山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼484号 「東京奥多摩棚沢・平将門神社の御幸姫観音」

【略文】
奥多摩棚沢集落の将門神社は将門の子の将軍太郎良門が建立。将門
の愛姫御幸姫観音像も建てられており、いまでも奥多摩町の民家で
は姫のお札を戸口に貼っています。しかし、愛姫とはなんだ。愛(ま
な)娘か?妃か?愛妾か?
・東京都奥多摩町

▼484号 「東京奥多摩棚沢・平将門神社の御幸姫観音」

【本文】
 奥多摩周辺には平将門にちなんだ伝説が多くあります。雲取山か
ら東へつづく石尾根上にも七ッ石山、将門馬場、三ノ木戸山などの
地名があり、その他各地に将門にちなんだ名が残っています。また
青梅市は、将門のお手植えの梅の木からおきた地名だとされていま
す。

 秩父地方では、秩父で生き残った将門一族が奥多摩側へ移住し子
孫が繁栄したとの言い伝えもあります。本仁田山や川苔山の登山口
・鳩ノ巣駅近くの棚沢集落には、将門神社というそのものズバリの
神社があります。

 ここにはもともと醍醐天皇の延喜年中に、鎮護府将軍藤原利仁(ふ
じわらのとしひと)が八千才神(大国主命)をまつって建てた多名
沢神社があったのだそうです。平安時代の天徳年代(957〜961)
になり、平将門の子・将軍太郎良門が父将門の遺影を刻んで奉安し
たと伝えています。

 それからはここを将門宮と呼ぶようになり、やはり平将門の子孫
で当村の領主三田忠平が将門神社の鎮守になってから栄えました。
かつてはこれも将門伝説をもつ秩父地方からの参詣者で賑わったと
いう。

 このあたりは将門の舘跡といわれ、地名も将門。姫塚(御幸塚)
と呼ぶ将門の愛姫・御幸姫を祭った塚もあったという。神社には御
幸姫観音像も建てられています。神社には御幸姫観音像も建てられ
ています。

 しかし、愛姫とはなんだ。愛(まな)娘か?妃か?愛妾か?ちま
たでは、将門の子供の一人だ、神話に出てくる豊玉姫に神格化した
ものだとかとにぎやかです。ちなみに御幸姫観音像の説明板には、
愛姫は将門の妃となっています。

 それには「古記によれば、平将門公寵愛の妃御幸姫は、将門の没
後、当棚沢小字住安戸(俗称「将門の原」)に一族と共に移り住ん
だと伝えられています。姫他界するや、原中央に葬り塚を築いて御
幸姫塚と称して永く世人に崇拝され親しまれていました。

 終戦後、塚は荒れ果てたまま忘れ去られるにいたりました。その
後、姫の霊魂なせるがごとき現象が誰言うとなく現れ、姫の霊魂に
対する人々の追慕の念はいよいよ強くなってまいりました。

 昭和五十年将門神社再建されるや、これに伴ひ姫の霊魂永久に安
かれと「御幸姫観音」を建立の機運が生じ、発起人一同相計り町内
外多数有志の誠意あるご協力に依りうんぬん……」とあります。こ
の像は江戸時代信徒に配られた御幸姫観音の護符の御影を原形とし
たものだとか。

 いまでも奥多摩町の民家では御幸姫のお札を戸口に貼っているの
を見かけます。将門神社は棚沢のほか、奥多摩町の中では峰畑、城、
三ノ木戸にもあるそうです。

 ある初秋、川苔山直下・舟井戸の水場近くで野宿の訓練山行をし
ました。JR青梅線鳩ノ巣駅から将門神社に立ち寄りました。鳩ノ
巣駅から北側にまわり、棚沢集落の民家裏の崖の細道をしばらく行
くと、将門神社入口・登り口・御幸姫観音・三面不動尊・縁結び・
山の神供養塔と書かれた案内板があり、階段を上ると将門神社に至
ります。

 境内、石灯籠を前に御幸姫観音像が建っています。足元に石に
「心」と書かれた置物があります。その夜は舟井戸で野宿。夜が更
け、焚火の火も細くなってきました。眠気と煙でいろいろな妄想が
浮かんできます。

 ……。御幸姫が正妻だとしたら、まもなく討伐軍に襲われる、館
のある茨城の岩井からここにひとりでやってくるには、どんなに難
儀だったでしょうか。

▼将門神社【データ】
【所在地】
・東京都西多摩郡奥多摩町棚沢。JR青梅線鳩ノ巣駅から15分で将
門神社。

【位置】
・将門神社:北緯35度48分55.15秒、東経139度7分58.82秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「武蔵御岳(東京)」or「奥多摩湖(東京)」
(2図葉名と重なる)。

▼【山行】
・某年9月4日(土曜日・くもり)

▼【参考文献】
・『奥多摩風土記』大館勇吉著(武蔵野郷土史研究会)1975年(昭
和50)
・『奥秩父の伝説と史話』太田巌著(さきたま出版会)1983年(昭和58)
・『日本架空伝承人名事典』大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成4)
・「パンフ」(奥多摩ビジターセンター)氷川、白丸、鳩ノ巣、古里
コース(その2)
・将門神社「石の説明版」

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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