山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼515号 「南ア・農鳥岳の雪形」

【前文】
農鳥岳の雪形は2種類あって、いずれも東の峰の農鳥岳のアスナロ
沢の源頭に出るという。夏のはじめ白鳥の雪形が出て、次に牛の雪
形があらわれる。また、雪形は年2回現れることがあり、秋に積も
った雪でまた農牛の形が出てくるという。
・山梨県早川町と静岡県静岡市との境

▼515号 「南ア・農鳥岳の雪形」

【本文】
南アルプスでも北にある北岳(きただけ)・間ノ岳(あいのだけ)
・農鳥(のうとり)岳の三山は合わせて白峰(しらね・白根)三山
と呼ばれています。

その名は高山のためまわりの山々よりも遅くまで白く雪が残るので
白峰なのだそうです。農鳥岳は2峰に分かれ、東側が単に農鳥岳、
西にあるのが西農鳥岳といっています。

ところで各地の山に現れる雪形(雪融けの模様が人や動物の形にな
って現れる)は、かつてはふもとの農作業の目安になっていました。

雪が融けたところは黒く、残ったところは白い。農鳥岳にも雪形が
あらわれ、農作業にちなむ鳥の形であるのが山名の由来という。

農鳥岳の雪形は2種類あって、いずれも東の峰の農鳥岳のアスナロ
沢の源頭に出るという。夏のはじめ白鳥の雪形が出ると、地元では
イネの苗代(なわしろ)づくりをはじめたそうです。

次に牛の雪形があらわれるとダイズやアズキの種蒔きをはじめたと
いう。また、雪形は年2回現れることがあり、秋に積もった雪でま
た農牛の形が出てくると、こんどは収穫の作業をはじめるという。

ところが江戸時代後期の地誌(「甲斐国志」(巻之三十三)山川部第
十四)などに農鳥の雪形が現れるのは間ノ岳だとあります。

しかし甲府盆地から見える南を向いた白鳥があるのは東側の農鳥岳
だという。

また、農鳥の形とは雪の消えたあとへ出る黒い岩で、卵を三ッ持っ
て現れるとの言い伝えもあり、暦が不完全だった昔は雪融けの模様
が季節を知るのに重要だったようです。

▼【データ】
【山名】まわりの山々よりも遅くまで白く雪が残るから白根山。農
鳥岳(のうとりだけ)。農の鳥の雪形からの山名。

【所在地】農鳥岳と西農鳥岳がある。
・山梨県中巨摩郡早川町と静岡県静岡市との境。JR中央本線甲府
駅の西30キロ。JR身延線身延駅からバス、奈良田から延べ9時間
30分で農鳥岳、さらに40分で西農鳥岳。農鳥岳には二等三角点(標
高3025.9m)、西農鳥岳には写真測量による標高点(標高3051m・
標石はない)がある。農鳥岳の地形図には山名と三角点記号とその
標高の記載あり。西農鳥岳の地形図には山名と標高点の標高の記載
あり。農鳥岳の三角点より西北方向740mに西農鳥岳がある。西農
鳥岳の北方向780mに農鶏小屋がある。

【名山】
・深田クラブ選定「日本二百名山」(第173 選定):日本百名山以
外に100山を加えたもの・日本三百名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(50選定・山梨県)
・山梨県選定「山梨百名山」(第42 選定)

【位置】
・【標高点】緯度経度:北緯35度37分29.92秒、東経138度13分46.58
秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)

・【三角点】緯度経度:北緯35度37分16.28秒、東経138度14分12.63
秒(電子国土ポータルWebシステムから検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「間ノ岳(甲府)」。5万分の1地形図「甲
府−大河原」

【参考】
・「甲斐国志」(巻之三十三)山川部第十四(松平定能(まさ)編集)
1814(文化11年):(「大日本地誌大系」(雄山閣)1973年(昭和48)
・「角川日本地名大辞典19・山梨県」磯貝正義ほか編(角川書店)1
984年(昭和59)
・「山の紋章・雪形」田淵行男著(学習研究社)1981年(昭和56)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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