山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼408号 「上州武尊山の日本武尊像」

・【概略】
上州武尊(ほたか)山は「ホタカ大明神」という神さまをまつって
いるそうです。この神さまは、北アルプスの奥穂高岳と同じ「穂高
見命・ほたかみのもこと」のことだという。日本神話の日本武尊(や
まとたける)と関係が深く沖武尊(おきほたか)というピーク近く
の川場武尊(かわばほたか)や、前武尊(まえほたか)というとい
う場所にその像があります。山麓には武尊神社もあり、日本武尊伝
説が多く残っています。
・群馬県みなかみ町と川場村との境

▼408号 「上州武尊山の日本武尊像」

【本文】
上州武尊山(ほたかやま)はその名のように上州(群馬県)にあり、
もともとはその地方の地主神であり、山そのものを神とする「ホタ
カ大明神」をまつった山だそうです。この神さまは、北アルプスの
奥穂高岳と同じ「穂高見命・ほたかみのみこと」のことだそうです。

宝高、穂高、保鷹(いずれもホタカ)の字をバラバラに当てられて
いたものを江戸時代になって、「武尊」の山と書かれるようになっ
たといいます。そのせいか、この山の最高峰・沖武尊(おきほたか、
2158m)近くの川場武尊(かわばほたか)や前武尊(まえほたか、
2040m)という場所にも日本武尊(やまとたける)の像があります。
このあたりのふもとには16社もの武尊神社があり、日本武尊伝説が
多く残っています。

昔、ここ武尊山に悪者がはびこり、村人を困らせていたそうです。
それを聞いた日本武尊が討伐に出向いたという。激戦の末、形勢不
利とみた悪者の首領夫人は、「土出」という所に逃げようと山麓の
片品村の花咲集落に向かって山を下りました。しかし、途中で力つ
き、ついに息絶えたという。

そのとき、首領夫人の霊魂が石に取りつき、そこに花を咲かせたと
いう。それを神としてまつった「花咲石明神」が、いまでも花咲集
落中心部にあります。また、本来はホタカは「峰高・ほたか」で、
「ホは突き出たもの、タカは高いで高く突きだした山」の意味だと
いい、山ろくの村人々の「高峰信仰」から来ているという説もあり
ます。

その後(江戸時代)、山の行者たちが修行をするときまつる仏さま
である不動明王(火焔を背負った憤怒像)と、『日本書紀』(巻第七、
景行天皇四十年条)にある、焼津の野火に囲まれた日本武尊の姿に
重ね合わせて、この山を武尊山にしたという。そしてふもとの神社
も日本武尊をまつるようになったのだという説もあります。

「焼津の野火の話」とは、日本武尊が、焼津(やきづ・いまの静岡
県焼津)で賊の策略に合い、野火に囲まれ殺されそうになったが天
叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)でまわりの草をなぎ払い、向か
い火を焚いて難を逃れたという物語。その剣はのち、草薙剣(くさ
なぎのつるぎ)と呼ばれるようになりました。

そのほかに寛文(1661〜73)初年(江戸時代前半)、沼田藩主だっ
た真田氏の侍医・鈴木法橋という人が『古事記』や『日本書紀』を
読んで感動して、「ホタカ」に武尊の字を当てたのだという説もあ
るそうです。深田久弥選定「日本百名山」のひとつ。

▼上州武尊沖武尊【データ】
【所在地】
・群馬県利根郡みなかみ町(旧利根郡水上町)町と群馬県利根郡川
場村との境。JR上越線水上駅からバス、久保から歩いて6時間で
沖武尊。一等三角点(2158.0m)がある。地形図に三角点の標高の
み(沖武尊の山名なし)の記載あり。三角点より東南東の標高点21
44m(中ノ岳)の中間に武尊山の文字がある。

【位置】
・三角点:【緯度経度】北緯36度48分18.8秒、東経139度7分57.26秒
(電子国土ポータルWebシステムから検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「鎌田(日光)」or「藤原湖(日光)」(2図
葉名と重なる)(国土地理院「地図閲覧サービス」から)。5万分の
1地形図「日光−追貝」(国土地理院「電子国土ポータルWebシステ
ム」から検索)

【山行】上州武尊山・沖武尊山・前武尊
・某年5月24日(日・晴れ)上州武尊山探訪

【参考】
・「角川日本地名大辞典10・群馬県」井上定幸ほか編(角川書店)1
988年(昭和63)
・「古代山岳信仰遺跡の研究」大和久震平著(名著出版)1990年(平
成2)
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「日本書紀・巻第七」景行天皇:「岩波文庫日本書紀・2」坂本太
郎ほか校注(岩波書店)1996年(平成8)
・「日本歴史地名大系10・群馬」(平凡社)1987年(昭和62)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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