山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼503号「鳳凰三山の鳳凰は法皇か」

・【概略】
鳳凰は法皇の意味らしく、奈良法皇が病気治療のため早川町奈良田
地区へ滞在した時、この山に登り地蔵を安置したという伝説がある。
古書に「絶頂の岩の上に黄金で鋳た三寸ばかりの衣冠をつけた像が
あって、奈良の法皇の姿だ」とある。この法皇とは孝謙女帝だとも、
女帝の寵愛をうけた弓削道鏡だともいわれている。
・山梨県韮崎市と南アルプス市、武川村との境

▼503号「鳳凰三山の鳳凰は法皇か」

南アルプスの鳳凰山というのは、鳳凰三山の地蔵岳、観音岳、薬師
岳のどの山を指すのかいまでもはっきりしないといいます。古書に、
この山上に金色のニワトリがつがいで住んでいるため、鳳(おおと
り)にたとえて鳳凰山といったとあります。

また地蔵岳の姿を大鳥に見立てての鳳凰説、奈良法皇からの法皇山
説などがあるそうです。鳳凰は法皇の意味らしく、その昔、奈良法
皇(女帝の孝謙上皇とも弓削道鏡(ゆげのどうきょう)ともいう)
が病気治療のため、山梨県早川町奈良田地区へ滞在した時、この山
に登り地蔵を安置したという伝説があります。

江戸時代天明年間(1781〜1789年)成立の『甲斐名勝志』萩原元克
編(巻の四・鳳凰山)にも、山上に黄金の衣冠をつけた三寸ばかり
鳳凰権現像がある。昔から盗賊が像を盗もうとするが、岩のように
重く持ち上がらずいまも岩の上にある。これは奈良の法皇をかたど
ったものになっている。昔、法皇がこの山に登り、都をしのんだの
で、法皇ヶ岳と呼ぶ。奈良田に住んでいた跡がいまも残っている、
とあります。

この法皇とは孝謙女帝だとも、女帝の寵愛をうけ、法王にまで登り
つめた弓削道鏡(ゆげのどうきょう・?〜772)だともいわれてい
ます。

弓削道鏡といえば奈良後期の政治家・僧侶で、762年、孝謙上皇が
病気になったとき宿曜秘法(すくようひほう)を使い治療したのが
きっかけで女帝に寵愛され、766年には法王となり、天皇に準ずる
待遇を受けるまでに登りつめた人物。

『続日本紀』(巻二十九)「神護景雲三年(769年)・壬申(みずの
えさる・正月三日」には「法王道鏡、西の前殿に居す」とあり、孝
謙女帝と夫婦同然の生活をしていたようです。

その巨根説は有名でのちに「……即ち孝謙帝の夫なり、馬陰に量(は
か)るに過ぎたり」(「日本架空伝承人名事典」)とまでいわれてい
ます。

もっとも同書には、道鏡は下野国に流され、薬師寺の別当となって
一生を終わったとされており道鏡ではないだろう、ともつけ加えて
あります。

また「裏見寒話」(江戸時代後半期の宝暦2年(1752)野田成方著
・甲斐の見聞記)にも同様のことが書いてあるほか、法皇が甲州へ
来たということは国史には見当たらない、と書かれています。

1934年(昭和9)の夏、山頂調査が行われ、懸仏、古銭、剣、鉾(ほ
こ)などが多数発見されました。これらは文字がなく、制作年代は
不明だが、鑑定の結果、古銭に宗銭が混じっていることなどから奈
良から平安時代初期に開山されたものだろうと推測されています。

▼【データ】
【山名】地蔵ヶ岳・地蔵岳・地蔵仏、大鳥ヶ岳、おおとんがり(大
尖り)、ウェストンピーク。

【所在地】
・山梨県韮崎市と山梨県南アルプス市芦安(旧山梨県中巨摩郡芦安
村)、山梨県北巨摩郡武川村との境。中央本線韮崎駅の西13キロ。
JR中央本線韮崎駅からマイクロバス、青木鉱泉から歩いて6時間
30分で地蔵ヶ岳。写真測量による標高点がある。地形図に山名と標
高点の標高記載あり。

【位置】
・標高点:写真測量による標高点(2764m)。【緯度経度】:北緯35
度42分43.28秒、東経138度17分55.37秒(国土地理院「電子国土ポ
ータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「鳳凰山(甲府)」(国土地理院「地図閲覧
サービス」から検索)

【参考】
・「甲斐名勝誌」萩原元克編(巻の四・鳳凰山)(天明年間(1781〜
1789年)成立)
・「続日本紀」(全3巻のうち中巻)宇治谷孟「現代語訳」講談社学
術文庫版(講談社)1992年(平成4)
・「新稿日本登山史」山崎安治著(白水社)1986年(昭和61)
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・「日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・「日本歴史地名大系19・山梨県」(平凡社)1995年(平成7)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
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