山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼523号 「足尾・庚申山と庚申さま」

【前文】
庚申さまの総本山・庚申山。申は猿に通じるため猿田彦神をまつる。
かつて庚申山荘手前に猿田彦神社の本殿があったが火災にあい、い
まは山荘の納戸のなかの小祠が本殿になっている。また登山口銀山
平近くにも遙拝殿がある。
・栃木県日光市

▼523号 「足尾・庚申山と庚申さま」

【本文】
かつて庚申待(こうしんまち)という行事が各地の村々で盛んに行
われていました。これは60日に一度やってくる十干(じっかん)十
二支の、庚申(かのえさる)の夜、ごちそうを持ち寄り、お堂で一
晩中飲み食いしながら夜を明かすもの。

この講中が庚申の神を供養したしるしに塔を建てたのが、よく神社
の境内や街道で見かける庚申塔です。庚申塔と文字だけのものもあ
れば、青面金剛の像が悪魔を踏みつけているものもあります。

これは最近でも新しく建てられた塔を見かけることもあり、廃(す
た)れたとはいえ、まだ行われていることが分かります。

その庚申講の総本山が栃木県日光市(旧上都賀郡足尾町)の庚申山
(1892m)だという。かつてこの山に年劫を経た一匹の白い猿がす
んでいたという伝説があります。

この猿が申(さる)に通じるところから庚申山と名づけられて信仰
の対象にされました。猿はまた『古事記』などの天孫降臨の神話で、
神の道案内をした猿田彦(さるだひこ)神の「猿」にも通じるため、
庚申山には猿田彦をまつってあります。

かつて庚申山荘手前に猿田彦神社の本殿がありましたが、1946年(昭
和21)火災にあい、いまは山荘の納戸のなかの小祠が本殿になって
います。また登山口銀山平近くにも遙拝殿があります。

庚申講は江戸末期がとくに盛んで、大勢の人が参拝に訪れ「庚申山
お山巡り」が大流行したそうです。いまも「お山巡り」のコースが
あって登山者が巡っています。

当時、庚申講に参加する人が江戸市中だけでも3000人もいたという
からただごとではありません。そのため、登山口であるいまのわた
らせ渓谷鉄道通洞(つうどう)駅付近の宿は大いに賑わったといい
ます。

その後も山を紹介する本の出版が続いたせいもあって、信仰登山者
が殺到し、いまも登山道にはいろいろな講中から寄進された石仏や
灯篭、また里程標などがズラリとならんでいます。

ある夏、奇岩がつづく間のハシゴや鎖、「鬼のひげすり」や眼鏡岩
の大穴、日天・月天の祠、大小の岩穴などの「お山巡り」を一巡し、
猿田彦神社の本殿になっている小祠のある庚申山荘を訪れました。

祠は山荘内の鍵のかかった納戸の中にしまわれており、ご本体は拝
見できませんでした。しかし、鴨居に飾ってあった天狗の面(猿田
彦面)などは、スケッチとカメラに収められ、資料としてファイル
することができました。

ついでながら銀山平にある猿田彦神社遙拝殿は、1890(明治23)年
小滝抗の山神社として抗夫によって建立されたものという。

1954年(昭和29)の小滝抗廃止の際、猿田彦大神・大己貴命(おお
なむちのみこと)・少彦名命(すくなひこなのみこと)の3神を合
祀(ごうし)し、のち猿田彦神社の遙拝殿となりました。

いまでも神社裏の祠に山神権現の石碑があります。これは庚申山を
開いた勝道上人が庚申山の奥ノ院に神霊を祭ったときにはじまった
とされています。(「足尾の神社仏閣」パンフ)。

▼【データ】
【山名・異名】庚申山(こうしんざん)
・【由来】:庚申信仰。年劫を経た白猿が棲んでいたといい、猿が申
に通じることから庚申山と呼ばれた。猿の浄土とも呼ばれた。

【所在地】
・栃木県日光市(旧上都賀郡足尾町)。わたらせ渓谷鉄道通同駅の
北西6キロ。わたらせ渓谷鉄道通胴駅からタクシー・銀山平から3
時間20分で庚申山。写真測量による標高点(1892m)がある。地形
図に山名と標高点の標高記載あり。標高点から東方513mにコウシ
ンソウの自生地がある。東南730mに庚申山荘がある。

【ご利益】
・【庚申信仰】農業神・養蚕の神・馬の守り神・漁業の神・ドロボ
ー除け・火事の予防・病気予防・金儲け
・【猿田彦神社】祭神・猿田彦神:悪病除、魔除

【位置】(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
・【標高点】緯度経度:北緯36度40分23.11秒、東経139度21分40.54


【地図】
・旧2万5千分の1地形図「皇海山(日光)」

【参考】
・『角川日本地名大辞典9・栃木県」大野雅美ほか編(角川書店)1
984年(昭和59)
・『図聚天狗列伝・東日本編」知切光歳(三樹書房)1977年(昭和5
2)
・『仙人の研究』知切光歳(大陸書房)1989年(平成元)
・『日本歴史地名大系9・栃木県の地名』寶月圭吾(平凡社)1988
年(昭和63)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎(東京堂出版)1984年(昭和59)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

………………………………………………………………………………………………
山旅イラスト【ひとり画展通信】
題名一覧へ戻る