山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼480号 「南アルプスの展望台勘行峰」

【概略】
昔の南アルプスの登山道大日峠。いまは車がひっきりなしに走る車
道。名物の一丁ごとの石仏はとうにお引っ越し。勘行峰からの眺め
は井川湖の上に南アルプスの山また山の昔のまま。このままにして
おくには、なんとも何とももったいない。
・静岡県静岡市

▼480号 「南アルプスの展望台勘行峰」

【本文】
♪登りつめれば大日峠、秋の気配は増すばかり 心細さよザック
の重さ、恋の思いも増すばかり……。「秋山のうた」(たかすぎか
ずお・作詞)の一節です。

1985(昭和33)年に静岡から富士見峠を経て南アルプスの山村・
井川集落まで林道が通る以前は、この大日峠越えは静岡と井川を
結ぶメインルート。

南アルプスをめざす登山者も汗を流した道で、旅の安全を願う一
丁ごとの石仏も、歩く人たちの目をなごませてくれたといいます。
とりわけ牧場のある勘行峰からの眺めはバツグン。

そんな古いガイドブックの文章に心ひかれて、静岡駅前から上落
合行きのバスに乗りました。バスの終点上落合から舗装道路をひ
たすら歩きます。

口坂本から荒れて登山道に入り、何回か車道を横切り、水呑茶屋
跡へ。壊れた建物のわきの清水でのどをうるおします。清水のわ
きから延びる、ヒノキ林へと続く道を登ると、やがて大日如来の
碑のある大日峠。以前はこの樹林の中に大日堂が建っていたとい
います。

しかし名物の石仏などはサッパリ見あたらず、キツネにつままれ
たようです。峠には大日如来の碑が建っています。しかし名物の
石仏などはサッパリ。近くに五差路の車道が通っており、ここが
新しい大日峠だそうな。クルマがビュンビュン走っています。

石仏は車道ができた時期と前後して西麓の井川本村の大日院に移
転したという。俗化のあまり神仏がとうに引っ越してしまった大
日峠。クルマ族だけが訪れる勘行峰。もはや登山の対象ではあり
ません。

勘行峰へはさらに車道を一時間あまり。展望台があり、のんびり
と牛の群れが行き、井川湖の上に南アルプスの山また山が連なっ
ています。

荒川三山、赤石岳、聖岳、上河内、茶臼岳……とガイドブックの
文章どおり。この素晴らしい眺めがドライブ族たちのためだけと
は、いかにも惜しいことです。

それからは少年自然の家の横を下り、井川湖の渡し船に乗り、対
岸の井川本村へ。そして何の気なしに大日院を訪れました。そこ
には以前、大日峠にまつられていた大日如来、石仏群、茶壺屋敷
の山の神などがズラリ。

車道ができた時期と前後してみんなここに移転していたのでした。
俗化して神仏がとうに引っ越してしまった大日峠。クルマ族だけ
が訪れる勘行峰。もはや登山の対象ではなくなってしまったのか。

♪一人尋ねる勘行牧場 ここの眺めのなつかしさ 南アルプス山
また山を 見れば迷いも晴れてくる……。それにしてもこのまま
にしておくには、何ともモッタイナイいいコースでありました。

▼【データ】
【山名・地名】かんぎょうみね

【所在地】
・静岡県静岡市。大井川鉄道井川駅の東5キロ。JR東海道本線静
岡駅からバス上落合終点下車、さらに歩いて2時間50分で勧業峰。
三等三角点(1149.6m)と、展望台と、牧場がある。地形図上には
山名と三角点記号とその標高のみ記載。付近に何も記載なし。

【位置】
・【三等三角点】緯度経度:北緯35度12分40.83秒、東経138度16分4
5.07秒(電子国土ポータルWebシステムから検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「湯の森(静岡)」。5万分の1地形図「静
岡−南部」

【参考】
・「アルパインガイド30・南アルプス」(山と渓谷社)1979年(昭和
54)版
・「角川日本地名大辞典22・静岡県」小和田哲男ほか編(角川書店)
1982年(昭和57)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

………………………………………………………………………………………………
山旅イラスト【ひとり画展通信】
題名一覧へ戻る