山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼689号 「長野県入笠山のヒメタガソデソウ」

【概略】
漢字で姫誰が袖草。「色よりも香りこそあわれとおもほゆれ、誰袖
ふれし宿の梅ぞも」 (「古今集」)の歌のタガソデソウの姫型。こ
の香りは誰の袖の移り香でしょう。ファインダーを覗かせてもらう
と小さな花が恥ずかしそうに風に揺れていました。
・ナデシコ科オオヤマフスマ属の多年草

▼689号 「長野県入笠山のヒメタガソデソウ」

【本文】
6〜7月ごろ山中の草地に咲くタガソデソウという野草がありま
す。タガソデソウは「誰が袖草」。牧野富太郎博士は「古今和歌集」
の歌「色よりも香りこそあわれとおもほゆれ、誰袖ふれし宿の梅ぞ
も」に由来して名づけられたのだろうとしています。

ウメのような白い花で香気があります。この香りはどなたの袖が触
れたものだろうか。ヒメタガソデソウはその小型の種類。オオヤマ
フスマともいい、山地や山原のやや乾いた草地に生えています。

6月、長野県の入笠山に行きました。この山はスズランの山として
有名。最盛期にはちょっと遅くはありましたが群生したスズランが
見事に花をつけていました。

花見物の観光客がひっきりなし。身をかがめて三脚にセットしたカ
メラを覗く人がいます。覗かせてもらうとレンズの底に小さな小さ
なヒメタガソデソウの花が風に揺れています。

構図もなかなかのものです。雄大な景色の中からこんな小さな場面
を切り取ってレンズを向ける…。妙に感心しました。ここはキャン
プ場、ほかに6,7張りのテント。人影もなくなり静かになりまし
た。

翌朝、ヒメタガソデソウは朝露が朝日に光っていました。ちなみに
オオヤマフスマの「フスマ」の意味は不明だそうです。
ナデシコ科オオヤマフスマ属の多年草。

▼入笠山【データ】
【山名・異名・由来】
・入笠山(にゅうかさやま)ニュウとは方言で、1本の高い柱に稲
束をかけていくこと。稲積みともいいその山成になった形が菅笠に
も似ている。山の形が刈り取った稲の束を積み重ねた「にお」に似
ているところから「にお笠山」がなまって入笠山。入笠山登山口を
御所平峠といっているが、御所平は、足利時代初期、豪族諏訪氏に
よって保護されていた北条高時の息子相模二郎時行の屋敷があった
ところといわれている。また、一説には南北朝時代、軍事上の重要
な通行路として、南朝の宗良親王がいくさの指揮をとるため滞在し
た場所だともいわれている。

【所在地】
・長野県伊那市(旧上伊那郡高遠町)と長野県伊那市(旧上伊那郡
長谷村)、長野県諏訪郡富士見町(合併せず)との境。中央本線富
士見駅の西南西6キロ。JR中央本線青柳駅からタクシー入笠山。
二等三角点(1955.1m)がある。地形図に山名と三角点の標高の記
載あり。付近に何も記載なし

【名山】
・日本山岳会選定「日本三百名山」(第240番選定):日本百名山以
外に200山を加えたもの。
・清水栄一選定「信州百名山」(第90番選定)

【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索
・三角点:【緯度経度】北緯35度53分46.78秒、東経138度10分17.8


【地図】
・2万5千分の1地形図「信濃富士見(甲府)」。5万分の1地形図
「甲府−高遠」

【参考】
・「植物の世界・7」(朝日新聞社)1996年(平成8)
・「世界の植物・7」(朝日新聞社)1975年(昭和50)
・「牧野新日本植物図鑑」牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)
・「日本大百科全書・4」(小学館)1985年(昭和60)
・「角川日本地名大辞典20・長野県の地名」市川健夫ほか編(角川
書店)1990年(平成2)
・「信州山岳百科・2」(信濃毎日新聞社)1983年(昭和58)
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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