山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼660号 「白山・雷とハクサンコザクラと避難小屋」

【概略】
9月、白山御前ヶ峰で突然、土砂降りの雨とドカ〜ンと雷。ずぶ濡
れのまま歩き続け避難小屋に逃げ込んだ。翌日も狂ったような雨と
雷鳴。篠突く雨と雷で人っ子ひとり通らないまる2日。このあたり、
シーズンはハクサンコザクラが群生する小桜平という所。小桜平避
難小屋だった。
・石川県白山市

▼660号 「白山・雷とハクサンコザクラと避難小屋」

【本文】
 高山植物のハクサンコザクラは、北陸の白山で採取されたこと
からその名があります。夏にサクラソウに似て花びらが5裂した
紅紫色の花を咲かせます。かつてはこれをナンキンコザクラと呼
んでいたそうで、牧野富太郎博士の『新日本植物図鑑』にもハク
サンコザクラはかっこでくくってあります。

 ところが、サクラソウの1品種に同じ名のナンキンコザクラと
いうのがあるというから具合が悪い。そこで区別するため、高山
植物の権威者・武田久吉博士がハクサンコザクラと命名したとい
います。

 ある年の9月、福井県の九頭竜線勝原駅(かどはらえき)から
鳩ヶ湯、刈り込み池、三ノ峰経由で白山に訪れました。南龍ヶ馬
場でテント、翌日、快晴だった空模様は、室堂センターからガス
が湧きだし、御前峰に着いたころは、山頂からも何も見えなくな
るありさま。

 強くなってきた風を除けて白山比盗_社奥宮の石垣のなか潜り
込みます。お湯を出し、暖かいゆでアズキをつくって体を温めま
す。坂道を下り、池めぐりのコースへ。翆ヶ池あたりについたと
たん、突然ドカ〜ンという轟音の雷鳴が1発。とたんに降り出し
た大粒の雨。

 その勢いはこれこそ「篠つく雨」というのでしょうか、いまま
で見たこともありません。そこから大汝峰の下を巻き、岩間道を
急ぎ急いで避難小屋に飛び込みました。避難小屋は見るからに頑
丈そうで、トイレも建物の中にあり、先ずは安心です。

 雨の勢いは衰えず相変わらず降り続いています。翌日も狂った
ような雨と雷鳴が響きます。北陸一帯に大雨・雷・洪水警報が出
ているとラジオ放送で伝えています。台風が前線を刺激している
らしい。きょうは停滞と決め、小屋の中に濡れたものを干し、残
り少なくなった「般若湯」を傾け、寝袋の中にもぐり込みました。

 翌日もまた同じ勢い。小屋の前は水かさが増して波が立ち、木
の葉や枝が流れています。篠突く雨と雷で、人っ子ひとり通らな
いまる3日間。こうして寝泊まりしていると、こんな避難小屋に
も愛着が出てきます。

 それもそのはず、このあたり、シーズンはハクサンコザクラが
群生する小桜平という所。小桜平避難小屋だったのでした。咲き
誇る時期はどんな風景だろうか。もう一度満開の時期に来てみた
いものと、横なぐりの雨が吹きつけて川のような状態になった小
屋の前の小道を眺めました。


▼小桜平【データ】
【所在地】
・石川県白山市(旧石川郡尾口村)。北陸鉄道鶴来駅からバス、白
山一里野バス停下車、歩いて7時間20分で小桜平避難小屋。地形図
には「小桜平ヒュッテ」の文字のみ記載。標高なし。付近に何も記
載なし。

【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
・【小桜平避難小屋】緯度経度:北緯36度12分03.4秒、東経136度45
分27.29

【地図】
・2万5千分の1地形図「新岩間温泉(金沢)」&「白峰(金沢)」(2
図葉名と重なる)

【参考】
・「植物の世界・2」(朝日新聞社)1996年(平成8)
・「世界の植物・6」(朝日新聞社)1975年(昭和50)
・『日本の伝説3』「信州の伝説」浅川欽一ほか(角川書店)1976年
(昭和51)
・『牧野新日本植物図鑑』牧野富太郎(北隆館)1974年(昭和49)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

 

 

山旅イラスト【ひとり画展通信】題名一覧へ戻る
………………………………………………………………………………………………
「峠と花と地蔵さんと…」トップページ【戻る】