山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼477号 「北ア・蓮華岳のコマクサ」

【概略】
蓮華岳山頂の砂礫の中に咲き乱れるコマクサは北アルプス一との評
判が高い。8月の後半、針ノ木峠から蓮華岳に向かう。山頂に近づ
くにつれ登山道わきの砂礫地に濃いピンク色が広がる。コマクサの
花、花、花のなか山頂の三角点をなでまわした。
・長野県大町市と富山県立山町との境

▼477号 「北ア・蓮華岳のコマクサ」

【本文】
 後立山連峰の最南端・針ノ木岳から、稜線は直角に東に折れ、
蓮華岳で再び直角に曲がり南に延びています。種池あたりから望
む蓮華岳は、一段とその大きさを見せつけています。蓮華岳はハ
スの花の山。ここも白馬岳と同じように、針ノ木岳や北葛岳など
周辺の山々をハスの花弁に見立てその中心のこの山を蓮華岳と呼
んだのだという。

 山頂すぐ西側には北大町駅近くにある若一王子(にゃくいちお
うじ)神社奥宮の祠が建っています。三大雪渓のひとつ針ノ木雪
渓のある針ノ木峠から1時間で、山頂に立て、稜線から山頂付近
は風化した白い砂礫の地肌がなだらかに広がっています。その砂
礫の中に咲き乱れるコマクサは北アルプス一だとの評判が高い。

 8月の後半、大沢小屋創設者百瀬慎太郎の詩「山を想えば人恋
し、人を想えば山恋し」と刻まれたレリーフを横目で見ながら針
ノ木雪渓に取り付きます。雪渓はすでに崩れかかり直登できませ
ん。崩れかかる雪渓を何回か横切り、岩の鎖をよじりながら見覚
えのある大岩のわきで小休止。

 おやつを食べたあとやっと針ノ木峠に着きました。テント場に
はどこかの学生たちの集団で賑やかです。目の前はあのコマクサ
の蓮華岳が立ちはだかっています。そうだ久しぶりのゆったり山
行、明日は蓮華岳でコマクサのお花見三昧をしよう。

 翌朝は快晴。テントを張りっぱなしにして、山頂への急坂を登
りはじめました。途中ですれ違う登山者にコマクサの咲きぐあい
を聞いてみます。「うん、チラホラだね」との返事。やがて登山道
は広いガレ場の中に入ります。山頂に近づくにつれ、まだ登山道
わきの砂礫地にビッシリと濃いピンク色が広がっていました。

 コマクサの花、花、花。まさに期待通りのルンルン気分。雄大
なパノラマと歩くのに夢中になり、案外目に入っていないもので
す。下手ながらも写真を撮ろうとカメラを取り出し、カメラをの
ぞくとコマクサの根元に動くものがいます。

 よく見ると大きなエゾゼミらしい。しばらくもぞもぞしていま
したが、元気よく飛び立っていきました。この写真が気に入り、ス
マホの表紙にしています。山頂に腰を下ろし、お茶を飲みます。
格好よくコーヒーといいたいところですが、時代遅れの爺婆にと
って、飲み物といえば緑茶。

 わけもなく南方の槍・穂高方面を眺めていると、北葛岳からの
急坂を登ってくる登山者がいます。聞けば裏銀座を縦走してきた
とのこと。蓮華岳の山頂に着き吹き出る汗を拭いています。お疲
れさまです。さて随分と時間も過ぎた。そろそろ我らも下山する
か。立ち上がり山頂の三角点をなでまわします。直下の若一王子
神社の奥宮の祠に手を合わせ、引き返したのでありました。


▼蓮華岳【データ】
【所在地】
・長野県大町市と富山県中新川郡立山町との境。大糸線信濃大町駅
の北西14キロ。JR大糸線信濃大町駅からバス、扇沢から歩いて5
時間で蓮華岳。二等三角点(2798.6m)がある。地形図に山名と三
角点記号とその標高のみ記載。付近に何も記載なし。

【位置】(電子国土ポータルWebシステムから検索)
・三角点:北緯36度32分8.75秒、東経137度42分37.96秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「黒部湖(高山)」。5万分の1地形図「高
山−立山」

▼【参考】
・『信州山岳百科・1』(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・『山の自然学』小泉武栄著(岩波新書)1998年(平成10)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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