山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼573号 「東京・高尾山は女天狗?」

【概略】
高尾山の天狗は飯縄権現の姿。再興の祖俊源大徳に「余はアバラ(不
動)明王である。長い間魔怪たちが世の中を乱しているので降伏さ
せるために現れた。飯縄の女神という」といったと江戸後半の「若
稽旧記」にある。それなら高尾山天狗は女性ということになってし
まう。謎のひとつになっている。
・東京都八王子市

▼573号 「東京・高尾山は女天狗?」

【本文】
 有名な高尾山の天狗はくちばしのあるカラス天狗だという。そ
もそも高尾山は、「行基菩薩、時ノ天子、聖武天皇ノ御願ヲ奉ジ来
リテ、薬師如来ノ尊像ヲ刻ミ、一宇ヲ建ツ……」と『高尾山縁起』
にあり、奈良時代に行基が最初に開いたとあります。

 しかし、そのもとになっている『行基菩薩行化年譜』というも
のは、近代になって書かれたものだそうです。しかも、行基菩薩
に由来するとしている全国のお寺に、希望の創立年代、由来をア
ンケートをとってまとめた書物らしいのですから、すんなりその
まま信用できません。

 どこの神社やお寺の開創・由来もそうで、箔(かく)をつける
ため、なるべく古い年代にさかのぼっており、由来も短いものを
長〜く誇張しています。

 ここ高尾山もしかりです。行基の開山はともかく、大昔は高尾
山の山の中には、もともと小さなお堂のようなものが建っていた
らしいのです。その後、南北朝時代、北朝の永和2年(1376)に
俊源大徳がによって再興したとされています。

 その俊源が京都から東国に遊行して、高尾山を再興します。そ
のいきさつを『若稽旧記』(『新編武蔵風土記稿』に所収)という
本に書かれています。

 それによると「……相伝俊源勇猛精進、能奉祷事、其浴所在東
澗中、称為霊泉、甞修十万枚護摩、心疲仮寝、夢人面而鴟喙、冠
蒼蛇衣竺股、背出焔火、腋張両翼……」と漢文での記述です。

 つまり俊源が高尾山で、10万枚もの護摩を修して、勇猛精進、
猛修行して身心疲れ果て仮眠していると、夢の中に神・飯縄権現
があらわれたというのです。

 その姿は、顔は人で、トビのようにくちばしをとがらしていて、
頭に蒼(あお)いヘビをのせて、僧侶の法衣を着て、背中には火
炎がメラメラと燃えており、両わきから翼を広がって、右手に宝
剣を持ち、左手には索縄を持った、白狐(びゃっこ)にまたがっ
た荼吉尼天(だきにてん)の姿です。

 そして「余は阿婆羅(あばら)不動明王である。長い間世の中
が多難つづきで、もろもろの魔怪が気まゝに横行し、世の中を騒
がしている。そいつらにカミナリを落として降参させるため、奇
瑞(吉兆)をあらわした。これを飯縄の神女という。山に祭るが
よろしい」というようなことをいいました。

 その神の名前、姿からしてまさしく長野県飯縄山の天狗・飯綱
三郎の姿です。この姿は、ここ高尾山のほか、箱根の大雄山最乗
寺の道了尊、群馬の迦葉山、古峰ヶ原の天狗などはみなこの姿で
す。これは飯縄系列の天狗とされ、飯綱三郎に代表されるように
男の天狗です。

 しかし『若稽旧記』には確かに「これを飯縄の神女という」と
あります。それでは高尾山の天狗は女性ということになってしま
います。これは俊源大徳の聞き違いでしょうか。

このくちばしのある荼吉尼天姿の天狗が、鼻高天狗として(天狗
といえば鼻高天狗と勘違いされ)麓の駅に堂々と建てられてしま
っているいま、これも永遠の謎になってしまうのでしょうか。高
尾山を訪れる人たちは、そんな疑問は何も気にしていません。

 薬王院の境内の大天狗・小天狗に驚き、境内にまつられている
本来の本尊・白狐に乗った荼吉尼天姿の「飯縄権現」の姿の奇異
さに、「なにこれ、変なの!」と一瞥して通り過ぎていきます。


▼【データ】
【山名】・高尾山(たかおさん)
・【異名・由来】高雄山。

【所在地】
・東京都八王子市。中央線高尾駅の南西4キロ。京王高尾線高尾山
口駅からケーブルカー・高尾山駅から歩いて45分で高尾山山頂。

・山頂に二等三角点(599.2m)とビジターセンター、レストラン
ハウス、やまびこ茶屋がある。・山頂直下に薬王院(有喜寺)があ
る。

・地形図に山名と三角点の標高と高尾ビジターセンターの文字の記
載あり。三角点より東方向486mに薬王院がある。

【ご利益】
・【薬王院(有喜寺)】:除災開運・招福・商売繁盛

【名山】
・田中澄江選定「花の百名山」(第44番選定)

【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
・【二等三角点】緯度経度:北緯35度37分30.55秒、東経139度14分3
6.99秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「与瀬(東京)」or「八王子(東京)」(2図
葉名と重なる)。5万分の1地形図「東京−上野原」

【参考】
・「図聚天狗列伝・東日本編」知切光歳(三樹書房)1977年(昭和5
2)
・「天狗の研究」知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
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