山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼442号 「北ア・立山ミクリヶ池伝説」

【概略】
立山・室堂にあるミクリガ池の伝説です。越前からきた小山法師は、
ミクリガ池を見て「なんだ。聞いていたよりずいぶんと小さいじゃ
ないか」と小馬鹿にしたうえ、池に飛び込んで、抜き手を切って三
めぐり(三繰り・みくり)をして見せました。すると突然、池の主
があらわれ、法師を水の中に引き込み、そのまま浮かんでこなかっ
たという。そこで「ミクリガ池」の名がつきました。
・富山県立山町

▼442号 「北ア・立山ミクリヶ池伝説」

【本文】
▼山旅【画展】442号「北ア・立山ミクリヶ池伝説」
【本文】
 北アルプス立山室堂から500mくらいのところに「ミクリヶ池」
という池があります。ここは神秘な池として、また見る角度によ
って立山の影がハート形に写り、登山者の人気の的になっていま
す。その名は8月に行われる地獄供養という行事の際、読経しな
がら池のまわりを巡るのに由来しているといいます。

 そのほかにもう一つ面白い地名伝説があります。この池には、
昔から大蛇がすむといわれてきました。また「八寒地獄」といい、
亡者たちを苦しめる8種類の極限の寒さ地獄の場所。(それは、?
部陀(あぶだ)・尼剌部陀(にらぶだ)・???(あせった)・??
婆(かかば)・虎虎婆(ここば)・?鉢羅(うばら)・鉢特摩(はど
ま)・摩訶鉢特摩(まかはどま)の8つの地獄だそうです)。

 江戸時代初期の元和3年(1617年)夏(※『山の伝説』では元
和6年4月になっている)のある日、越前(いまの福井県北部)
から来た山伏小山法師が、室堂にやってきました。ちょうど室堂
に籠もっていた行者の延命坊が、小山法師を連れて地獄谷などを
案内しました。そして、ミクリヶ池にさしかかり「八寒地獄」の
恐ろしさを説明をしました。

 すると、小山法師はカラカラとあざ笑い、「八寒地獄、八寒地獄
というから、どんな凄いところかと思ってきたが、笑止千万。何
ともつまらぬ池よ。まるで種漬け池だ」小馬鹿にしました。そし
て「こんな池なら、泳ぎまわって見せよう」。小山法師は裸になっ
て、懐剣を口にくわえて、ざんぶと池に飛び込みました。

 そして抜き手をきって一周し、得意げに池からあがってきまし
た。「見事でござる。しかし、御坊は口に懐剣をくわえておられる。
やはり魔を恐れているためでござろう」と延命坊はいいました。
「剣、よろしい、それではもう度」といって、剣を預けてそのま
ま飛び込みました。池の中を一めぐり、二めぐり、三めぐりした
ときのことです。

 突然、大波が立ったかと思う間に、池のそこから大蛇があらわ
れ、法師の体を水中に引きずり込んでしまいました。案内説明し
ていた延命坊は哀れに思い「八寒地獄の主よ、小山法師の振る舞
いは、業死も仕方ない罰なれど、人の世の別れにいま一度だけ法
師の顔を見せ給え」と叫びました。

 すると、湖面はふたたび波立って、小山法師の姿がポッカリと
浮いてきました。そして寂しい姿に、心なしか顔にかすかな笑み
をふくめ、ふたたび湖水深く沈んでいきました。以来この池を「三
繰りヶ池」と呼ぶようになったといわれています。ミクリヶ池が
どんな静かな日でも水面が波立っているのはここにすむ主(ヌシ)
のためだそうです。

 そしてミクリガ池の水面はもとも静寂に帰えりました。しかし、
案内をしていた延命坊の心は穏やかではありません。「悪いことを
してしまった」と悔いました。延命坊は小山法師の菩提を弔おう
と考えました。そして下山し、4月10日の日に深い洞窟を探しあ
て、中に入り鉦(かね)をたたきつづけました。

 3年経った同じ4月10日、鉦の音はやみました。延命坊が亡く
なったのです。延命坊の塚は常願寺にあったらしく、1872年(明
治5)の常願寺川の大地震による山崩れ、大洪水のため、塚は押
し流されてしまいました。その時、基標だけは拾われて、いまは
延命坊の後裔にあたる岩峅寺佐伯治重(はるしげ)氏方累代の墳
墓となっているそうです(『山の伝説』昭和5年)。

★ミクリガ池【データ】
【所在地】
・富山県中新川郡立山町町。富山地方鉄道立山線立山駅の東14キロ。
富山地方鉄道立山駅からケーブル、美女平駅からバス、終点立山室
堂平から5分でミクリガ池。地形図上には池名にみ記載。室堂平よ
り北方向直線約430mにミクリガ池がある。

【位置】
・【ミクリガ池】緯度経度:北緯36度34分49.79秒、東経137度35
分50.3秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「立山(高山)」or「剱岳(高山)」(2図葉
名と重なる)

【参考】
・『山岳宗教史研究叢書10・白山・立山と北陸修験道』高瀬重雄編(名
著出版)1977年(昭和52)
・『山の伝説・日本アルプス編』青木純二(丁未出版)1930年(昭和5)
・「山DAS」石井光三(白山書房)1997年(平成9)
・「山と高原地図4・剱立山」石坂久忠(昭文社)
・『日本歴史地名大系16・富山県の地名』(平凡社)1994年(平成
6)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・ゆ-もぁ画家(漫画)
【とよだ 時】

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