山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

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▼703号「箱根・明神ヶ岳は天狗のたまり場」

・【概略】
明神とは明星の転化。宵の明星の神を明神(名神)とした山名という。こ
のあたりの森は昔から相模の天狗たちのたまり場で、夜な夜な酒盛り。そ
の時の踊りの笛や太鼓の音がよく聞こえてきたと伝えています。たまには
人をさらってきて飲ませたという。
・神奈川県南足柄市と箱根町との境

▼703号「箱根・明神ヶ岳は天狗のたまり場」

【本文】
神奈川県箱根の大雄山最乗寺は天狗のお寺。ここの天狗道了薩た(?
・どうりょうさった)は最乗寺守護のため、南方にある明星ヶ岳(標
高924m)に飛び去り、いまもそこにすんでいると伝えます。

その北西に明神ヶ岳(標高1169m)があります。ここは箱根古期外
輪山の1峰。明神とは明星ヶ岳と同じに、宵の明星にちなんだ山名
という。

また山頂に旅の安全を願った明神を祭ってあるところから明神ヶ岳
だという説もあります。ここ箱根明神ヶ岳は東側の村からは、南足
柄市狩野の西にそびえるので狩野山と呼ばれていたという。

また南足柄市塚原では西方にあたり、当地の名をつけ塚原山と呼ぶ
という。明神ヶ岳は山頂北の源流付近は箱根サンショウウオの生息
地になっています。

またこのあたりの森は昔から相模の天狗たちのたまり場といわれ夜
な夜な酒盛りが行われているという。その踊りの笛や太鼓の音がふ
もとまで聞こえてよくきたといわれます(「日本山岳ルーツ大辞
典」)。

ある夏の夜、山麓に住むご八という人が風呂上がりのまま、行方不
明になってしまいました。村をあげて山中を探したがとうとう見つ
かりませんでした。

それから3年、坊さんを呼んで法事の準備をしていると、うす汚い
格好をした本人が帰ってきました。驚いた村人たちが「いまお前の
法事をしていたんだ。いままで何処へ行っていた」と聞くと、ご八
は3日間だけ天狗と酒盛りをしていたといい、村人を驚かせたとい
う。

このようは話があちこちにあり、明神岳の天狗たちはときどき人里
から村人をさらってきては酒盛りの相手をさせていたという。ご相
伴にあずかりたいようなあずかりたくないような話ではあります
ね。

いま明神ヶ岳山頂は天狗の気配全然ナシ。ハイカーに踏み固められ
た登山道の途中に三角点と方向指示板が建ち、箱根方面一帯を展望
できるようにしてあります。大涌谷の湯煙がよく目立ちます。

これでは天狗たちも酒盛りのするところがありません。どこかもっ
と幽閉深秘な所を探して引っ越してしまったのでしょうか。

▼【データ】
【山名】・明神ヶ岳(みょうじんがたけ)山頂に旅の安全を願った
明神を祭ってあるところから・狩野山・塚原山

【所在地】
・神奈川県南足柄市と神奈川県足柄下郡箱根町との境。箱根登山鉄
道強羅駅の北3キロ。伊豆箱根鉄道大雄山線大雄山駅からバス、道
了尊下車2時間30分で明神ヶ岳(標高1169.1m)。三等三角点(116
9.1m)がある。地形図に山名と三角点の標高の記載あり。付近に
何も記載なし。

【位置】
・三角点:【緯度経度】北緯35度16分46.15秒、東経139度03分08.92
秒(電子国土ポータルWebシステムから検索)


【地図】
・2万5千分の1地形図「関本(横須賀)」(国土地理院「地図閲覧
サービス」から検索)。5万分の1地形図「横須賀−小田原」(「電
子国土ポータルWebシステム」から検索)

【参考】
・「角川日本地名大辞典14・神奈川県」伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「図聚天狗列伝・どういうわけか西日本編」知切光歳著(三樹書
房)1977年(昭和52)
・「天狗の研究」知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

 

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