山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼501号「大和葛城山・全国から岩橋造りに集まった妖怪たち」

・【略文】
役ノ行者が奈良県葛城山と、大峰山の間に岩橋を建設しようと考え
ました。この工事を手伝わせようと、京都愛宕山、鞍馬山、滋賀県比
良山、長野県飯縄山、富士山、群馬県妙義山、茨城県筑波山、九州
英彦山、神奈川県丹沢大山、滋賀県と京都比叡山、熊本県肥後金峰
山、香川県白峰、静岡県秋葉山などから鬼神や天狗が呼び出されまし
た。その数21人(?)だそうです。結局、行者が島流しになり岩橋工事
は未完成に終わったという。そのメンバーは……。
・奈良県葛城市と大阪府南河内郡河南町との境。

【本文】は下記にあります。

▼501号「大和葛城山・全国から岩橋造りに集まった妖怪たち」

【本文】
▼山旅漫歩゚【ひとり画展】501号(00・05)
「奈良岩橋造りで呼び出された鬼神、山神、天狗たち」

毎度とてつもない話で恐縮です。いまからはるか遠く飛鳥時代、奈
良県吉野金峰山から大峰山の厳しい修行をもなしとげた役行者(え
んのぎょうじゃ)は、すでに神格をそなえ、弟子をたくさん従えて、
葛城山(かつらぎさん)と大峰山(おおみねさん)と交互に住みわ
けていました。

それを見習って、この二大聖地を目指して修行に入る人たちが次第
に多くなってきます。そこで行者は、葛城山と金峰山(きんぷせん
・大峰山と峰続き)の間の空中に、岩で橋を架け、これらの人々を
行き来させようと考えました。

さっそく従者の前鬼・後鬼に全国の山々をふれまわらせ、そこに棲
む天狗や鬼神を召集して、岩で橋を架けることを命じました(『今
昔物語集』第十一巻、第三)。

その時まわった山々は、駿河(静岡県)富士山、下野(栃木県)日
光山、加賀(石川県)白山、越中(新潟県)立山、上野(群馬県)
妙義山、紀州(和歌山県)高野山、山城(京都府)比叡山、同じく
笠置山、同じく愛宕山(あたごやま)、同醍醐山、同鞍馬山。

また、讃岐(香川県)象頭山(ぞうずせん)、同じく白峰(しらみ
ね)、同八栗山(やくりさん)、常陸(茨城県)筑波山、出羽(山形
県)湯殿山、遠江(静岡県)秋葉山、豊前(福岡・大分県)英彦山
(ひこさん)、伯耆(鳥取県)大山(ほうきだいせん)、筑後(福岡
県)高良山(こうらさん)、筑前(福岡県)背振山(せぶりやま)。

さらには日向(宮崎県)霧島山、越後(新潟県)妙高山、信濃(長
野県)浅間山、同木曽御嶽(きそのおんたけ)、同じく木曽駒ヶ岳、
出羽(山形県)羽黒山、伊勢(三重県)朝熊山(あさまやま)、土
佐(高知県)足摺山、伊予(愛媛県)石鎚山(いしづちやま)、同
じく豊岡山、甲斐(山梨県)身延山(身延山)などだそうです(『仙
人の研究』)。

その山々から集まった山神や妖怪、天狗たちは京都愛宕山太郎坊、
同鞍馬山僧正坊(そうじょうぼう)、滋賀比良山次郎坊、長野飯綱
三郎(いづなのさぶろう・飯縄山)、富士太郎、厳島三鬼神、上野
妙義坊、常陸筑波法印、英彦山豊前坊(ぶぜんぼう)、相模大山伯
耆坊(ほうきぼう・実際には伯耆坊が伯耆大山から丹沢大山に移り
住んだのは、時代が後の室町中期から戦国時代の間らしいとされて
いる)。

また、叡山法性坊(ほうしょうぼう)、肥後阿闍梨(あじゃり)、
高雄内供奉(ないぐほう)、白峰相模坊(これも実際には香川県の
白峰に移ったのは平安中期くらいだという)、秋葉山三尺坊、高野
山高林坊(こうりんぼう)、堺ノ浦太郎坊、大峰金平六(こんぺい
ろく)、葛城山高天坊、それに前鬼、後鬼など21狗(天狗は1狗、
2狗と数える)におよぶと、天狗ぞろいの連名を『天狗の研究』は、
『役行者御伝記』から抜粋、紹介しています。

役ノ行者はこれらの天狗、山神たちに空中に前代未聞の岩橋を造る
ことを命じます。それからというもの妖怪や天狗たちは、日夜、や
いのやいのと責め立てられ、嘆き悲しみますが、行者は許してくれ
なかったという。

『役行者本記』では飛鳥時代・持統9(695)年(役行者62歳)、『役
君形生記』では文武元(697)年のことだったといいます。しかし
結局、鬼として使役されていた一言主(ひとことぬし)の神は我慢
ができず、都人(みやこびと)に取りつき、役行者が世の中をひっ
くり返そうとしていると告げ口します。

あわてた朝廷は役行者の母親を使って行者を捕らえます。そして、
伊豆の大島に島流しにしたため、工事は未完成におわってしまいま
した。それがいま、大和葛城山の北方岩橋山にある「久米の岩橋」
だとされています。

現地に行ってみると、なるほど橋のたもとらしき岩の塊が吉野金峰
山の方を向いて転がっています。この付近にはない大岩がここにだ
けかたまってあるのも不思議です。

しかし、石のこの雑な組み立て方はどうだ。いかにもほっぽらかし
のように岩が無造作に置いてあります。少し整理整頓しようにも、
こんな大岩、動くはずもなく、ただなで回すだけ。これじゃ役ノ行
者も怒るわなと笑ってしまいました。


▼葛城山岩橋山【データ】
【山名】役小角、全国の鬼神を集めて金峰山との間に岩橋を建造し
ようとする岩橋伝説

【所在地】
・奈良県葛城市(旧北葛城郡当麻町)と大阪府南河内郡河南町との
境 近鉄南大阪線尺土駅から歩いて2時間30分で岩橋山。三等三角
点がある。

【位置】
・三角点:北緯34度29分35.95秒、東経135度40分45.3秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「御所(和歌山)」

▼【参考】
・『今昔物語集』第十一巻、第三:日本古典文学全集21「今昔物語
集」校注・馬淵和夫ほか(小学館)1995年(平成7)
・『図聚天狗列伝・西日本篇』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭
和52)
・『仙人の研究』知切光歳(大陸書房)1989年(平成元)
・「旅と伝説」1928年(昭和3)5月号(三元社):『民俗学資料集
成・1』収納
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
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