山名と標高点の標高のみ記載。山頂より北東方向直線約500m
に茶臼小屋とキャンプ場(水場)がある。

・【名山】
「日本三百名山」(日本山岳会選定):第243番選定:日本百名山以
外に200山を加えたもの。
「信州百名山」(清水栄一選定):第97番選定

・【位置】
南ア茶臼岳標高点】:北緯35度22分08.77秒、東経138度08分25.26秒

・【地図】
2万5千分の1地形図「上河内岳(甲府)」

【参考】
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・『日本大百科全書・17』(小学館)1989年(平成1)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

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