山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

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▼704号「蝶ヶ岳にコマクサはなぜ生えない?」

・【概略】
北アルプス一のコマクサ群生地蓮華岳。同じ砂礫地なのに蝶ヶ岳に
ないのはなぜ?コマクサは火成岩地域を好むという。同じ砂礫地を
つくる堆積岩地域に生えないのは堆積岩にコマクサが嫌いな成分が
あるか、重要な成分が足らないのかと専門家。
・ケシ科コマクサ属の多年草

▼704号「蝶ヶ岳にコマクサはなぜ生えない?」

【本文】
北アルプス一を誇るコマクサの群生地蓮華岳(2799m)。(以下、自
然地理学・東京学芸大学教授の小島武栄博士の「山の自然学」(岩
波新書)によります)。

蓮華岳は北アルプスの中ではあまり「人気」の山でなかったせいか、
荒らされることなくいまに至っているといいます。蓮華岳は古い年
代に噴出された安山岩が凍結破砕作用によってできた砂礫地。一方、
同じような砂礫地なのに蝶ヶ岳(2677m)にはコマクサが生えてい
ません。

コマクサは流紋岩や安山岩、花崗岩などの火成岩地域にしか生えな
いという。同じようでも蝶ヶ岳は粘板岩による砂礫地。理由は分か
らないがコマクサは砂岩、頁岩、粘板岩などの堆積岩地域を嫌って
いるようだというのです。

堆積岩地域に生えないのは堆積岩にコマクサが嫌いな成分がある
か、重要な成分が足らないのか。

そういえば高山植物のメッカ白馬岳(2932m)でも、砂岩、頁岩
地域にはコマクサは見られないという。これはもしかしたら表土の
安定ということよりも岩石の問題かと博士は首をひねります。

やはり高山植物の女王、お気が難しくあらせられます。ちなみに蝶
ヶ岳の名は、4月中旬から6月中旬、ふもとの安曇平・旧穂高町(い
まは安曇野市)方面から見ると、残雪が羽を広げて飛ぶチョウチョ
の形に白く浮き出すことに由来するそうです。

上高地に一泊したあと徳沢経由で蝶ヶ岳をめざしました。7月も末
というのもあり、蒸すような暑さです。長塀山もすぎて妖精池にた
どり着きました。

静かな物音ひとつしない開けた場所に池が水をたたえています。ま
わりは草原になっていて高山植物が群生しています。女性が何人か
ふみあとをたどっています。満開の花々たちと舞う蝶と蜂。蝶ヶ岳
の名の由来はここではないかと思ったりしました。
・ケシ科コマクサ属の多年草

▼【データ】
【山名】蝶ヶ岳・蝶の雪形。別称:頂嶽(播隆絵図)。

【所在地】
・長野県松本市安曇(旧南安曇郡安曇村)と長野県安曇野市堀金(旧
南安曇郡堀金村)との境。大糸線豊科駅の西16キロ。JR大糸線穂
高駅からタクシー三ツ股下車、さらに歩いて5時間で蝶ヶ岳。写真
測量による標高点(2677m・標石はない)がある。地形図に蝶ヶ岳
ヒュッテと蝶ヶ池、山頂に標高点と標高の記載あり。

【位置】
・標高点:写真測量による標高点(2677m)。【緯度経度】:緯度経
度:北緯36度17分14.67秒、東経137度43分33.87秒(国土地理院「電
子国土ポータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「穂高岳(高山)」(国土地理院「地図閲覧
サービス」から検索)

【参考】
・『信州山岳百科・1』(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
・『山の自然学』小泉武栄著(岩波新書)1998年(平成10)
・『山の紋章・雪形』田淵行男著(学習研究社)1981年(昭和56)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

 

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